日記

先生方の取り組みの成果が形になり始める(長文)

公開日
2016/09/25
更新日
2016/09/25

仕事

夏休み前最後の訪問は、私立の中高等学校でした。

子どもたちがだれやすい時期のため、夏休みの課題を授業中にやらせている先生も目立ちました。以前はそうしないと授業が成り立たなかったのかもしれませんが、今はその必要がなさそうです。通常通りに進めている授業でも、子どもたちは普段と変わりなくよく集中していました。

先生方の授業に対する姿勢が変化したことが先か、子どもたちがよい状態になったことが先かはわかりませんが、授業改善と子どもたちの変化が相互によい影響を与えていると思います。子どもたちが落ち着かないと、どうしても力で押さえる授業が多くなり、その結果子どもたちに強い態度をとらない先生の授業にしわ寄せがくることもあります。そういう先生方のよい個性が活かせなくなるのですが、学校全体が子どもたちに受容的になってきたことで、先生方の個性に合わせた工夫が活かされやすくなってきたのです。先生方の工夫が子どもたちのよい姿となって返ってくるので、授業改善に対するエネルギーも高くなっていると感じました。授業を見てほしいという方や、私と一緒に子どもたちの様子を見たいという方の存在に、元気をいただいています。

高校1年の英語表現の授業では、授業者が子どもたちをほめることを意識していました。
全体での発音練習の場面では、「いいよ」「いいよ」と何度も声をかけることで子どもたちの声を大きくしようとしています。ちょっとしたことですが、こういった声かけがあると子どもたちの参加意欲が高まります。”bird”や”cord”の”r”の発音はなかなか難しいのですが、子どもたちがしっかりと発音できていたのには感心しました。
続いてワークシートの英文を読む練習をしますが、この後のグループでの活動では友だちに教える役割があるので、しっかりと練習するように伝えます。こういった役割を与えること、それを事前に伝えることで子どもたちの練習に対する意欲を高めます。個人で読む練習の時間をかなり取ってから、CDを聞きながら全員で読みます。続いて、CDなしで、子どもたちだけで読ませます。読む練習でこの自分たちだけで読むステップを省略する先生もいますが、このことには注意が必要だと思います。読むのではなく、聞いた音をそのまま繰り返している子どももいるからです。授業者は読む力をつけるためのステップを意識できていました。子どもたちはよく集中して参加していました。
ペアで読む練習をします。聞き手はしっかりと聞いて、相手がつまったりしたら助けるように指示します。聞き手の役割をしっかりと与えています。どちらが先に読み手になるかの指示も最初にします。この指示を省略すると、じゃんけんをしたりして意味なくテンションが上がったり、ムダな時間が増えてしまいます。こういったペア活動の基本がしっかりしていることには感心します。
子どもたちは素早く机を寄せて活動を始めますが、机が少し離れていることが気になりました。しかし、その理由はすぐにわかりました。子どもたちは椅子を回して正面で向き合うのですが、机をピッタリくっつけると距離が近くなりすぎるのです。向き合うための程よい距離を自然に調節しているのでした。体の大きい高校生だからなのですね。それでも離れすぎているペアには授業者がそばに行って近づくように手で指示をします。よく全体を見ていると思いました。子どもたちが身体を寄せ合って、大きな声で読んでいることが印象的でした。
この日は4人グループの練習にバディを取り入れていました。対話をするペアに対して、それぞれを助けるバディが1人ずつつくのです。この日初めてバディを使うので授業者は図を使って説明します。口頭だけで説明するよりもずっとわかりやすくなります。
テキストの登場人物の名前をグループの仲間の名前に置き換えて練習をしますが、それに伴い”she”と”he”が入れ替わったりします。ただ暗唱したり読んだりするよりも考えることが必要です。ちょっとしたことですが、よい工夫だと思います。
1グループで試しにやってみます。実際に見せることで何をすればよいのかよくわかります。子どもたちにわかりやすい指示がいたるところで意識されていました。
子どもたちが4人グループになってから、交代や時間についての説明をしました。早いグループは授業者が説明をする前に活動に取りかかっていました。子どもたちの意欲がしっかり高まっていただけに、ここで説明することは意欲をそぐことになります。グループにする前に説明しておきたかったところでした。
意欲的にやれているグループが多いのですが、一部のグループがうまく動けていません。与えられた時間内で何度もやるように指示はされているのですが、とりあえずやった後、動きが止まっているようでした。この活動の目標が設定されていないことが、子どもたちの意欲の継続しない原因の一つのように思います。
全体でいくつかのグループに発表させます。ちょっと子どもたちが騒がしくなったので、静かにするように注意をします。発表の説明の前に、それまでの活動を完全に止めておくことが必要だったと思います。また、騒がしくなった原因の一つに、聞く側の役割がはっきりしなかったことがあります。ただ聞きなさいでは、集中できないのです。よかったところを発表させるといった活動を組み込むとよかったでしょう。
この日初めての活動もあったため、子どもたちがうまく動けなかったところもありましたが、総じて子どもたちはよく頑張っていたように思います。授業者が基本をしっかり押さえていたこともあり、子どもたちのポテンシャルをかなり引き出せているように思いました。子どもたちが今後どのように伸びていくのか楽しみに思える授業でした。

この日は、何人かの先生とお話しする機会がありました。
物理の授業で、同じようなグループワークをしても、子どもの参加の仕方に学級差があることの相談を受けました。学級運営や子どもたちの集団としての個性も影響しますので、簡単に判断できることではありませんが、わからないところを友だちに聞けるようにすることが大切でしょう。子どもたちの様子を見て、思考が止まっている、どうしていいかわからなくなっているようであれば、まわりと相談するように働きかけることが必要です。また、友だちに聞いたということをポジティブに評価して、価値付けすることも大切です。

先生方が授業に工夫をすれば、必ず何かしらの疑問や課題が生まれてきます。それを一つひとつ解決していくことが授業をよくすることにつながります。まず、動き出すことが大切なのです。上手くいかなければ、また次の対応を考えればいいのです。
先生方一人ひとりの工夫が学校全体に広がって、この学校のメソッドとして定着していくことを願っています。

この学校独自のメソッドが生まれて定着しつつあるのが、英語科のGDMです。担当している先生から、具体的な成果が出てきていることを聞かせていただきました。
私がこの学校を訪問するようになった当時は、アクティブ・ラーニングに取り組み始めたばかりでした。子どもたちを何とか授業に参加させたい、寝てしまう子どもを一人でも減らしたい、そういう思いからグループワークを取り入れ始めていました。「何がポイントで、どこに注意をすればいいのか」「教師はどのようにかかわればいいのか」といったことも手探りの状態でした。訪問するたびに、「ここがうまくいかない」「次にどうすればいいのか」といった相談を受けました。一つひとつアドバイスをしながら、教室の様子の変化を見続けてきましたが、確実に子どもたちの姿は変わってきました。そこで、先生方にGDMという手法を紹介しました。先生方の目指す授業の参考になると思ったからです。参考として紹介することはしても、全面的に取り入れてもらうように働きかけるつもりはありませんでした。この方法を学校に取り入れるにあたっての先生方の負担が半端ないからです。実際の授業を見る機会を2回つくったところ、先生方がぜひ自分たちもやってみたい、挑戦したいと言ってくれました。大変なことはわかっていても、先生方はGDM導入に向かって動き始めたのです。自費で研究会に参加し、定期的な勉強会にも顔をだして、翌年度からの導入の準備を始めました。一人では到底続かなかったと思います。英語科の中にチームが生まれ、協力し合ったからこそ挑戦できたことだと思います。幸いにも、GDMの実践の第一人者が現役引退をきっかけに、全面的に協力してくれたことも大きな後押しになりました。先生方の熱意が伝わったのです。
昨年度の新1年生から全面導入が始まりました。毎時間の準備に多くの時間を割いています。子どもたちの反応に手ごたえを感じていましたが、思うようにはなかなかいきません。どうブラッシュアップしていくか、手探りの状態が続きます。「こんな大変な思いをしてまでやる意味があるのだろうか」といった疑問が何度も湧き上がったことだと思います。入門的な部分は既存の中学校での実践をもとにつくることができましたが、高校の内容については参考になるものがありません。オリジナルでの教材開発です。毎日の授業に間に合わせるだけでも大変なことだと思います。こうして実践を積んでも、本当に子どもたちの力がついているのかという不安はぬぐえません。評価もどのようにするのか試行錯誤を続け、試験の形を大きく変えました。絵を与えてその状況を英語で説明する、”situation”を自分の言葉で表現するといったものです。全く書けずに試験として成立しないのではないかという懸念がありましたが、子どもたちがその不安を解消してくれました。正面からしっかりと取り組んでくれたのです。点数もそこそこ取れていたようです。英語検定の2級では、今回から記述問題が取り入れられたそうですが、2年生で2級に合格した子どもたちは、記述はほぼ満点だったようです。これまでの取り組みの成果が目に見える形になってきました。先生方の不安が少しずつ自信へと変わってきました。それは、子どもたちの自信へとつながっていきます。
入学者募集のために、英語の授業での子どもたちの様子や成果を紹介する手書きのチラシも作成しました。子どもたちがどんな力をつけたのかがよくわかります。この学校のメソッドとして世間に誇れるものができつつあるのです。
GDMと直接関係のない英語の授業でも、この影響は出ているように思います。ある英語の授業では、授業者が説明している場面では子どもたちの反応は薄く、板書を写すことに意識が向いていましたが、授業者がGDMを意識して、英語の表わす”situation”を演じてみせると、一気に集中は上がりました。互いの工夫がよい形で影響し合っています。
英語科だけではありません。他の教科も日々工夫をしてこの学校のメソッドと言えるものができつつあります。各教科で英語と同様の紹介チラシをつくるという企画も上がっているようです。是非実現してほしいと思います。

広報の担当の先生とも話をしましたが、受け身で仕事をしている様子はかけらもありません。今自分たちの学校で起こっていることを多くの人に知らせたい。自分たちの学校のよさを、胸を張って伝えたい。そういう思いが行動に溢れています。自らの人脈を使って学校の今を伝えるラジオ番組も実現させました。公立学校では異動がついて回りますが、私立校ではそれはありません。自分たちの学校という意識が醸成されます。それがよい形で表れていました。

校内の研修のやり方も昨年と同様という発想がなくなりました。学校の現状に合わせて最適なものを考えようとしています。今年度は、先生方の授業公開を3日間行うことになりました。教科ごとに何人かの先生がテーマを決めて授業公開をし、教科を越えて互いに見合うのです。時間割変更をしないで多くの先生が授業を見られるように3日間とったのです。個々の先生の工夫を見あって学び合うよい機会になると思います。

先生方の授業改善の取り組みが広がり、それが成果として目に見えるものになってきています。この学校のこれからがとても楽しみです。