アンパンマンの心
- 公開日
- 2011/07/29
- 更新日
- 2011/07/29
校長室
この春、東日本大震災の被災地で、アンパンマンマーチがラジオから何度も流れていたというニュースを聞きました。
アンパンマンマーチは、幼い子どもたちが大好きなテレビアニメ「それいけアンパンマン」の主題歌です。大震災からしばらくして、被災地のラジオ局に、このアニメソングのリクエストがたくさんあったそうです。
元気なマーチが、地震や津波で大きな悲しみやつらさの中にいらっしゃる方々を、励ましているというのです。以下に、歌詞の一部を紹介します。
そうだ うれしいんだ
生きる よろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも
なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
こたえられないなんて
そんなのは いやだ
(中略)
なにが君の しあわせ
なにをして よろこぶ
わからないまま おわる
そんなのは いやだ
忘れないで 夢を
こぼさないで 涙
だから 君は とぶんだ
どこまでも
そうだ おそれないで
みんなのために
愛と 勇気だけが ともだちさ
ああ アンパンマン
やさしい 君は
いけ みんなの夢 まもるため
(後略)
アンパンマンは、漫画家やなせたかしさんが三十八年前に作った絵本のキャラクターです。初めて絵本に登場したときから、強くてかっこいいヒーローではありませんでした。彼は、焼け焦げだらけのボロボロのマントを着て、ひっそりと現れます。道に迷い、お腹をすかせて泣いている子どもを見つけると、あんぱんでできた自分の顔を食べさせます。そして、欠けた顔のまま、静かにほほえみながら帰って行きます。やなせさんは、アンパンマンについて次のように書いています。
「あるひ、やきたてのあんぱんをみているうちに、あんぱんのかおをした、アンパンマンのおはなしができました。
アンパンマンはじぶんのかおをたべさせることによって、いろんなひとをたすけます。そのとき、アンパンマンはなくなりますが、アンパンマンのいのちは、たべさせることによっていきるのです。だから、アンパンマンはなんどでもいきかえってきます。あんまりつよくなく、みかけもよくないのですが、アンパンマンはどんなぼうけんもおそれず、おなかのすいたひとをたすけるためにとびつづけます。ぼくもアンパンマンにまけずにおはなしをかきつづけるつもりです。」
(絵本「それいけ!アンパンマン」あとがきより)
アンパンマンは、悪者をやっつける強いヒーローではなく、弱い人や困っている人を助ける優しいヒーローなのです。顔が濡れるだけで力が出なくなってしまうアンパンマンだからこそ、他人の心の痛みやつらさが分かるのかもしれません。
彼の優しさは、ただの弱さとは少し違います。彼は、自分の弱さを認めつつ、勇気を奮い起こして恐れを克服し、弱い人や困っている人を助けようと悪に立ち向かいます。そして、強い意志をもって他人のために全力を尽くそうとします。その究極の姿が、顔を食べさせるという自己犠牲の行為なのです。まさに、やなせさんが書いた「アンパンマンのいのちは、たべさせることによっていきる」ということにつながっていくのです。
東日本大震災で、私たちの想像できないような苦難を体験された方々が、アンパンマンマーチに励まされているというニュースは、私たちに「本当の優しさって何だろう」と問いかけているように思えてなりません。
飛島学園の生徒一人一人に、このアンパンマンの心を知ってほしいと思います。
飛島学園飛島小学校長 小野 隆彦
飛島学園飛島中学校長 位田 学
(飛島学園新聞7月20日号より)