研修を楽しむ
- 公開日
- 2012/08/28
- 更新日
- 2012/08/28
仕事
昨日は、市の研修会で講師を務めました。2日間の第2日目です。この日のテーマは話し合いでのつなぎ方の工夫でした。
最初に、私から話し合いをうまく進めるための教師に役割について少しお話をさせていただきました。
教師の役割として意識してほしいことは、まずは教室の人間関係づくりです。教師と子ども、子ども同士の関係をつくる必要があります。そのためには、話すことよりも聞くことを大切にします。教師が子どもの言葉をしっかり聞き、受容することで教室に安心感が生まれます。子どもたちが互いの言葉を聞き合うことを目指さなければなりません。
次に意識してほしいことは、「必然性のある課題、発問をどうつくるか?」「子どもの言葉、反応をどう活かすか?」「何をどうつなぐか?」といった、攻め、受けと切り返し、そしてつなぎです。教師から一方的に課題を与えるのではなく、子どもに疑問を持たせ、子どもが考えたいと思うような課題を工夫する必要があります。その上で、子どもの反応をしっかり受け止め、認め、そして一人ひとりの考えを全員で共有するための働きかけをすることが大切になります。
もう一つ大切になるのは、教師がすべて自分で説明し対応しようとしないことです。教師の役割は教えることばかりではありません。時には、思い切って子どもたちに委ねる勇気も必要です。問題を焦点化する、課題を子どもたちの共通のものにするといった働きかけを通じて子どもの学びを支えることで、教師が思った以上に子ども同士で課題を解決できるのです。
私の話の後、3つのグループでそれぞれの代表がおこなう模擬授業の検討をおこなってもらいました。どのグループもとてもよい雰囲気で進んでいます。内容は算数のグラフの読み取り、保健のお酒の問題、数学の連立方程式とバラエティに富んでいます。そのせいか、教師の問いかけや子どもの言葉のつなぎ方にこだわっているグループ、教科書を読みこみながら課題や発問にこだわっているグループ、授業の流れや構成にこだわっているグループと、それぞれ論点が異なっているのが印象的でした。グループでの様子を見て、模擬授業がどのようなものになるかとても楽しみになりました。
算数のグラフの読み取りの模擬授業は、グループ活動での子どものかかわりや子どもの言葉を引き出すことを意識したものになっていました。最初に私が話をしたことをぎこちないながらも早速取り入れようとしていました。素直な先生です。このような姿勢の方は必ず伸びていきます。
授業者は課題把握の場面で、子どもをうまく活かせませんでした。問題文を読んでどういうことかわかったかと問いかけたときに、多くの子ども役は反応できませんでした。そこで、課題の資料やグラフに関して子ども役にいろいろと問いかけながら説明をしました。しかし、最初の問いかけでうなずいていた子ども役がいたのです。その子ども役に説明させることで、違った展開になったはずです。
課題となる、「提示された円グラフがどの資料のものか」の理由を書く場面では、その後のグループ活動の展開を意識してできるだけたくさん見つけさせる必要があります。しかし、特に指示をしなかったため、1つ書いて終わっている子ども役もいました。
グループ活動の場面では、活動に必然性を持たせるために「友だちの考えを自分のものにしていい」という指示を出しました。内容的にはよいのですが、この表現では、意見を言った子どもは考えをとられるというネガティブな感覚になります。ここは、「いいなと思う意見があったら自分のにつけ加えてね」といった表現の方がよいでしょう。友だちがつけ加えるのは、「いいな」と思ったからで、これはポジティブな評価になります。
全体での追究で、子ども役の説明がうまく伝わらなかったときに、他の子どもにつないで説明させようとする場面がありました。とてもよいことです。残念だったのは子ども役が前で説明しているときに、もっぱら教師が聞き役になってしまい、発表者と教師の2人の世界に入ってしまったことです。子どもたちに向かって説明するように指示し、説明を聞いている子どもたちの反応を見ながら、発表者と他の子どもをつなぐことに徹する必要がありました。
授業者が子どものかかわりや言葉を活かすこと意識して模擬授業をしてくれたので、とても学びの多いものになりました。
2つ目の保健の模擬授業は、教科書の資料をどう活かすかについて考えさせてくれるものでした。小学校6年生でお酒の害について考えるものですが、この授業の課題を何にするかがポイントです。事前のグループでの検討会でも話題になっていました。教科書の資料から、授業者は「まわりの大人にお酒をすすめられたらどう断るか」を課題にしました。その前提となる知識は与えておいて、教科書の「一家団らん(お正月?)でおじいちゃんがお酒を子どもに勧めている」さし絵をもとに、どう断るかを考えさたのです。残念ながら子ども役の様子からは自分の課題になっていません。なぜなのでしょうか。それは、この状況が子どもにとって切実感がなかったことがあります。お酒の害についての知識を与えたことは、「子どもは、お酒は絶対に飲んではいけない」ことを明確にするためです。この部分は絶対に揺らいではいけません。その上で、教科書の「中学生がお酒を飲んだきっかけ」の資料をもとに考えさせなければいけなかったのです。授業者はこの資料を読みとらせようと少し時間をとっていましたが、時間をかけずにお祭りなどの行事や家族の団らんでまわりの大人から勧められた事がきっかけだったことを確認し、なぜ断れなかったかに焦点化すればよかったのです。「絶対飲んではいけないことがわかっているお酒を飲んでしまったのはなぜだろうか?」と焦点化することで、子どもから、よく知っている大人だから、楽しい雰囲気を壊したくなかったから、・・・「断り切れなかった」という言葉を引き出す必要があったのです。そうすることで、「どう断ればいいのか」が子どもたちの課題として認識されるのです。課題に入る前の段階で、子どもたちを揺さぶっておく必要があったのです。とはいえ、このグループは前回もそうでしたが、教科書を非常によく読み込んで課題を考えていました。教科書の飲酒のきっかけの資料がなぜここにあるのか、なぜ中学生の資料なのかと細かいところまで検討していました。こういうベースがあっての模擬授業の提案でしたので、私もこの教材の課題がどうあるべきかについて深く考えることができました。
最後の模擬授業は、連立方程式の応用で「さっさ立て」(30個の碁石を「さっ」と声をかけて1個または2個取り、それぞれを決められたところに置く。これをかけ声だけを聞いて何個ずつに分かれたかを当てるもの)を扱うものでした。
ホワイトボードでカラーマグネット(色つきの丸い磁石)を使って実際に操作することで視覚的に課題を理解させる。代表の子どもにやらせる。といった流れは、オーソドックスですが、指示が明確でなければなかなかスムーズにはいきません。その点授業者の指示は明確で、実に自然に進んでいきました。最初に指名した子ども役は、しばらく考えていましたが見事に正解しました。通常の授業では、いきなり正解しそうな子どもは指名しませんが、模擬授業ではこのようなことが起こってしまいます。授業者がどう進めるかとても興味がわくところです。授業者はその理由を代表の子ども役に確認します。その説明で納得できたかとつなぎ、他の子どもにもう1度説明させました。ここで、教師が説明したくなるところですが、そうはせずに、石の個数をかえて他の子どもに挑戦させました。教師が説明するより、子ども自身で納得する時間を大切にしたのです。
連立方程式で解く場面では、指名した子どもに未知数を決めさせます。ここで指名された子ども役はマグネットの数を未知数にしました。じつは、どちらに何回置いたかの方が式に分数がでなくて扱いやすいのですが、ここでも授業者はあえてそのままにしました。子どもの考えをできるだけ活かそうとする姿勢は立派です。授業者はつなぐことに徹し、模擬授業は子どもの言葉で進んでいきました。見事でした。この姿勢で授業を続けていけば大きく伸びていくことと思います。
授業者からは、個人追究をいつ止めたらよいかの判断に迷うという質問が模擬授業中に出てきました。なかなか途中で自らこのような質問はできません。このことにも感心しました。模擬授業で授業者がこのような質問ができると、互いの学びは大きくなります。
早くできる子どもに対するさらなる課題をあらかじめ準備しておくこと。
できていない子がいるからといたずらに時間を延長しても、手がついていない子どもができるようにはならないこと。
逆に、次へ進めると思っていた子どもが延長されてだれてしまうこと。
それよりも、手のつかない子どもを他の子どもにつないで、たとえまる写ししても活動させること。
まる写しで終わらせないために、発表の段階では常に根拠を問うこと。
こういうアドバイスをさせていただきました。
最後のまとめの時間にもとてもよい質問をいただけました。2日間の研修をとても楽しんで進めることができました。また、皆さんが準備してくれた模擬授業とその教材に触れ、私自身もその教材への理解が深まりました。参加された皆さんはどのようなことを学ばれたのでしょうか。終始笑顔があふれる研修でしたので、きっと多くのことを学んでいただけたのではないかと勝手に想像しています。とてもよい機会をいただけたことに感謝します。ありがとうございました。