日記

2年目の教師の今後に期待

公開日
2012/11/30
更新日
2012/11/30

仕事

昨日は、中学校で授業アドバイスをおこなってきました。2年目の社会科の先生です。昨年も授業アドバイスをした方なので、その成長が楽しみです。この日は3年生の金融の授業でした。

教室に入って一番に感じたのは子どもたちの笑顔が多いことです。和やかな雰囲気で授業が始まります。導入として銀行のロゴマークを見せて、銀行名を答えさせます。子どもたちは意外と銀行の名前を知りません。授業者は子どもの言葉をしっかりと受容して進めますが、知らないのですから答えは出てはきません。授業者はヒントを出しながらなんとか子どもから答えを引き出しました。

続いて、ワークシートを配って、銀行に関する○×クイズを5問考えさせました。

・われわれの預けたお金は、銀行の金庫にしまってある。
・銀行が火事で焼けてしまったら、預けたお金は返ってこない。
・銀行がつぶれたら、お金は返ってこない。
・預金を全部おろせば銀行はつぶれる。
・銀行は、だれにでもお金を貸してくれる。

子どもが興味を持つようなクイズです。「金庫にしまってなければどうするんだろう?」と銀行がお金を貸してどう儲けるのか、「銀行は誰にだったらお金を貸してくれるのだろうか?」と銀行が融資をする条件は何かといった、次の発問につながるように工夫されています。
日ごろから子どもたちの関係がいいのでしょう。まわりと相談するように指示する前から互いに見せ合っています。相談するように指示をした後は、どの子もかかわりあっていました。子どもたちのテンションは上がり気味です。授業者は根拠を持って考えさせたいと思っていたようですが、根拠もって考えるには前提となる知識が少なかったようです。テンションが上がっていたのは、あまり深く考えて話をしていなかったからでしょう。
授業者はそれぞれが自分の答えを決めて、テンションが落ち着くまで待っていました。その後、何人か指名してその理由を聞きますが、明確な根拠を示されません。教師が答を言って次に進みました。

ここまでで10分以上の時間が使われました。導入として、子どもたちの興味を引き、メインとなる活動へのつなぎです。時間を使いすぎてしまいました。
最初の活動で、銀行名がわからなくてもこの先の展開には影響ありません。とはいえ、教師が正解を言うと子どもが受け身になってしまうことを心配する気持ちもわかります。こういう時は、「じゃあこのロゴマークの銀行を探してごらん。この近所にきっとあるから」といって子どもにあずけてしまえばいいのです。
クイズも、子どものテンションが落ち着くのを待つ必要はありません。深く考えているわけではないので、テンションが上がれば活動をやめてすぐに次に進めばよかったのです。

クイズで銀行が儲ける仕組みについて明確にならなかったので、教科書や資料集をもとに考えるように指示しました。子どもたちは集中して取り組みます。まわりの子どもとも自然にかかわりあっていました。全体で銀行が設ける仕組みを発表させますが、子どもは見つけたことを読み上げるだけです。そこで、どこに書いてあるかを共有して確認します。金利、利息、預金といった大切な言葉が出てくるので、これらの用語について問い返しましたが、すぐに教師が口頭で説明して先に進んでしまいました。銀行と預金者、借り手の3者間のお金の動きを子どもたちに確認して、利息の差が銀行の儲けになっていることをまとめました。
ここは教科書や資料集で見つけたことをもとに「考える」場面ではありません。教科書や資料で見つけることを指示し、見つけた時点ですぐに活動をやめて、その内容を全体で共有することをすればよかったのです。そのかわり、大切にしたい用語については、子どもたちを何人も指名して外化させ、定着させることが必要です。儲ける仕組みについて、子どもたちの言葉で言わせるだけでなく、今おさえた用語が使われていなければ、それを使って表現し直させるようにすることで、より明確にさせることができます。知る、理解させる場面であることを意識した活動にすべきでしょう。

本時のメインとなる活動は、4人の人物に融資するかどうかをグループで判断するものです。

・友人のコンビニ開業資金
・まだ売れる前の芸能人の生活費
・フリーターだが社長の息子のマイホーム資金
・授業者の結婚資金

グループ活動を指示したとき、子どもたちは素早くグループをつくります。中でも、ちょっとやんちゃな子どもが真っ先に机を動かしたのが印象的でした。友だちとかかわりあうのがとても楽しそうです。子どもたちは、先ほどのクイズのときと違って、集中はしていますがテンションはそれほど上がりません。根拠を持って考えようとしているのがよくわかります。各グループの結論が出た時点で、黒板に結果を貼りだしました。
時間はあまり残っていません。どのように進めるのか興味を持ってみていました。授業者は、グループごとではなく、人物や理由に着目して考えを確認していきます。グループごとに発表させると、同じことを何度も聞かされることになります。よい進め方です。子どもたちの理由から「信用」という言葉が共通の言葉として浮かび上がってきました。授業者は「信用」がお金を貸すキーワードとして出てきたとまとめて、この時間を終わりました。ここで「信用」という言葉は子どもにとっては日常用語です。社会科の用語としての「信用」とはずれがあります。時間がなかったため致し方ない面もあるのですが、ここは「信用」の意味をしっかり押さえておく必要があります。「信用ってどういうこと?」と問い返したり、「○○さんは、約束を守る人で信用できるけど、お金を貸せる?」とゆさぶったりして、「信用」という言葉を明確にしていかなければなりません。
また、ここでは「信用」ということも大切なのですが、銀行の役割を考えるうえでは「将来性」といったことも大切です。実はあるグループが「成功するかもしれない」を貸す理由としてあげていました。残念ながら授業者は、このことに気づきませんでした。ここに注目して、このグループの考えを共有化したうえで、たとえば、「売れるかどうかわからない」といって貸してもらえなかった芸能人に貸すかどうかもう一度考えさせると、銀行の社会手的な役割に迫ることができたはずです。

課題をいろいろ述べましたが、子どもを受容すること、子どもの言葉で授業を進めようとする姿勢、子どもが興味を持って取り組みしかも授業のねらいつながるような課題、子ども同士のかかわり合いを意識した授業構成、どれをとっても素晴らしいものがあります。長足の進歩です。
授業者は自分の授業を振り返って、導入で時間を使いすぎたこと、ねらいであった銀行の社会的な役割について時間内に触れられずに次の時間に持ち越したことなどを反省点として挙げていました。これ以外にも私が気づいた課題についてはほとんど自分で気づけていました。これはとても素晴らしいことです。この授業で目指すべきことをきちんと意識して授業をし、子どもをしっかり見ていたということです。うまくいくかどうかは別として、ここが明確になっていれば自分の授業をきちんと評価することができます。うまくいかなければまた工夫をしていけばよいのです。日々の授業から学べる教師となっていました。授業者が1年前と比べて大きく進歩していたのも当然です。また、使っている授業技術からも、昨年私に指摘されたことを素直に受け止めて、日々努力してきたことがわかります。
あとは、ねらいとするところと個々の活動の関係を意識することです。この日の授業でいえば、ねらいとしたいのは銀行の社会的な役割を考えさせることです。課題は問題ありません。考えるための時間を確保すること。特に全員が気づくためには一度焦点化した後、もう一度考える活動が必要であること。そのためには、導入部分をいかに簡潔にするか。また、金利、利息、預金といった用語を定着させるのは、資料から見つける、理解する活動が中心であって資料を基に考える活動ではないこと。必要となる基礎的な授業力はついてきているので、このようなことを意識するだけで、授業が見違えるようになると思います。

話を聞く態度から、私の指摘したことについて自分でもう一度考えようとしているのがよくわかります。このような姿勢であれば、一つひとつの経験から多くのことを学ぶことができるはずです。今後の進歩がとても楽しみです。私自身もこの授業から多くのことを学ぶことができました。とても充実した時間を過ごすことができました。ありがとうございました。