日記

秋田喜代美先生から学ぶ

公開日
2015/01/13
更新日
2015/01/13

独り言

今年最初の教師力アップセミナーは東京大学大学院教育研究科教授の秋田喜代美先生の「子どもがつながる授業、質の高い学びのある授業をめざして」という講演でした。秋田先生のお話は、自分の考えや理論を強く主張するというよりも、自分の研究や学校現場で学ばれたことを私たちと共有し一緒に考えようというスタンスでした。とても納得性の高い、学びの多いものでした。

教育の質と関連して、子どもたちが大人になっときに必要な力を考えなければならないというお話をされました。全くその通りです。秋田先生が例に挙げられた、15年後に社会で必要とされる力を考えることはそれほどたやすいことではありません。教育に携わるものは、社会の流れや変化をしっかりと観察しその先を見通すことが必要ということです。ともすると、目先のことに追われてそのことを忘れてしまいます。心しなければと思いました。ここで、協調的な問題解決のテストが開発されたことが紹介されました。こういう力が求められてきているということでしょう。テスト対策をするのではなく、本質的にどうすれば私たちが願う力を子どもたちにつけるのかを考えることが求められると思います。
教育の質を2つの次元で説明されました。1つは「安心・居場所感でつながっている」、もう1つは「文化的価値ある対象に夢中になれる」です。前者は、私の授業アドバイスの基本となっていることです。しかし、後者については、そのためのアドバイスがなかなかできていないことが実態です。改めてこのことをきちんと伝えていかなければと思いました。
また、教師が選択肢をたくさん持つことが大切であるということも話されました。教師の理屈ではなく子どもの側の視点に立って授業を進めてほしいというメッセージだと受け止めました。子どもの状況に応じた対応をするためには、選択肢が必要となるからです。

授業の質を深める手立てとして3つのステップを示されました。

1 誰でも参加し良さを認め合う
子どもたちが考えたことが見えないとコミュニケーションが成り立ちません。子どもたちのつぶやきを拾い、広げていくことが大切になります。
2 学びを深め創り出す
内容が拡散して薄いと語ることが少なくなります。意見の違いを焦点化して、根拠や理由を考え深めることが大切になります。
3 思考や理解を吟味する
学びを確かなものにするためには、授業をやりっぱなしで終わるのではなく、子どもの言葉で学んだことや今後の見通しをまとめることが必要になります。

私としてはこの3つのことの大切さはよく理解しているつもりですが、こうしてお話を聞くと3つ目の「思考や理解を吟味する」ことをきちんとアドバイスの折に伝えきれていないように思いました。もっと意識しなければと改めて反省です。

授業では「待つ」と「聴く」が大切だということと合わせて、人と一緒に考え、自分たちの持っているものをベースに考えると、「自分たちの力でやり遂げた」という言葉が出てくるということが話されました。「私がやった」「自分でできた」という言葉を、私はずっと大切にしています。秋田先生から同じような言葉が紹介されたことをとてもうれしく思いました。
「教師の指示でする形式的な拍手ではなく、子どもたちから『自然』にでるものを大切にしたい」、「あらかじめ準備した明確に発せられる『プレゼンテーションの言葉』ではなく、その場で考えながら小さく、ゆっくりと発せられる言葉を聞き取ることを大切にしたい」という話には、大きくうなずきました。子どもたちがつながるために大切なことだと思います。

面白かったのは、ある公開授業のビデオを見て何人かの方に感想を聞いた場面でした。全く同じものを見ても、見る視点が全く違っていたのです。休息時間に知り合いの方の意見も聞きましたが、その方の授業観をよくわかるものでした。授業を見て感じることにその人の授業観が反映するのです。だからこそ、授業研究が大切だと改めて思いました。どの考えが正解か議論するのではなく、互いの授業観にふれあい学び合うことがよりよい授業をつくっていくためには必要なことだと思います。

学び合いを支える道具立てについても面白い話を聞くことができました。「個々の学びや立場を可視化するツール」「つなぐためのツール」「吟味のためのツール」と分類した上で、ホワイトボードや付箋紙を使った例を紹介されました。互いの考えを吟味して深めるためには、ただ話し合うだけではうまくいきません。道具の使い方もこのように分類して視点をはっきりするとより有効に活用できると思います。

秋田先生は教師の創意工夫が必要であることをいろいろな場面で強調されます。最近の教育関係の講演では、こうすればうまくいく、こうすればよいというノウハウ的な話が多くなっているように思います。教師に創意工夫を求める秋田先生の姿勢は、先生方の力を信じていることの裏返しだと思います。秋田先生の学校現場を見る目の温かさを感じました。

今回のセミナーの司会進行を務めた若手の教師は、事前に秋田先生の著書を読んで勉強したそうです。しかし、一度読んだだけでは難しくてよく理解できなかったようです。しかし、今回のお話しはとてもよくわかったそうです。もう一度読めばきっとよく理解できそうだとうれしそうに話していました。本から学ぶことも大切ですが、直接お話を聞くことでより一層理解が進むこともあります。教師力アップセミナーのねらっているところの一つです。
スタッフも含め、参加者にとって学びの多い講演でした。秋田先生本当にありがとうございました。