教科書を理解することの大切さを感じた授業(長文)
- 公開日
- 2012/11/26
- 更新日
- 2012/11/26
仕事
先週末は、算数の授業アドバイスをおこなってきました。5年生、4年生それぞれ2学級と、6年生の研究授業です。
5年生は2学級とも音声計算練習(ペアで一方が声に出した答えを他方が確認し、決められた時間で何問できるか評価する)をしていました。おもしろかったのは、子どもたちの取り組み意欲に少し差があったことです。一つの学級は子どもたちが向き合っています。相手の答えにうなずいている姿も見えます。終わった後、前回よりも進歩したかどうか聞いたりして、子どもたちをしっかりとほめています。子どもたちはとても意欲的な姿を見せてくれました。一方、もう一つの学級は、互いに正面を向いたまま取り組んでいます。向かい合っている学級では子どもの体は前のめりですが、この学級では体がやや反り気味の子どもが目立ちました。また、何問できたかを聞くのですが、ほめる言葉が少ないせいか子どもの反応はやや薄いようでした。子ども同士のかかわりをつくることと、少々オーバーでもいいので、子どもをしっかりほめることを意識するとよさそうです。
とはいえ、どちらの授業者も子どもを受け止めることは意識されていました。あとは、具体的にどうすればいいかを経験していくことで進歩していくと思います。
授業は2つの学級とも、0を含む標本の平均の場面でした。教科書の前時は、グラフから平均を「均(なら)す」イメージで理解させるようになっています。本時は、月曜日から金曜日の図書館の本の貸し出し数の平均を考えるようになっています。ここで本という具体的に操作しやすい物にしていることに注意をしてほしいところです。本を積んで、実際に均す操作をさせると、0も平均に加えるべきだと気づきます。この問題で平均は5.2冊ですが、0冊以外の日はすべて5冊より多くなっています。均す操作をするときに移動させるのが0冊の場所だけになるようにしているわけです。このことからも、操作をさせたいという教科書の意図が見えてきます。5冊で均すと1冊余ります。この1冊をどう考えるかも大切なところです。前時では、小数が出てきません。初めて平均が小数になります。本が5.2冊はおかしいという子どもがいるはずです。四捨五入して5だという子どももいるはずです。子どもたちからこういう言葉を引き出して考える必要があります。そのため教科書では、平均を使って予測をする問題とペアになっています。予測することを通じて平均の意味を考え、小数の必然性に気づかせるのです。平均は期待値とも言われます。その意味がよくわかる課題です。授業者は、残念ながら押さえるべきポイントを外していました。子どもがしっかりと授業に参加しようとしていても、ポイント外してしまえば学びは少ないものになってしまいます。
4年生は四角形の性質の授業でした。1つの授業は平行四辺形の復習から対角線の導入、もう1つは対角線の性質の導入でした。平行四辺形の復習場面ではICTをうまく使っていました。スクリーンに平行四辺形を映しだし、平行四辺形になる条件を全員に言わせます。いわゆるフラッシュカードとしての使い方です。子どもたちは元気よく答えます。授業者から子どもたちをほめる言葉がどんどん出てきます。子どもたちはとても意欲的に取り組みました。この場面だけでなく授業者が子どもをポジティブに評価する場面がとても増えていました。ただ、テンションが上がりすぎる子がいたり、逆に自信を持って言えていない子がいたりしたときに、まだ対応ができていませんでした。子どもの状況に応じてリズムを変える、列でいわせる、個別に指名するなどの対応を身につけてほしいと思いました。
授業規律も以前よりもずいぶんしっかりしてきました。その秘密はすぐにわかりました。子どもへの指示が明確になったこと。できるまでしっかり待てるようになったこと。できない子どもを注意するのではなく、できた子どもをほめるようにしていること。こういうことができるようになったのです。残念だったのは、ノートに写し終わった子どもに、静かに顔を上げて待つように指示した場面でのことです。写し終わった子どもは次々とよい姿勢で待っています。最後の一人が少し遅かったのですが、どの子も落ち着いて待っていました。このあと授業者はすぐに進めてしまいました。待っていた子どもたちをほめる、待ってもらっていた子どもに「待ってもらえてよかったね」と声をかけるなどしてほしいところでした。ともすると、待っていた子どもは、「あの子が遅いせいで待たされている」と遅い子どもに対してネガティブな感情をもつことがあります。「みんな待っていてくれてありがとう」とほめることでネガティブな感情を消すことができます。遅い子どももみんなが待っていてくれたことを意識することで、友だちに受容されていると感じると同時に次からは早くしようという気持ちになります。
また、定義と性質の違いがあいまいな表現をしていたことも気になりました。「向かい合う2組の辺が互いに平行な四角形」を平行四辺形といいます。これが定義です。「向かい合う1組の辺が平行で長さが等しい四角形」は平行四辺形になります。これは性質です。この区別をつけずにすべて「なります」でした。間違いではないのですが、この違いはどこかで押さえるべきだと思いました。
対角線の導入の授業は、同じ形の2つの三角形を組み合わせて四角形をつくり、その中で平行四辺形となるものを選ぶ課題でした。授業者はグループで平行四辺形となるものをつくらせ、それが平行四辺形になることを説明するように指示しました。発表場面では指名された班長が定規を使って辺と辺が平行になることを説明しようとするのですが、定規が大きいこともありなかなかうまく扱えません。そこでグループの子どもに助けるように声をかけました。よい対応です。子どもたちは苦労しながら挑戦します。他の子どもも真剣に見ています。しかし、なかなか進まないので見守っている授業者も余裕がなくなります。よい笑顔がいつの間にか消えてしまいました。ちょっと残念です。結局授業者は各自で平行の示し方を考えるように指示しました。発表者とつながっていた子どもたちでしたが、この指示で関係が切れてしまいました。発表者を見ることを止め自分でやり始めます。代わりにやってくれる人と言ったところ、勢いよく何にもの手が挙がりました。発表者のグループに授業者は声をかけましたが、彼らはダメだったとがっかりしているようでした。せっかく子ども同士がつながっていたので、「だれか助けてくれる人」と呼びかければうまく進んだように思います。
根本的な問題は、この場面は何を押さえるべきだったのかです。四角形を作るには、「同じ」長さの辺同士をくっつけないといけない。この同じ辺が、四角形の対角線になっている。「同じ」形の三角形だから同じ長さの辺は3組ある。でも、ひっくり返してもいいから、全部で6個できる。「同じ」を押さえて四角形を作ることが大切です。その上で平行四辺形になるものを選ぶときに、前時までに学習した平行四辺形の性質を使うことを意識させる必要があります。定規を使って平行を示すこともよいのですが、それがこの時間の中心の活動でありません。失敗で終わらせないようにしようというのとてもよいことですが、そこに時間を取られすぎてしまい、ねらいとする活動ができなくなってしまいました。
子どもを受容する姿勢はできてきているのはとてもよいことです。ただ、子どもが思ったように動かないとどうしても余裕を失くしてしまい、表情も硬くなってしまいます。教材研究の裏付けが必要になるのです。
6年生の研究授業は、表を使って問題を解くことの2時間目でした。表を利用して、俗にいう、つるかめ算を解くことが課題です。
表つくりは、前時は0から埋めるものだったのが、本時は真ん中の値から始めます。この扱いが検討会でも話題になりました。事前の検討では、どこからスタートしても、きまりを見つければできるということがポイントだという結論だったようです。授業者は天下り的に真ん中の値から表を埋めるように指示したのですが、そのポイントを整理することはしませんでした。真ん中の値から表を作ったので、子どもたちはその値を増やすか減らすか迷っていました。とても面白い場面です。授業者はここで作業を止めて、このことを問いかけました。よい進め方です。説明できる子を指名して、子どもから言葉を引き出そうとします。子どもの言葉を受容し、問い返し、丁寧に対応していたのはとてもよいことです。しかし、子どもから言葉を引き出した後は、安心して自分が話し始めてしまいました。引き出した子どもの言葉を他の子どもが理解したか確認することや、その言葉を聞いてどう考えたか聞くといった、つなぐということをしませんでした。結局多くの子どもは、友だちの説明の根拠を理解せずに、最終的に教師が認めた「値を増やしていく」という結論を受け入れるだけでした。
グループでの活動も、式と答が書けて止まっているグループと、行き詰まっているグループとに分かれました。発表も式を書かせ、その意味を言葉で説明させるだけで表と式を結びつけることはしませんでした。子どもたちのノートには、式と表が別々に書かれているだけです。表のどの部分がいくつになればよいのか。この式は表のどの部分を求めているのか。どこにも残っていませんでした。
問題点は、前時の学習と本時の学習が全くつながっていないことでした。前時では、変化するものをみつけ、それを表にして、求める値になるときを表から見つければ問題が解けること。表を全部埋めなくても、表のきまりを見つければ求める値が見つかること。表のきまりは、値を増やしたり減らしたりして、それに伴って何がどのように変わるかに注目すると見つけやすいこと。これらのことが押さえられていることが必要です。この単元のねらいを明確にしていないために、前時と本時が表を作るという共通点だけで、何もつながっていなかったのです。
ベテランの方が何名か意見を交換しながら見ていました。私もつられてその輪の中に入ってしまいました。ベテランがこういう場面で積極的になるのはとてもよいことです。若手の方もそばにいたのですが、余り声をかけることができませんでした。失礼なことをしてしまいました。次回は若手の方ともっとお話するようにしたいと思います。
検討会では、真ん中の値から表を埋めること、グループ活動の課題や進め方が話題になりました。
ここでは、どこから表を埋めてもきまりを見つければよいということを意識させればよいのですから、あまり最初の値にこだわらない方がよいように思います。それよりも、大きな表を書いて、「どこから埋めよう?」と問いかけて、それぞれに挑戦させた方がおもしろいように思いました。これならば、値を増やしても減らしても困りません。大切なことは変化を意識してきまりを見つけることだと気づけます。
また、課題解決は表を作ることで何がわかるか、どこの値がわかればいいかを意識させることと、表のきまりを見つけることでその値が見つかるという2つのステップを意識するとよいと伝えました。最初から2ステップに分ける必要はありませんが、子どもたちが行き詰っているようであれば一旦止めて、どこで困っているかを共有して、他のグループが何を考えたか、何をやろうとしているかを聞くことで見通しを持たせてから再びグループにもどすとよいでしょう。
このようなことをお話しました。
検討会終了後、研究授業の授業者とお話をしました。教師とグループとのかかわり方も大切なのですが、教材研究をしっかりしないとかかわる必然性のない課題となってしまいます。教師のかかわり方といったスキルと課題をどうするかといった教材研究は両輪です。一方だけではその場をぐるぐる回って前へ進みません。一方を回せば、次はもう一方を回す。こうして少しずつ前進できます。バランスよく学んでほしいと思います。
4人の授業者とは一緒にお話をしました。自分の授業についてのコメントを他の先生に聞かれることを嫌がらない人間関係はとても素晴らしいと思います。互いのコメントから学びあう姿はとても気持ちのよいものでした。4人とも前回の訪問時から何かしら意識して授業をしていました。このように素直に変わろうとする姿勢が学校全体に広がっていくことを期待します。
算数は教科書を読み込んでいるかどうかが顕著に表れます。その点、今回はどの授業もまだまだでした。前向きな先生方ばかりなので、あえて厳しくお話しました。意識して教科書を読めば必ずその意味は理解できると思います。教科書を大切にした教材研究に励んでほしいと思います(鈴木明裕先生から学ぶ参照)。次回の訪問時にどのような変化が見られるか、今からとても楽しみです。