問題解決能力の向上について講演
- 公開日
- 2016/09/12
- 更新日
- 2016/09/12
仕事
夏休みに、中学校の校内研修で、問題解決能力の向上についての講演を行いました。こういった講演は、原則として子どもたちの授業の様子を見せていただくという条件で引き受けることにしています。子どもたちの実態によって、話す内容も変わるからです。今回も無理を言って夏休み前に訪問して授業の様子見せていただきました。
授業を見せていただいて、全体的に子どもたちが問題解決の過程よりは、答を得ることを重視しているように見えました。板書を写すことが優先されています。また、先生や発言者を見て話を聞くといった、授業規律も甘いようです。先生も、挙手する子ども、反応する子どもとだけのやり取りで授業を進める傾向があります。全員参加で、考える過程を共有するという発想はあまりないように感じました。
問題解決よりもその前提となることを押さえることが大切なように思いましたが、打ち合わせの結果、今回の講演では問題解決型の授業に関することを中心に話をすることになりました。
研修当日は、「問題解決能力が向上する授業を考える」というタイトルで、問題解決型の授業の流れと、具体的なイメージをお伝えしました。
最初に、問題解決の授業を行うためには、日ごろの授業がどうあるのかが大切であることをお話ししました。子どもたちが「問題の答を求めている」「過程よりも結果を欲しがる」「授業者のまとめを写して終わる」という状態では、問題を解決しようとする以前の状態です。子どもたちが、積極的に「わかりたい、できるようになりたい」という気持ちになることが求められます。また、一人で問題解決しようとするのではなく、他者とかかわり合おうとすることが必要です。わからなければ、「教えて」と友だちに聞けるような子どもにすることが大切です。
このことを意識してもらった上で、では、授業の流れをどうするとよいのか、簡単にまとめてみました。
「疑問を持つ」⇒「問題を見つける」⇒「問題を理解する」⇒「見通しを持つ」⇒「問題に取り組む」⇒「困っていることを共有する」⇒「問題を解決する」⇒「問題解決の過程を共有する」⇒「解決方法を価値付けする」
必ずしもこの順番であったり、これらの要素すべてが必要だったりというわけではありませんが、こういったことを意識するとよいと思います。
・疑問を持つ
天下りの問題では、取り組む意欲がわきません。解決したいという気持ちになってもらうことが大切です。子どもたちにとってリアリティのある問題であれば、意欲も高まります。「えー?」「あれっ?」「どういうこと?」といった声が子どもたちから上がり、最後に「あっ!」「わかった!」「そういうことか!」と納得するような授業が理想です。
・問題を見つける
どこが問題なのか、何を解決すればいいのかを見つける力を身につけさせることが求められます。「何が問題なのだろうか?」「何がわかればいいのだろうか?」といった問いかけを子どもが自らに発することが大切です。そのためには、この問題のゴールはどこなのかを明確にし、意識させておくことが重要になります。
・問題を理解する
問題を理解するには、具体例で考えたり、試しにやってみたりすることが大切です。
・見通しを持つ
子どもたちが、「何がわかればよいのだろうか?」「何をすればよさそうか?」といった見通しを持つことが大切です。「さあ、考えよう」では考えることはできません。授業者は、あらかじめこの問題を解決するために必要な知識は何かを押さえておく必要があります。知識は教えるか、調べるしかありません。どのような形で子どもたちに与えるのかを考えておく必要があります。また、「どんなことを知っているか(過去の結果)」「どんな方法を知っているか(過去の経験)」といった、「過去の経験を活かす」ことを意識することも大切です。これらを、問題解決に取り組むまでに整理しておくのか、子どもたちが問題解決の過程でこれらを活用した時に価値付けするのかといったことを考えて授業を組み立てる必要があります。
・問題に取り組む
「個人で考えるのか」「ペアか」「グループか」「途中で形を変えるのか」といった取り組む形態を考えることが必要です。最初から決めて変えないのではなく、子どもたちの様子を見て柔軟に対応したいものです。
注意してほしいのは、個人で考えることにこだわりすぎると、途中で行き詰まって苦しくなると集中力が切れてしまうことです。苦しくなったら友だちと相談できる子どもにすることが大切です。日ごろから、「まわりと相談してもいい」として、わからなければ、「教えて」と言える子どもにしたいものです。また、できる子どもには、「教えて」と言われないのに教えないということを伝えておくことも忘れてはいけません。困っている子どもにイニシアティブを持たせることが大切です。
グループで、結論を一つにまとめるような活動を目にすることがありますが、結論はできるだけ個人で決めさせるようにしてほしいと思います。一つに決めると、力の強い子どもの意見が通ってしまいやすくなります。そのため、多様な意見が消されてしまうこともあります。グループは、あくまでも個人の考えを深めるための手段と考えた方がよいでしょう。説得するために互いに話し合うのではなく、納得するために聞き合う姿勢が大切です。
・困っていることの共有、問題を解決する
一度活動を始めると、結論が出るまで続けることが多いように思います。途中で授業者がヒントを言うこともありますが、基本的に活動が始まると、発表まで止まらないのです。途中で力が尽きて動きが止まる子どもたち、グループが出てきます。そもそも、同じペースで問題解決が進むはずはありません。活動が止まっている子どもやグループに時間を与えても、きっかけがなければなかなか次のステップに進めません。順調に進んでいる子どもたちもいるので、個別に何とか対応しようとしますが、多くの子どもたちやグループが止まってしまってはとても対応できません。
活動が終わった後、答を発表させようとするので、答が出ていないと参加させることができません。それで答が出るまで待たなくてはいけなくなるのです。こういう時は発想を変えて、活動を途中で止めて発表させればいいのです。活動が止まっている子どもたちに、「どこで困っているの?」と答ではなく困っていることを問いかけ、共有します。それに対して、順調に進んでいる子どもたちに、「どんなことをやった?」「どこに注目した?」「何を調べた?」と結論ではなく手段や過程を発表させて共有するのです。こうして、子どもたちの考えるための足場をそろえます。この後、個人やグループに戻して考えさせれば、再び動き出して問題解決に近づいていくのです。
・問題解決の過程を共有する
全体では、答を発表して確認することではなく、どうやって解決したかの過程を共有することが大切です。ここで意識したいのは、全員が参加することです。わかった子ども、できた子どもが答を説明してわからない子どもを説得するのではなく、わからない子どもが納得することを中心にするのです。
わからない子どもも、友だちの根拠や過程を共有すれば、「ここを見て考えたんだ。どんなこと考えたかわかる?」と問いかけることで、考えることができ、参加することができます。「なるほどと思った?」「納得した?」「どこで?」「あなたの言葉で説明して」問いかけることで、わからなくても友だちの発言を聞いていれば、授業に参加することができます。
不完全な説明を全体で共有しながらよりよいものにしていく姿勢も大切です。できる子どもには自分の考えを説明することよりも、友だちの考えを理解して、不完全な部分を補うことを求めるとよいでしょう。
・解決方法を価値付けする
答を出すことが、問題解決型の授業の目的ではありません。問題解決に必要な資質・能力をつけることが目的です。他の問題でも活かせるメタな力、似たような問題を解決できる再現性を意識することが大切です。そのためには、問題解決で使った考え方や視点を価値付けすることが必要です。子どもたち自身でそれをできることが理想ですが、最初からは無理です。ます、先生がしっかりと、価値付けすることが大切です。子どもたちに力がついてくれば、自分たちで互いの解決方法を価値付けすることができるようになります。また、社会科の資料の見方など、基本的なものは先生が教えることも時には必要です。
まとめることは、学びを定着させることにつながります。しかし、先生がまとめて板書すれば、子どもたちはそれを写して満足してしまいます。結局先生の答を待つようになってしまいます。中には、自分の書いたものを消して、先生のものと置き換えてしまう子どもも出てきます。子どもたちの自己有用感が薄くなってしまいます。もし板書するなら子どもの言葉の筆記者であるべきです。子どもは友だちの考えをそのまま写すことはあまりしません。その内容を自分で判断しようとします。「友だちの考えでなるほどと思ったことがあったら、自分のものに付け加えてね」と自分の考えに付加することを指示するとよいでしょう。自分の考えと友だちの考えを、色を変えて区別させることで友だちから何を得たかが明確になります。どうしても、まとめが必要ならば、子どもたちの書いたまとめを印刷して配ることで十分です。
この後、先生方は一学期の実践をいくつかのグループで検討し合いました。面白い課題の授業もあり、活発に意見が交換されました。その後、私からは各教科の具体的な授業例を時間がある限り紹介させていただきました。
今回の講演にあたり、問題解決型の授業についていろいろと振り返ることができました。私自身にとってもよい学びとなりました。また、3学期に行われる授業研究のアドバイスも依頼していただきました。よい機会をいただけることに感謝です。