子どもたちがよく動けるからこそ、何をさせるのかが問われる
- 公開日
- 2016/06/29
- 更新日
- 2016/06/29
仕事
前回の日記の続きです。
3年生の国語は、論語から自分の気に入ったものを選んで、その理由を自分の体験を元に書く場面でした。
授業者はワークシート先に配ってから、課題を説明します。どうしても子どもたちの視線が授業者に集中しません。意欲的な子どもたちなので、ちょっともったいない気がしました。
子どもたちに訓読文と書き下し文、現代語訳が書かれた資料を見させて、「この中で書き下し文は“何ですか”?」と問いかけます。“どれですか”と聞きたかったのでしょうが、言葉に注意をしないと子どもたちが戸惑ってしまいます。
挙手に頼らず、子どもが「一番左(現代語訳)」と答えます。授業者は、「それでいい?」「聞いてみようか?」と返します。ここで、子どもの発言を受容する言葉がなかったので、「それでいい?」という疑問の言葉が印象付けられます。なんとなく否定されたような感じがします。「なるほど、一番左ね?」「同じ意見の人いるかな?」と疑問の言葉ではなく、受容の言葉だけで進めるとよかったでしょう。
何人かの子どもが挙手をします。これは子どもたちで修正させるべきだと思ったのでしょう。「じゃあ」とまわりの子どもと相談させます。よい対応だと思います。子どもたちは素早く動いて話します。かかわり合うことに慣れています。
挙手で確認をしますが、真ん中の文にしか手が挙がりません。授業者のねらい通り、子どもたちで修正できたようです。最初に答えた子どもも考えを変えています。そこで、「考えが変わったね。どういうこと?」とその子どもに理由を聞くとよかったと思います。子どもの言葉で整理できますし、本人に間違いを修正させれば、失敗したという気持ちも消えるからです。
他の子どもに理由を聞くと、「一番左は現代語訳だから」と答えます。授業者は「そうだね」と受けて、「一番左は現代語訳だから、真ん中に書かれているのが書き下し文になります」と説明します。消去法で考えるのは試験では有効かもしれませんが、国語としての根拠にはなっていません。用語として「書き下し文」の定義をきちんと確認することが必要です。「なるほど、一番左は現代語訳だね。これはみんな納得?」と確認した上で、「じゃあ真ん中が書き下し文の理由は?」とつなぐとよかったでしょう。「そもそも、書き下し文って何?」と根拠となる定義を確認するところから始めてもよかったと思います。
ワークシートに何を書くかの説明を続けます。
訳を書くのに、便覧を開かせて参考にするよう伝えます。ここで、便覧の訳は整いすぎているので、初めて読む人にわかりやすいように自分の言葉で工夫して書くように指示します。わかりやすいとはどういうことかを考えさせたいのでしょうか、この活動のねらいがよくわかりません。
続いてその話に関連する体験を具体的に書きましょうと指示します。例として授業者が経験したことを具体的に話します。自分の体験と論語を結びつけるのが目的なのでしょうか、体験と合わせて伝えることで説得力が増すということを教えたいのでしょうか、ねらいが何か混乱してきます。何でもいいので論語に活かせそうな体験を書くように指示しますが、「論語に活かせそうな」という言葉もよくわかりません。何を求められているのかますますわからなくなってきました。
最後にその体験を踏まえて、「今までは、○○だった。これからは○○したい」「今までは、○○だった。これからも○○したい」という話型で孔子の言葉を活かして、「こういう風にしたい」ことを書くように指示しました。「論語から自分の気に入ったものを選んで、その理由を自分の体験を元に書く」という最初の説明と明らかにずれています。授業者自身、この課題のねらいが揺れていることがわかります。
子どもたちにこの活動を通じてどうなってほしいのかというねらいを明確にし、子どもたち自身が評価できるためのわかりやすい目標が必要です。それがないため、子どもたちは何書けばいいのかがよくわからず、教室の空気が重くなっていました。
2年生の英語は、”show me 〜”、”tell me 〜”といったS+V+O+Oの形の文の学習場面でした。
“Please tell me the way to〜.”という文を所々虫食いにして提示し、どんな文字が入るかクイズ形式で子どもたちに問います。そもそもどんな場面で使われる文なのか”situation”もはっきりしません。子どもたちはあてずっぽうで、”m”、”o”と答えます。一生懸命に参加しようとしていますが、根拠を持って考えられません。最後に授業者が何とか答を誘導しますが、子どもたちにはピンときていないようでした。以前に読んだことのある文だと授業者は説明しますが、子どもたちの記憶にはなかったようです。
“Please tell me the way to ○○.”と、子どもたちのよく知っているスーパーマーケットへの道案内をさせます。ディスプレイに地図ソフトのストリートビューを表示して、リアリティを出します。面白い使い方です。
“Go straight.”と子どもたちから声が上がります。どの子どももしっかりとディスプレイを見ていますが、口を開けていない子どもが気になります。“Go straight.”が何度か続いた後、「右」と日本語で答える子どもが出てきます。授業者はそれを”Turn right.”と全体で英語に直させます。ソフトを操作しながら、「この角は入れるかな?」と授業者はつぶやきました。ここで、”Which corner?”、”This corner?”といった言葉を使いながら、”Turn right at this corner.”、 ”Turn right at the next corner.”といった表現を出させたいところでした。
目的地に近づきますが、また、“Go straight.”が続きます。子どもの声が少なくなります。授業者が「せっかくだからみんなで言ってほしい」と伝えれば子どもたちの声が大きくなりますが、声が出なかった子どもたちの気持もわかります。英語で伝えよう、表現しようと考える場面がありません。残念ながら小学校の外国語活動のような、ただ決まった言葉を話すだけになってしまいました。
最後に「着いた」と声が上がり、授業者が「着いたの?」と確認すると、「左です」と返ってきます。「左です。はい(言って)」と子どもたちに英語に直すように促します。子どもたちからは、”Turn left.”と返ってきます。この間違いはかなり深刻です。子どもたちが”situation”を言葉にしようとしているのはなく、「左です」という日本語と単純に対応する言葉を言っているからです。「左に曲がる」も「左にあります」も日本語では「左です」で表現できます。それを子どもたちは1対1対応で”Turn left.”に変換したのです。
「Turn left.だった?何かあったじゃない。左手にありますよって……」と問い返しますが、一人の子どもが”Turn please.”と答えて、後の子どもたちは凍っています。「Turn please.だった?」と返すと、今度は”Please turn.”です。「You ふん、ふん、ふーん……」と言葉のリズムで思い出せようとしています。これでは、日本語の表現と一致する表現を覚えることが英語の学習になってしまいます。せめて、「どこを見れば○○があるの?」と言った英語で示すべき”situation”を確認するべきだったでしょう。”situation”を意識しているようで、実は意識できていなかったのが残念です。結局このヒントでも、子どもたちからは言葉は出てきませんでした。学習していたはずのことが定着していなかったようです。”You can see it on the left.”と授業者が言うと、それはリピートできます。しかし、言葉として言えているのではなく、耳から入った音を繰り返しているだけです。リピートリーディングばかりをしていると、頭の中で言葉を選んで表現する力はなかなかつかないのです。
授業者は「『左手にありますよ』は、You can see it on the left.」と説明しますが、これでは1対1で言葉を覚えるだけです。”You can see it on the left.”の表わす”situation”をきちんと確認することが必要でした。
“Show you 〜”の導入で、子どもたちも知っている?ゲームで使われている、”Show me your moves.”(お手並み拝見)を聞き取らせます。子どもたちは一生懸命に聞き取って真似をしますが、ナチュラルスピードなので聞き取れません。そもそも子どもたちは”move(s)”という言葉を知りません。これで聞き取れたらおかしいのです。まわりの子どもたちと相談させます。子どもたちはしっかりと相談しますが、残念ながらムダです。もし、聞き取らせたいのなら、授業者がゆっくりと一語一語ていねいに、”Show”、”me”、”your”、”moves”と発音して聞き取らせる必要があります。子どもたちができる、わかるためにはどうすればよいかを意識してほしいと思います。
”Show me your moves.”に続いて、”I’m going to show you how to use waribashi.”、 “Please tell me the way to ○○.”と例文を並べます。この順番も気になります。
“show me”、”show you”、”tell me”の順だと、”show you”、”tell me”のコントラストが大きくなります。同じ単語がありません。ここは、”show you”、“show me”、”tell me”か”tell me” 、“show me”、”show you”の順番に並べるとよかったと思います。
「3つの文章で同じ文法の構造をしているものが並んでいます。どんな構造に並んでいますか?」と発問します。まわりと相談させますが、これに答えられる方がおかしいでしょう。もし答えられるのなら、それは知っている子どもです。子どもたちはすぐに相談しようとしますが、言葉はなかなか出てきません。子どもたちがこの文型を使いながら、自然に語順に気づくような活動が必要です。
子ども同士で相談できるようになると、先生たちはすぐに相談させるようなります。何を相談させればよいのかということをあまり考えずに安直に相談させても、子どもは頑張ってくれます。何となく授業が成り立っているように見えるのですが、子どもたちに学力はつきません。このことを意識してほしいと思います。
「何か気づいたことがある人?」と全体で確認しますが、授業者のねらっている言葉は出てきません。結局子どもの言葉を拾って、授業者が説明するだけです。子どもたちはそれを受け身で覚えるだけになってしまいました。
これと同じ文法構造をとる動詞を見つけてくださいと指示しますが、子どもたちはまず板書を写すことで精一杯でした。
いろいろと新しいことを試みているのですが、本質的に昔ながらの文法を覚える授業と同じになっています。英語の”situation”を理解する、英語で”situation”を表現するという場面をつくって、子どもたちが英語でコミュニケーションが取れたという実感が持てるような授業にしてほしいと思います。授業を工夫する意欲のある方ですから、このことを意識すればきっとよい方向に変わっていくと思います。
この続きは明日の日記で。