大学日記

8月23日(土)13:30より第5回8月セミナーを開催しました。

公開日
2025/09/02
更新日
2025/09/02

社会連携

8月23日(土)13:30~15:30に、201教室において実施しました。

コーディネーターとして、当研究所シニアフェロー副島 孝先生を迎え、小牧市立米野小学校 河合 佐武先生の国語科の授業を通して「子どもたちの学びを実現」をテーマに学び合いました。

今回は、15名の申し込みをいただき、講師を含め17名の方により学び合いを深めました。


セミナースケジュール

◇前半 提案授業・本日の学びについて

   1.「論理的思考とは何か」渡辺雅子著より、河合先生の授業を考える背景について

     米野小学校の現在・河合先生の授業について

   2.5年国語「銀色の裏地」ビデオ視聴

   3.テーブルでリフレクション

    ・ 授業から学んだこと

   

   - 休 憩 -

◇後半 リフレクション

   1.全体で学びを共有する

   2.コーディネーターより

   3.授業者の振り返り


◇ 提案授業・本日の学びについて

1. 最初に副島先生より、日本の国語教育が持つ「感想の重視」という特異性の理解と、それを踏まえた上での教師の取り組みのあり方について、渡辺雅子著「論理的思考とは何か」を引用して説明がありました。

 またビデオ視聴の前に、米野小学校の授業研究の様子と、本日学ばせてもらう授業について説明がありました。教職5年目となる河合先生が学級を開いて一カ月経たない四月に実施した普段の授業であり、子どもとつくる国語授業を目指して丁寧に取り組んでいる実践であります。


2. 5年国語「銀色の裏地」ビデオ視聴(40分)


3. テーブルでリフレクション(10分)

   授業から学んだことを聴き合う

   

   - 休 憩 -

◇ リフレクション

1. 全体で学びを共有する

< ◎コーディネーター副島先生 〇授業者:河合先生 ●参加者 >

◎ テーブルでの聴き合いから感じられたことをお話ください。

● 私は、授業者の河合先生と同期ですが、授業を拝見して率直に思ったことは、悔しいと感じています。こんなにも楽しく授業ができるのはどうしてなのか。私は、日ごろからどうやって子どもたちの思いを引き出そうかと悩んでいます。ところが、彼の授業は、普段の何気ないおしゃべりのような会話で進んでいく。そんな自然で穏やかなやり取りが河合先生の魅力なんだと改めて感じました。

● 私は中学校の教師です。私は答えのない教科だから国語科が嫌いなのですが、先ほど拝見した授業では、かなりゆっくり、ゆっくり子どもたちが学んでいく姿を見て、みんなで山を登っていく様子が見えました。理解の速い子は文章から考えていく。そうでない子はみんなの話を聞いて、少しずつ納得していく。ゆっくり進む効果は、人の読みを聴いているから分かること、自分の声に出させていることで、その意味が分かっていく。そんな教室の文化が生まれることです。また、音読についても、めいめいの音読の後に、指名読みを入れることで、声に出して読むことと、人の声を聴きながら情景を描くことがあり、なるほどと感心していました。

● 河合先生は、昨年は1年生を担当し、今年は5年生に飛び込みの担当をお願いしているところです。本年度は研究副主任も担当してもらっています。四月ということで、しっとりとした、実の丁寧な手立てをしながら授業をしてもらいました。まだまだ課題の多い米野小学校ですので、こうした授業を広めていただきたいと願っています。

● 私はほかの市から参加しています。こうした学び合う学びの授業を拝見するのは初めてです。四月にこうした授業ができることはすごいなと感じました。子どもたちが楽しく、先生も楽しそうに授業している。

 この教材は、道徳のような読み物資料ですが、子どもは挿絵に注目していました。国語の授業としては、文章に戻したい。そのために言葉にこだわり、子どもたちの読み取りを鍛えていく仕掛けがあると感じました。また、先生の人柄が見えるような授業で、言葉かけが温かくこんなクラス経営がいいなと感じることができました。

● 実はこの子どもたちの中には、昨年の授業中グループの中で、まったく言葉を発することができなかった子どもがいます。ところが、この授業では、ニコニコしながら話ができていた、音読では手を挙げて積極的に参加している姿を見て、びっくりしました。河合先生が一人ひとりを大切にしながら授業をしていこうとして四月をスタートして、子どもたちが安心して学んでいる。四月の終わりにそれが実現しているのはすばらしい。また、誰かの発言を聴いて「あっ・・」と他の子どもに広がっていく様子がありました。これからいっそう、子どもと子どもをつなぐ、また、発言がどこの文章からなのか戻すなど丁寧に進めていくことが大切だと感じました。

◎ はい、ありがとうございました。今、いくつかのことを発言していただきました。お聞きしておもしろいなと思ったことは、「答えがない授業」です。世の中は答えがないことばかりですよね。「挿絵に言及した子どもたちが複数いました」教師の問いが主人公の表情を聴くことがあったことにも関係していたと感じました。

 これからは、河合先生の授業から学んだことをお話しさせていただきます。


2. コーディネーターよりのコメント

① 「ビジュアル・シンカーの脳」を読み、ショック

 学校の評価は、言語能力が重視されている。

 しかし、教室の子どもたちの何割かの人は、絵(画像)で考えている。

 技術者にはビジュアル・シンカーが多い。

 教師は、こうした人たちが教室にはいることを理解しておきたい。

② 言語化できることが現在の学校教育の価値観

 言葉による思考は、つながりがあって一つにまとまっている

 この言語化を苦手とする子どもは、この流れから外れている

 ➡分かっていても、自分の考えをきちんと言葉で表現できない

 ➡整理が苦手で、だらしがない子どもだと思われがち

 ➡だが、多数派の子どもが気づかない視点を示すことがある。

③ 「論理的思考とは何か」渡辺雅子著より

 合理的行為の四種類と4つの領域について

 四分類の中心的価値(目的)と推論の型 (日本は社会領域、共感と哀れみ共感による推理している)について

④ 日本とアメリカにおける作文の構造

 □アメリカのエッセイ

 〈序論〉主張 〈本論〉主張を支持する3つの根拠(事実) 〈結論〉序論での主張を、別の言葉で繰り返す

 □日本の感想文

 〈序論〉書く対象の背景 〈本論〉書き手の体験 〈結論〉体験後の感想=体験から得られた成長と今後の心構え

 アメリカと日本の作文の比較から論理的思考を整理。アメリカの作文構造も戦後の大学の大衆化からはじまった。以上のことから日本は感想文からはじまっている。

⑤ 感想文に始まる日本の作文の論理

・社会領域のレトリックは論証の形を取らない。

・日本で重視されるのは、社会の構成員から「共感されるか否か」である。

・共同体を成り立たせる親切や慈悲、譲り合いといった「利他」の考えに基づく個々人の「善意」が、社会領域の道徳を形成する。

・道徳形成の媒体となるものが「共感」である。

・「感想文」は名前を変えて大学や職場でも書かれており、意見文の書き方にも影響を及ぼしている。

・感想そのものの質を保証するのが「当事者性と切実性」をもって書くこと、

 つまり「自分の生活や生き方とどう関わるか」という視点を持つことである。(国立国語研究所)

⑥ 他者の力を借りることが授業でも重視される

他者の多様な考えや価値観に触れることが、自己の見方・価値観を考え直す機会を与える。

・例えば、国語で学級全体でテキストの読解に取り組ませる。

・それぞれの読み取りを聞き、多様な見方・考え方があることを触れさせる。

・そのために、答えは一義的に決まらない主人公の意図を問う質問をする。

・主人公の言動と共に場の状況や自然の描写に注目させ、主人公になりきって考える方法が採用される。

・主人公の意図の解釈には、解釈する者の価値観が反映されやすく、解釈に紐づいた子どもたちの多様な価値観が示されるから。

・読解の授業は、多様な子どもが集まる教室を「『相互無関心』を許さず『協力と相互交換』を迫る空間にする」(埜嵜志保)

⑦ 感想文がもたらすもの

・感想文で期待されているのは

 個人の体験・感情・生き方を、社会の構成員である他者と共有しうる「共通感覚」として表現すること。つまり、「間主観」――個々の主観が他者との相互の修正を経て、複数 の主観の間の一致を見ること――の表現として提示することにある。

・こうして獲得された道徳観は、社会生活のあらゆる場面で発揮され、社会秩序の維持に貢献する。

・社会秩序の維持という強みの反面、戦略的なふるまいや、駆け引きをするのが苦手で、決断力の欠如が弱みだとの批判もある。

・感想文が育てた心情は、問題解決学習・構成主義教育と親和性がある、と著者は指摘する。

日本の学校が大切にしてきたことが、本日の河合先生の授業で実現していました。

ご参加いただいたみなさんに、本日の振り返りをグループで共有していただきたいと思います。2~3分でどうぞ。


3. 授業者の振り返り

 本日は、ご参加いただき、授業を見ていただきありがとうございました。

まずは、日ごろどんなことを考えて授業をしてきたかをお話しします。教職5年間をとおして感じてきたこととして、従来の一方的に教える授業では、子どもたちは退屈で勉強の苦手な子どもはすごく苦しそうな顔をしていると感じてきました。まずは、私が授業を楽しみたい。その後、その楽しさを子どもたちに還元していきたい。そのために、グループ活動をたくさん取り入れ、机間指導をする中で、この子の考えを取り入れたいと手立てを考え、その場でデザインをしています。そうした授業をするためには、まずは学級が楽しいと感じる必要があります。このクラスとは1学期間しか過ごしていませんが、QUの結果がとてもよくなっています。「授業が楽しくなりました」とか「学級満足度は93%」になりうれしいです。本日、皆さんからいただいたご意見をお聞きして、とても参考になりました。今までやってきたことが間違いではなかったと確認することができました。ただ、高学年にしては、読みが弱いと感じています。高学年では物語文が学期に1回になります。2学期には「たずねびと」という難しい単元があり、挑戦したいと考えています。


参加された方からの振り返りを紹介します。

◆ 今日のセミナーで学習した中で重要だと思ったことは、受け継がれていく学び合いです。

副島先生、河合先生、ありがとうございました。4月の段階で、丁寧に学びの作法を確認しながら授業づくりに取り組む河合先生の姿に感心しました。20年近く受け継がれてきた「学び合う学び」の哲学が、若い先生の中にもちゃんと形として見えるという時点で、米野小学校の学校としての力が確認できました。素晴らしいことだと思います。

副島先生が指摘していた日本とアメリカの論理性の違いも、授業のつくり方にはっきりと表れていました。日本は、時系列を大切にします。時系列をなぞることで作品の中の人物の心情を自分の体験として理解させていきます。結論も大切ですが、そこに至るまでの過程を大切にするからこそ、「察する文化」が育まれるのだと思います。大変興味深いセミナーでした。