意味付け復唱法の命名
- 公開日
- 2022/04/01
- 更新日
- 2022/04/01
算数・数学授業:志水メソッド総括 ○付け法、意味付け復唱法、音声計算、適用問題定着法など
意味付け復唱法と命名
☆復唱法についての命名
復唱法は,これから「意味づけ復唱法」と命名したいと思う。 問題は復唱法である。これはなかなか取り入れにくいし,教師にとってよさが見えにくいのである。というのは,復唱法は,算数・数学の授業が,子どもとともに子どもの言葉で作るのだという考え,信念がないとできないからである。やっぱり結果を手順を教え込めばよいと考えている教師にはなかなか理解できないからである。 復唱は,英語で言えば, リハーサル(繰り返す),リピート(暗記のための繰り返し),リフレイン(各節の終わりの繰り返しの句),リフレクション(反射,反省),リボイス(発言の繰り返し)などがあてられる。
そこで,復唱というとすぐにリピートを思い出す人がいる。確かにリピートの機能もあるのだが,これだけだと暗記するために意味のない記憶をつけている感じである。
ある授業で,教師がつまると,リピートと指示していた。すると,子どもが反射的に語句を繰り返して言っていた。英語の単語をリピートするかのようであった。実は,
この学校は英語を聞くにも力を入れているので,こんな風に咄嗟に教師の指示がでたのだと思う。でも,子どもは楽しそうにリピートしていなかった。だから,協議会のときに,「あなたの癖ですね。もっと子どもが発言の意味がわかって繰り返すことが必要ですね」と助言した。認知心理学で言えばリハーサルが正しい。それは,内容を口で繰り返したり,頭の中で繰り返すのである。そのとき,意味づけして繰り返すことを精緻化リハーサルという。 日本語でリハーサルは,事前の準備の演示のことを言うが,認知心理学で使う場合は,ある内容の発言があった事後の認知作用のことを言う。 辰野千寿氏の「学習方略の心理学」から引用してみよう。
<「リハーサル(rehearsal :復唱)」は,記憶材料の提示後にそれを見ないで繰り返すことである。「レシテーション(recitation)」ともいわれる。その場合,声に出して繰り返すこともあるし,声に出さないで繰り返すこともある(内言)による反復)。
学習の際,情報は短期記憶に入っても,そのままだとすぐ消失してまうので,それを防ぐためにリハーサルが用いられる。しかも情報は,このリハーサルによって短期記憶から長期記憶へ送り込まれ,長く保持される。したがって,リハーサルは短期記憶における情報の保持と長期記憶への転送といった2つの役割をもっていることになる。>
上のリハーサルは,主に記憶という観点から述べられている。だから,リピートと同じと言われるかもしれない。そこで,リハーサルには2つの型があるという。
<(1)維持リハーサル・・・「機械的リハーサル」あるいは「機械的反復」とも言われる。電話番号を調べて電話をかけるときに,さしあたり忘れないために繰り返すようなリハーサルである。短期記憶での情報の維持をすることをめざしている。これは日常生活でもよく用いられ,短期記憶の保持に役立っているが,長期記憶の保持には効果がない。 (2)精緻化リハーサル・・・これは情報の意味を考えながら,あるいは意味による体制化を行いながら情報を繰り返すことである。基本的には,記憶材料の体制化と有意味化をめざしている。短期記憶の保持にももちろん役立つが,長期記憶に情報を送り込み,長く保持するためにはこのリハーサルが必要である。短期記憶から長期記憶へ情報を送り込むためには,意味に基づいた変換や意味による情報の体制化,すなわち「意味的符号化」が必要であるが,精緻化リハーサルは,これを促すのである。>
私が使いたい復唱は,当然,復唱でも精緻化リハーサルなのである。 ある概念を意味づけたい。それは言葉で表される。それを意味づけるために復唱させるのである。復唱法とは,ある発言Hを授業の舞台の上にのせ,それに対してWHAT,WHERE,HOW,例えば・・・などと切り返していくことによって,もとの発言Hの解釈が広がったり,深くなったりする授業での活動のことを言う。 その際,復唱することによって,外化の機能である補完,焦点化,確認,共有を促すことになる。 だから,単なる機械的な復唱という意味と区別するために,復唱法のことを意味づけ復唱法と呼ぶ。さらに,普通の復唱とは異なるという意味で,「志水式意味づけ復唱法」と命名したいと思う。 この名前によって,何のために復唱するのかがより明確になるので,一般の教師にも受け入れやすいものとなるだろう。 まとめると,次のようになる。
「志水式意味づけ復唱法」は,次の2つのステップを踏む。
ステップ1:子どもの発言を復唱することによって授業の舞台にのせる。
ステップ2:舞台にのった発言に対して,教師(子ども)が切り返すことによって,
本人または他の子どもが元の発言に対して補完,焦点化,確認,共有し
て,もとの発言の内容が他の事象と関係づけられていき,より広く,よ
り深く意味づけられていく。
このより広く,より深く意味づけられていくということは,意味の精緻化や体制化
につながるということだ。
注:精緻化と体制化 精緻化とは,入力された新しい情報に何かを付加したり,相互に関連づけたり,変換する処理過程である。それには既有の知識構造が重要な役割を果している。 体制化とは,学習の際,学習材料の各要素がばらばらではなく,全体として相互に関連をもつようにまとまりをつくることである。情報の整理・体系化をいう。
ステップ1で発言を舞台にのせるということは,教師のみならず子どもたち全員の議論の対象,追究の対象とするということである。それは発言した本人にとっては,メタ認知化を促す。また,復唱した教師も実はその発言の意味を再度考えるという意味でメタ認知化しているのである。 このとき,教室の構成員である教師,子どもたちがその発言の意味を考え始めるのである。それはどういう意味か。これと関係あるのかな。別の例で言えばどうなるのかな。この場合はだめだよ・・・などと子どもの思考を促すのである。 これは,うまい授業ではごく普通に行われている授業の断面なのだ。 しかし,志水式復唱法の場合は,これを意図的にやろうというわけである。 教師による一方的な説明による授業では上の復唱そのものがない。また,教師が子どもの発言を都合のよい解釈をする授業は,子どもの発言を取り入れているようだけれど,教師の解釈の押しつけにすぎない。志水式では,教師の解釈もするが,でも子どもたちの解釈によって意味を広げ,深めようとするのである。 教師による復唱というのはある意味では,子どもたちの前に発言をのせてみる。しかも解釈しないでのせてみるのである。本当は教師の頭の中では解釈しているのだが,
これを解釈するのは君達なんだよと示すことである。そのとき,子どもたちが食らいついていくのである。 これらの作用によって,子どもたちの頭の中の知識構造がより緻密になっていく。そして,結果として記憶に残ることになるのである。単語の繰り返しで暗記するのとは異なる方法なのだ。