三、『AandB』への教育への適用
- 公開日
- 2023/07/10
- 更新日
- 2023/07/10
船井幸雄の人間学
三、『AandB』への教育への適用
「新しい学力観」について考えてみます。新しい学力観は明らかに評価の観点から登場してきました。四つの評価項目の順序が変わりました。
(1)関心・意欲・態度、(2)数学的な考え方、(3)表現・処理、(4)知識・理解です。
この変更は画期的なことです。従来、知識偏重からの脱却するためにはいい政策でした。もっと授業を楽しくして子どもの意欲を高めて下さいという願いです。
さて、ここからが問題です。位置づけは理解できても実際の運用を正しくしないと道を誤るのです。AorBの視点に立つと、今までの全面否定になってしまいます。つまり、過去は間違っていてこれからは正しいということになります。
そうすると、新しい学力観を提唱するお偉い人は年配の人が多いでしょうが、その人達は過去の人間ですから新しい学力観を主張すること自体意味がなくなります。そうではないのです。過去にも子ども主体の素晴らしい授業実践もあったのです。過去があって現在があり未来があるのです。だから、過去のいいところに学び新しい学力観を目指していけばいいのです。だから、「新しい」という文字ばかりが強調されると危険です。AandBの立場に立てば、年配の方は自信を持って新しい学力観を主張できます。
さて、上の評価の四つの観点について考えてみましょう。私の専門は算数科教育学ですが、この歴史をひもとくと二つの主張の対立ばかりです。即ち、「知識・理解、技能」対「数学的な考え方、関心・意欲・態度」の繰り返しです。生活単元学習、系統主義、現代化運動、基礎・基本、問題解決運動など対立の繰り返しです。その結果、どちらの主張も勝ったとえ言えません。それは、AorBの立場に立ったからです。
算数科ではどちらが欠けても失敗するのです。問題解決をしようとしてもかけ算九九の基礎的技能は大事なのです。新しい学力観で関心・意欲・態度の面ばかり強調されますが、授業が表面的な楽しさだけで終われば、結局子どもに基礎的な学力がつかないのです。文部省は決して知識・理解・技能を軽視せよとは言っていません。現場で指導にあたる人は、文部省が出した資料をもっと吟味してほしいものです。
AandBの立場で、(1)から(4)までがバランスのとれた四拍子ひろった学力観が必要です。特に、算数科は累積性の強い教科なので基礎的なことが「分かる」「できる」ことが絶対必要なのです。それを子どもたちに保障してから、さらに思考力・表現力・判断力をめざしていくべきです。
そう考えると、今度の新しい学力観は教師にとってしんどいことなのです。これまでだと、どちらかの立場に立てばよかったのが、みんな大事だよと言われているのですから。
AorBからAandBへの視点に立つと、指導と支援、個別学習と集団学習、問題解決型授業と説明型授業、管理職と教職員、などの関係が見えてくるはずです。対立ではなく共生・共創へと調和を図るように考えてみて下さい。