日記

算数の授業アドバイス(その2)(長文)

公開日
2012/07/04
更新日
2012/07/04

仕事

昨日は、引き続き小学校の算数の授業アドバイスをおこなってきました。

2年生は引き算の筆算の場面でした。2桁同士から3桁の数に拡張していく場面です。授業者は教科書を黒板に実物投影機で映しだしました。子どもたちの顔をあげたいという思いです。子どもたちのこういう姿を見たいという思いを持つことはとても大切なことです。しかし、教科書を映す前に今日は○○ページを学習しますと、教科書を開かせてしまいました。そのため、子どもたちはどうしても手元の教科書を見てしまい、顔が上がりません。黒板に集中させるためには、必要になるまで教科書を開かせないことも大切なことなのです。
0から9のカードを使って2桁の筆算の問題をつくる課題では、子どもたちに問題をきちんと把握させずに、いきなり、教科書のキャラクターの言葉を読ませ、その説明を求めました。挙手をした子どもを指名しましたが、うまく説明できません。子どもの言葉を理解しようと聞き返すのですが、よくわかりません。そこで、子どもたちに「賛成の人」と助けを求めました。子ども同士をつなごうとするよい姿勢です。ところが、誰も手を挙げませんでした。続いて「違うと思う人」と聞いてしまいました。たくさんの手が挙がりました。ここですぐに他の子どもに意見を求めました。この子どもの発言も不十分だったのですが、活かせそうだと判断して他の子どもとつなぎながらまとめていきました。授業者は最初の子どもを直接否定はしてないのですが、「違うと思う人」と聞いてしまうことで、結果的に否定してしまいました。これでは子どもの意欲は落ちてしまいます。
ここでは、「もう一度言ってくれる」「ちょっと待って、それってどういうこと」と子どもの言葉を短く区切りながら整理させ、まず全員でその内容を理解する過程を踏む必要がありました。その上で、活かせそうになかったら、「なるほど、そう考えたんだね」と認めて、他の子に意見を求めればよかったのです。あえて、否定する必要はなかったのです。
また、教科書のキャラクターの言葉をいきなり読ませましたが、教科書は子どもたちからその考えがでなかったときや自習することも意識してこのような構成になっています。できれば子どもたちからその言葉を引き出すようにしてほしいと思います。デジタル教科書では消すことができますが、実物投影機を利用するのであれば、白い紙でその部分を覆っておけばいいのです。ちょっとした工夫をすることで授業は大きく変わっていくと思います。
この時間の主たる課題である「筆算の仕方を考える」について、教科書は「筆算の仕方をもとに考える」と考え方の方向性を示しています。しかし、授業者は子どもに考えさせるのではなく、筆算のやり方の手順を一つひとつ子どもに確認し、その後、すぐに練習に取り組ませました。解答の解説の場面でも、子どもに発表させたのは手順です。最初に「筆算の仕方を考えよう」と課題を提示したのに、考えることや仕方を整理することはなく、解くための手順を言う、問題を解くという作業に終始しました。これでは、考えることは手順を覚えることになってしまいます。
ここでは、教師がピンポイントで発問するのではなく、「筆算ってどうやるんだっけ」と子どもに問いかけ、できるだけたくさんのポイントを子どもから出させる。その上で、「じゃあ、この問題やれそう」と子どもが見通しを持てたことを確認してから、解かせるとよいでしょう。解答、確認の場面では、子どもたちからでたポイントの何を使ったのかを意識させます。その上で、「今までの勉強したことを使って、新しい問題(3桁の問題)を解くことができたね。すごいね。みんなよく『考えた』ね」と評価するのです。
子どもをつなごうとする姿勢の見える授業でした。この授業で子どもの何をつなげばよいのか、そのために何を問いかければよいのかを意識すると、とてもよくなっていくと思いました。

6年生はかなりレベルの高い文章題の演習場面でした。昨年より、グループで演習をすることに挑戦されているということで、参観することをとても楽しみにしていた授業でした。
まず、答だけを確認した後、子どもたちに困っている問題を聞きました。子どもたちは、恥ずかしがらずにしっかり手を挙げます。とてもよい姿です。多くの子どもが最後の問題で困っているようなので、この問題を授業では取り上げることにしました。
授業者は子どもに問いかけながら進めています。子どもの反応を拾う力もあります。それだけに、子どもの言葉を受けて説明しすぎるのがもったいないと思いました。教師が説明するため、できている子、わかっている子は集中しては聞きません。わかっているから聞かなくていい、自分の出番はないからつまらない、そんな子どもの気持ちが見て取れます。ここは、教師が説明せずに、できている子どもにヒントを出させる、最初に何をやった、どんなこと考えたと初手を言わせる。その言葉を手掛かりにして子ども同士をつなげていく。こんな進め方に挑戦してほしいと思いました。優秀な子どもたちですから、きっと応えてくれると思います。
授業者は類題に気づかせ、その問題を図を使って解いていくことで、解決の糸口を見つけさせようとします。図が示されると、「あっ」「そうか」「わかった」というつぶやきが漏れてきます。子どもたちが動き始めました。授業者は、その上でもう少し説明を付け加えていきました。多くの子どもが反応しだします。このときには待ちきれなくて自分で問題を解こうとしている子も出てきています。そこで、授業者は説明を止めて、この先を自分たちでやるようにグループに戻しました。どのグループも一気に話し合いに集中しました。自分の説明でここまで子どもがよい反応をしてくれると、教師は一気に説明を続けたくなるものです。そこを、グループに戻す判断ができるのですから素晴らしいと思いました。ただ、最初に子どもたちが反応した段階で、子どもたちに気づいたことを言わせ、その気づきを広げていき、その時点でグループに戻せば、子どもたち自身でより多くのことに気づけたと思います。
この後の全体での追究場面では、2つの図が出てきました。比の基準を何にするかの違いです。それぞれに説明させ、「同じ図を書いた人」と問いかけ、子ども同士をつなぎます。ほとんどの子どもがどちらかの図をかけています。ここは、一気に深める場面です。「同じだ」という声も何人から出ています。この「同じ」という言葉、2つの図の「違い」を焦点化してほしかったのですが、そこまでは残念ながらできませんでした。2つの「違う」図を「同じ」だという意味がわかれば、何を基準にしたかの違いだけで関係は同じことに子どもたちが気づけるはずです。
ここは、「えっ、同じなの。2つの図は違うと思うけど」と子どもに問いかけて、説明させる。それが難しそうなら、「ねえ、この図の1て何が1なの」と問いかけてみるのもよいでしょう。ちょっとした働きかけで、流れは変わったと思います。
また、比における基準のように、意識すべきキーワードは、学年を越えた共通のものとしていつも子どもたちに問いかけることが大切です。色々な場面で同じキーワードが使われることで、子どもたちは基本となる考えを身につけていきます。
その後グループで、できなかった問題を教え合うことになったのですが、子どもたちのテンションの高さが気になりました。グループではなく、ペアや違うグループの仲のよい子と教え合っています。また、わからない部分を聞いてその部分を理解するというよりは、答の図や式を教えてもらっているというように見えます。一方、自分一人で解きたい子は話し合いに参加しません。これでは、グループ活動は崩れていきます。
グループの活用の場面は、全員で同じ問題を解く場面と個別に問題を解く場面の大きく2つ分かれると思います。
前者の場合、できる子がすぐに解いてしまい、みんなに教えて終わってしまうような課題ではあまり意味がありません。高めの課題を与える。行き詰まっているグループがあれば、一旦グループ活動を止めて、全体の場で、「どんなことをやってみた」と過程を共有し、その上で再びグループに戻す。できてしまったグループには、「全員が説明できるようにしてね」とさらなる課題を与える。説明の場面は途中で困ってもいいので、できる子にはあえて指名しない。説明につまれば、そのグループの子どもたちが助けるようにする。こんなことを意識するとよいでしょう。
後者の場合は、個別であっても、わからなかったら友だちに聞いてもいい、聞かれたら友だちがわかるまでしっかり教える。自分で解きたい子もいるので、聞かれないのに教えることは絶対しない。こういうルールを明確にしておくことが大切です。たとえ自分で次の問題を解きたいと思っても、友だちを助けることを優先するように指導してほしいと思います。また、聞く方も、ただ「教えて」ではなく、「ここがわからないから、教えて」と聞けるようになってほしいものです。
どのように聞く、どのように説明するといったグループ活動で必要な力は、グループ活動の場面だけではなく、全体追求の場面で鍛えておくことが大切です。「困っていることは何?」「何かいいヒントはない?」「どの言葉でわかった」「どの説明でピンときた」などと教師が問いかけ続けることで、子どもたちは自然にその力を身につけていきます。
また、先生方からは子ども同士で考えさせると時間がかかるので、教師が教えた方が結局効率的ではないかという疑問も出されました。解くべき問題を精選すること。最後まで解かずに、図にするところまでで止めるやり方もあること。そこから先は宿題にしてもこの学校の子どもたちなら自分で解く力があることなどをお話しました。

1年生は、引き算の問題をつくる場面でした。図の中から7−2となる問題をつくるという課題です。教科書の例は「ちょうが7ひきいます。ちゃいろいちょうは2匹です。しろいちょうはなんびきいますか」というものです。授業者は、図は使わずに、わかっているものは何、聞いているもの何と、問題を解く視点でこの例を子どもたちに分解させます。例を素早く終わると、次はわかっているところを与えて、最後の聞いているところをつくる問題です。ここで、教科書を振り返り、今までやった引き算の問題の聞いている部分を整理しました。「のこりは・・・ですか」「ちがいは・・・ですか」「・・・多いですか」といった言葉を使えばいいこと、最後は「か」で終わることを押さえ、こういった言葉を使えばいいと教えました。
残念ながら、教科書を正しく理解していません。授業者は算数の問題を解くために、言葉と演算を直接結びつけようとしているのです。こういう指導をすると、残りという言葉があれば引き算という、とんでもない発想をする子どもが育ってしまうのです。そうではなく、この問題で聞かれているのは図でいうと、これからこれを引いた残りの部分だから、引き算だという発想をしてほしいのです。ここまで教科書の引き算の問題は文章だけのものはありません。必ず図が一緒にあります。その意味をわかっていないのです。引き算などの演算と言葉を直接結びつけることは絶対にしてはいけません。言葉が表している事象や状態から、これは引き算になると理解することが大切なのです。算数の概念形成の段階では、式は図(具体的な事象)と結びつけなければいけません。文章に示されている数は図のどこに表れているか、求めるものは図のどの部分を指しているか。そして、その関係からこれは○○算になるという思考をすることが大切なのです。逆に式の数が図のどの部分になっているのかを確認したりすることで、数、式、図、言葉を子どもたちが自由に行き来できるようにするのです。
ここまで教科書は、「残り」を基準にして考えています。「違い」はブロックなどを使い、「残り」を求めればよいことに気づかせています。ではこの時間の課題は何を考える課題なのでしょうか。引き算になる事象を図から探し、それを言葉にすることで、図や式と言葉を結び付けることをし、今まで引き算を表す言葉を限定していたものを拡張していく課題なのです。ですから、例は「残り」も「違い」も使っていません。今まで引き算を表すキーワードだったものを使わずに、「しろいちょうはなんびきですか」と聞いているのです。キーワードがなくても、言葉が表す事象を考えることで演算が決定できることに気づかせるのです。この例文は算数の引き算の問題としては不適切です。正しくは「しろいちょうとちゃいろいちょうがあわせて7ひきいます」となっていなければいけません。それをあえてしていないのは、子どもにそれを求めていないということです。要は図を見てわかればいいのです。ですから、この課題で図を見ずに言葉だけで授業が進んでいくことはあり得ないのです。教科書はそこまで考えてつくられているのです。
授業者は、この例が算数の問題としては不適切だということに気づいていました。また、聞いている部分が今までのキーワードと違うのでしっくりきていませんでした。これまでの指導とずれていることが嫌だったので、できるだけ軽く扱いたかったようです。そこに気づけるのですから、もう1歩だったのです。それができなかったのは、問題を解くことにばかり目がいって、算数の概念形成という本質を見落としていたからです。教科書の意味することを理解できていなかったのです。パターンや手順で教えれば目先の問題は簡単にできるようになります。しかし、それではやったことのある問題しか解くことはできません。思考力は育ちません。残念ながらこの授業だけではなく、私が目にする算数・数学の授業の多くはこのことに気づいていないのです。
検討会では、先生の中から、この授業は黒板に教科書を実物投影機で映して、図と対応させながら進めればいいという意見が出ました。その通りです。それを受けて、授業者は、図でばらばらに配置されていて物は子どもがうまく整理できないので、図の物の上にブロックを置いて、それを移動して整理させればいいですねと、とてもよい発想をしてくれました。言葉の違いに気づける感性、ちょっとしたヒントから子ども目線の展開をつくりだせる発想力。とてもよいものを持っています。教科書を読みこみ、視点を少し変えれば大きく進歩すると思いました。最後に、「ブロックの移動は教師ではなく、子どもにやらせるといいですね」とアドバイスをして終わりました。

また、多くの授業で共通して気になることとして、宿題の答え合わせを授業の最初にしていたことがあります。ただ答を子どもが順番に読みあげて○をつけているだけで頭を使っていません。授業の一番よい時間を無駄に使ってしまっているのです。できるだけ早く済ます工夫、思い切って授業時間外で○つけをするといった工夫をする必要があると思いました。

検討会終了後、校長、研修部の先生方とこの2日間で気づいたことについてお話させていただきました。朝礼前の教室、放課中の廊下や運動場、登校、掃除、教室移動の場面での子どもの姿から多くのことに気づけました。子どもたちの持つポテンシャルの高さとそれを活かしきれていないことを先生方にお伝えしました。どなたもとても真剣にこの学校の方向性について考えていただけたように思います。

多くの先生が、時間を割いて授業を参観してくださいました。また、授業が終わるとすぐにたくさんの質問をいただきました。これほど多くの質問をいただいたことは経験がありません。次回は先生方の疑問や質問をもとに全体に対してお話をさせていただくことになっています。どのような質問が寄せられるかとても楽しみです。先生方の前向きな姿勢に応えられるようなお話をできるようにしたいと思います。次回の訪問が今からとても楽しみです。