日記

進歩の影には地道な努力がある

公開日
2014/09/29
更新日
2014/09/29

仕事

小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環で、今年度第2回目でした。

前回訪問は5月で運動会の直前だったこともあり、子どもたちが落ち着いていないと感じた場面が多かったのですが、今回は全体的にとても落ち着いた印象でした。

前回、授業規律が確立していないと感じた1年生の学級は、印象が大きく変わっていました。子どもたちは元気がいいのですが、きちんと指示に従っています。授業者は子どもをよくほめ、よく子どもを見ています。子どもたちの表情がとてもよくなっています。一度にたくさんの指示をしないように意識していることもよくわかります。
また、ちょっと落ち着きのない子どもに対しても、様子を見ています。一時的に集中できなくても、場面が変われば参加することを知っているようです。どこで声をかけるべきかを考えています。また、直接授業に関係ないことを言う子どもに対しても、「あとでね」と無視をせずに上手にかわしています。
授業者と個別に話をしましたが、前回のアドバイス一つひとつを本当に意識していたようです。今回は授業の導入場面しか見ませんでしたが、おそらく次の課題となるであろうことをアドバイスしました。子どもたちに本当に考えさせたいのはどこか、考えるために必要なことは何かをしっかりと教材研究をすることです。これは意識したからといってすぐにできるわけではありません。時間はかかると思いますが、前回のアドバイスを意識して実行し続けた方ですので、きっと着実に前進してくれると思います。

前回道徳の授業を見せてくれた4年生の担任の初任者は、今回も道徳の授業を見せてくれました。テーマは正直に行動することでした。10回100点を取るとサッカーシューズを買ってもらえる約束を母親とした主人公が10回100点を取れた。しかし、採点ミスがあって実は100点ではなかった。言おうかどうか悩んだが正直に申し出て、先生にほめられ、サッカーシューズも買ってもらえてよかったという話です。
子どもたちから事前に取ったアンケートを紹介します。嘘をついた時とその理由です。子どもたちがとてもよく話を聞いています。続いて資料を範読します。100点が間違いだったところまでで止め、内容の読み取りを素早くします。100点を取ったらサッカーシューズを買ってもらえることになった時の気持ちを子どもたちに発表させます。
前回は子どもたちが友だちの話を聞いていないということを指摘したのですが、今回は違います。どの子どもも友だちの方を向いてしっかり発言を聞いています。しっかりと反応もできます。授業者に聞いたところ、前回のアドバイスの後、聞くことをとても意識したそうです。しかし、ただ「聞こう」というだけでは、子どもたちは友だちの方を向くようになるだけで、実は聞いていないことが多いことに気づいたそうです。そこで、「聞く」とはどういうことか話し合わせたりして、子どもたちに考えさせたそうです。時間をかけてここまで育てたようです。
子どもたちの意見を、「頑張ってサッカーシューズをもらう」「ライバルの友だちには負けない」「お母さんを喜ばせよう」の3つに整理しました。「自分」「友だち」「母親」の3つの視点です。
ここで、自分ならどうするかとその理由を考えさせ、発表させます。「嘘をつく」という子どもはいないのではないかと心配したのですが、正直に意見を言ってくれます。「なるほど」とその理由を聞いて意見を変える子どもがいます。別にどうということのないことのように思えますが、そうではありません。間違えたり、モラル的に問題のある発言をしたとしても、バカにされたり非難されたりしないという安心がなければ、こういった自分の考えを発表することができません。そういう学級をつくることができているのです。子どもたちの表情のよさの理由がわかった気がします。
授業者は、子どもたちの意見をしっかりと受容します。中には「サッカーシューズを買ってもらってから、正直に言う」というなかなかの意見もあります。嘘もつかない、サッカーシューズも手に入るという、自分的にはよい考えです。授業者はこれも受容しましたが、ここは揺さぶりが必要なところだと思います。最初の「お母さんを喜ばせたい」という気持ちに戻るのです。「お母さんはどう思うだろうか?」と問い返すことで、もう一度考え直してくれると思います。
また、子どもの言葉がよく理解できない場面がありました。その時、「ああって言ってくれたね。助けてくれる」と反応した子どもに助けを求めました。その子どもは、しっかりと友だちの考えを説明してくれました。よいつなぎです。こういったところにも授業者の成長を感じました。
資料の後半を読んで、主人公が正直に話したところで、子どもたちが拍手をしました。自分の考えと同じだったから、正解だったからと拍手したのか、主人公が正直だったことへの称賛の拍手だったのか、よくわかりませんでした。ちょっと子どもたちに聞いてみたいところでした。しかし、このあと明らかに「嘘をつく派」の子どもたちの表情が変わってしまいました。元気がありません。ここは、何らかの対応が必要なところでしょう。
続いて、正直に話した後の主人公、母親や先生の気持ちを聞きます。よい結末になっているので、「よかった」「すっきりした」「うれしい」というポジティブな言葉が出てきます。4年生なのでこれでよいのかもしれませんが、「サッカーシューズを買ってもらえなかったらどう?」「ミスを指摘されて先生が機嫌を悪くしたらどう?」といった揺さぶりがあってもよかったでしょう。
ここで心情を問うのであれば、先ほどの「どうするか」と「理由」に対してその時「どんな気持ちがするか」も続けて聞いてもよかったかもしれません。また、最初のアンケートも嘘をついた時の気持ちを書かせておいた方がよかったかもしれません。道徳の授業としては心情面にもう少し迫りたかったところです。
「嘘をつく派」のいた状態で最後はどうまとめるのか注目していましたが、なかなかよいまとめ方をしてくれました。自分が採点ミスをした時、点数が下がるのに申告してくれた子どもがいてとてもうれしかった話をして終わったのです。説教的なまとめではなく、授業者の気持ちであれば、素直に聞くことができます。子どもたちに「嘘をつくな」ではなく、「正直であれば、相手がうれしく思ってくれる」ことを伝えたのはとてもよいと思います。
授業技術の進歩も大きいと思いましたが、道徳の授業としても進歩の跡が見えます。毎週の道徳の授業を大切にして研究し続けたことがよくわかりました。

5年生の社会科の授業は日本の漁業の問題を考える場面でした。前時の復習をしますが、子どもたちには教科書やノートを開かせません。これでは自信を持っている子どもしか発言できません。忘れたら思い出せばいいのです。それの繰り返しで定着するのです。
子どもたちは発言者の方を見るのですが、発言者は授業者を見ています。授業者は子どもの言葉をしっかり聞いて受容しますが、他の子どもを意識できていません。どうしても一問一答になってしまいます。ある程度時間をかけて子どもから聞き出した後、最後に「4つの漁業」と用意したまとめを黒板に貼ります。考える場面ではありません。参加できない子どもにしてみれば、早くそれを見せてくれればいいのにという気持ちでしょう。あまり時間を書ける意味はありませんでした。
資料をもとに「何でもいいから気づいたこと」をワークシートにまとめて発表させます。社会としての資料の見方をきちんと指導しておくことが必要です。それが意識できていて初めて「気づいたこと」という発問が意味を持ちます。子どもたちの考えを板書しますが、結果のみが残ります。どこからそれがわかったのか、きちんと資料で確認して共有することが必要です。ここでも一問一答になっています。つなぐことを意識してほしいと思います。
授業者には、資料の活用には「必要な資料を見つける」「資料を読み取る」「読み取った内容をもとに考える」の3つのフェーズがあること、それをどう意識して授業をつくるかをお話ししました(資料集をどう活用する
資料の共有
社会で資料を見る力を育てる参照)。時間の関係で「必要な資料を見つける」は難しいこともあります。そういう時は、「どんな資料があるといい?」と子どもたちに問いかけ、それに応じて準備した資料を見せるという方法もあります。このような方法を知っていると授業の幅が広がると思います。

ベテランの算数の授業は4年生の(何百何十)÷(何十)の計算の仕方の場面でした。ベテランらしく子どもを引き付けるようなちょっとして工夫もたくさんありましたが、押さえるポイントに疑問を感じました。授業者は10の固まりをもとに計算することを大切にしているのですが、この教材はこの後の2桁の数で割る計算のための足場となるものです。そのため、120÷20の計算の説明で、わざわざ12÷2で答が6と「見当」をつけるという言葉を使うのです。そして、「20×6=120となって」と商が6であると確認をします。余りのある場合も同様で、150÷20も15÷2=7あまり1となって商が7と「見当」をつけます。20×7=140で150−140を計算してあまりが10でよさそうです。ここで「よさそう」という確認が大切なのです。そのために、商と余りの関係を教科書では押さえているはずです。ここで大切なのは、割る数より余りが小さいことです。あたりまえですが、これを押さえておかないと、2桁の数で割る時に「見当」を間違えた時におかしなことが起こるのです。この日の課題であれば「見当」ではなく、答でもよいのです。あえて「見当」を使っている意味を分かってほしいと思いました。

全体に対して「子どもたちと先生の関係はよいのですが、子どもの発言場面では発言者と先生の1対1の関係になってしまっていること」、「一問一答で子ども同士をつないでいないこと」「挙手指名が中心の、参加できる子どもだけで進む授業になっていること」を指摘しました。子ども同士をつなぎ、全員参加の授業を目指してほしいことをお願いしました。
そして、教科書(特に算数)をしっかり読みこんで授業をしてほしいことを2学期の教材を例にして具体的に話させていただきました。
校長は、前回のアドバイスから「ほめる」「認める」というキーワードを抽出して学校に浸透させてくださいました。今回は「つなぐ」「全員参加」をキーワードとされました。こうした管理職の働きかけが、学校が進化するためにはとても重要です。この学校の授業が改善されている裏にはこのような動きがあったのです。
今回の公開授業を、この前の週に訪問した学校の先生が1名参観に来ました(校長の働きかけの大切さを感じる参照)。何がこの先生に必要なのかを考えての校長の指示です。真剣に育てようとしていることがよくわかります。2つの授業を私の解説を聞きながらしっかりと見てくれました。
こういった校長のいる学校は必ず進化していきます。2校続けて改善が見られるということは、この市の管理職の力なのかもしれません。次の学校はどのように変わっているか、ととても楽しみです。