日記

子どもたちの変化に驚く(長文)

公開日
2012/09/28
更新日
2012/09/28

仕事

昨日は中学校の現職教育に参加しました。1年ぶりの訪問です。3人の若手の授業とその授業についての研究協議を分科会に分かれておこない、そのあと全体で私がお話しました。

1つ目の授業は英語の授業でした。授業の最初はペアでの単語の練習・確認です。驚いたのが子どもたちの表情でした。昨年の訪問時と比べて圧倒的に笑顔が増えていました。とても柔らかい雰囲気です。わからなかったときに聞き合うこともできてきています。個人で課題に取り組むときも、自然にまわりと相談しています。この雰囲気は一人の教師の力でできるものではありません。学校全体がこの1年で大きく変わっていることを感じました。たくさんの参観者に授業者は緊張しているようでしたが、笑顔を絶やさないようにしていたのが印象的でした。
復習の場面で、子どもたちに確認するのですが、なかなか反応してくれません。助けてくれそうな子どもを指名すると答えてくれるのですが、すぐに正解といって説明してしまいます。こうなると、よほど自信がないと挙手はできません。それでいいか子どもたちに確認をしたり、正解と言わずに何人かを指名したりして、子どもの活動や活躍の場面を増やすことが必要です。
Mr. Suzuki must help his wife.という英作文ではhisが必要か迷っていたり、忘れたりしている子どもがいたようです。授業者はそのことに触れ自分で説明したのですが、このような場面ではhisをつけた子ども、つけなかった子どもにその理由を聞く、互いの説明で納得したか確認するような活動を入れると子どもたちが受け身にならなくてすみます。
後で本人に聞いたところ、大切なことは伝わっているか不安なのでどうしても何度も繰り返し説明してしゃべりすぎる。子どもに確認すればよいとはわかっているがうまく子どもとキャッチボールできるか自信がない、ぎこちなくなりそうだと一歩踏み出す勇気がないということでした。これだけ自分でわかっていれば大丈夫です。あとはやってみるだけです。たとえぎこちないと本人や周りの同僚が思っても、子どもたちは聞いてもらえれば喜んでそれに応えてくれます。そのことを伝えました。
受け身の時間が続いた後、全員で文型の練習をするのですが、声がなかなか出ません。動詞をつぎつぎ変えて練習するのですが、声は大きくなっていきませんでした。どの学校でもそうなのですが、子どもが友だちとかかわることのよさを実感してくると、教師の一方的な説明が続くとそれに耐えられなくなってきます。受け身が続いて子どもたちのテンションがきり変わらなかったのです。声の大きさが満足いくものでなかったのに、次の動詞に進むと、子どもたちはそれでよいと思ってしまいます。ここは、もっと大きな声を出すように指示をし、求める声の大きさになるまで繰り返させる必要があったのです。求める姿を子どもたちに要求することも大切なのです。
グループ活動は、男女2人ずつのグループが基本でしたが、中には5人のところもありました。どうしても5人のところは余った一人が仲間と距離があるので話し合いに参加しづらそうでした。男子同士、女子同士がならぶ座席の組み合わせでしたので、うまく4人がかかわれるかと心配しましたが、しっかりとかかわれていました。学級経営のよさが感じられました。

2つ目の授業は数学の2次関数の授業でした。前時に振り子の実験をしてその結果をもとに、周期とひもの長さの間の規則性を見つけるというものでした。実際に自分たちが調べたことを題材にして考えるとことに挑戦していることはとても好感が持てます。最初に復習の代わりに、前時に撮影しておいた子どもたちの様子を見せました。もともと教師との関係がよいのでしょう。子どもたちは楽しそうに反応します。続いて、この日の課題「アルプス少女ハイジのオープニングのブランコの長さはどれだけか」を、実際にアニメを見せながら提示しました。子どもたちのテンションが上がりすぎ、中にはそれについていけない子もいてどうなるか心配だったのですが、授業者が説明を始めるとすぐに落ち着いてどの子も集中しました。きちんと子どもたちをコントロールすることができています。立派です。しかし、残念ながらこの導入部分でかなりの時間を使ってしまいました。この子どもたちと授業者であれば、ビデオに頼らず、いきなり課題を提示してブランコの周期を確認するところから始めても十分うまくいくと思いました。
ひもの長さと周期の表をもとに規則性を考える場面では、最初個人で考えさせ、それから隣同士、グループと進めました。「関係を見つける」という課題が子どもたちには何を答えていいかわからなったようです。しかし、子どもたちは頑張って考えようとしています。ここでは、せっかくわかりやすい「ハイジのブランコの長さ」が課題なので、いきなりそれを求めさせればよかったのです。求めるためには関係を知ることが必要です。どうやって求めたかを聞けば、授業者のねらいに迫れるのです。
グループ活動は、男子同士、女子同士で相談する姿が目立ちました。座席の配置は工夫する必要がありそうです。関係を見つけたグループもあったのですが、全体的に手詰まりになって動きが止まってきました。前のめりだった姿勢がだんだん立ってきます。そこでグループ活動を止めて、発表に入りました。「前に出てグループ全員で結果を発表してもらいます」と授業者が言うと子どもたちに動揺が走りました。答(正解)を求められたがまだできていない、発表の準備もしていなかったからです。最初のグループが、周期が2倍になるとひもの長さが4倍になることを発表しても、他のグループはそれどころではありません。誰が、どう発表するのか相談しています。授業者は発表を再度説明しています。時間がなかったとは思いますが、ここでは子どもたちに確認すべきだったと思います。
この場面では、「グループ」で「答」を発表させるのではなく、「個人」に「どのようなことを話したか、やったか」を聞けばよかったのです。これであれば、一人で振り返れば発表できます。また答がわからなくても大丈夫です。自分が指名されるかもしれないので、友だちの発表を聞いて参考にしようとも思います。
時間がなかったので、関係の式をつくったグループに発表をさせました。2次関数の授業なので2次関数になるはずだ。そう推理して式をつくったという発表です。これをどう評価するか、ちょっと授業者は悩んだようですが、式のよさを説明することを選びました。今日のゴールは式をつくることだったのと、時間がなかったことで子どもの結果をそのまま認めたのです。数学の授業としては、「本当にこの式で関係はあらわせる」「大丈夫、絶対」と迫る必要があったと思います。また、最初のグループの発表は全く使われないので死んでしまいます。これでは子どもたちは、結局教師の求める答えを探さなければいけないと感じます。最初のグループの考え方を使ってもハイジのブランコの長さはわかることを次の時間に確認して、評価してあげてほしいと思います。
時間のなさが授業者を苦しめました。導入部の長さの問題だけでなく、グループ活動を結論が出るまで待とうとしたことも大きな要素です。グループの活動が停滞したらすぐに止めて、どこで困っている、どんなことをやっていると課程を発表させるのです。他のグループと過程を共有することで、見通しが出てきます。再びグループに戻せば、活動し始めます。グループの利用の仕方の基本を再確認する必要がありそうです。

3つ目の授業は道徳でした。友情がテーマです。長めの資料なので時間配分がちょっと心配でした。最初に「親友とは」というアンケートの結果を電子黒板で見せたのですが、機器がうまく動かず時間を取られてしまいました。
資料を授業者が範読します。感情を込め、子どもが理解する時間を与えるためにゆっくり読もうとしているのがよくわかります。しかし、授業者は資料をずっと見ているので子どものようすがわかりません。子どもたちがちゃんと読みとれているのかの確認ができていないのです。最後まで読み終わった段階でかなりの時間が過ぎていました。残り時間は30分を切っています。授業者が焦っているのがわかりますが、落ち着いて笑顔で対処しようとしています。ちょっとしたやり取りからも子どもをしっかり受容しようとしていることが伝わります。子どもの反応からも人間関係がとてもよいことがわかります。
ここで、主人公の気持ちを場面ごとに捉えさせようとしました。まず前半の気持ちをたずねるのですが、反応が思わしくありません。子どもたちは最後の部分に気持ちが入っているので、すぐには戻れないのです。気持ちを込めた範読で子どもたちが資料に入り込んでいるのですが、授業者の発問で引き離されたのです。国語の読み取りではないので、こういう時はできるだけ早く内容を把握させる必要があります。区切りや、ポイントとなる場面でちょっと止まって、「主人公はどんな気持だったんだろうね。どう思う」「○○なんだよね。それってどうことだと思う」と問いかけたり、説明したりするのです。道徳で大切な、自分に引き寄せて考える時間を確保するためです。ポイントとなる出来事と心情を板書してあとで振り返られるようにしてもよいと思います。読み終わった後、不安であれば再度ポイントとなる心情を簡単に押さえて、課題を提示すればよいのです。
今回は読み取り部分が中心となったので、グループ活動も資料を根拠にして話し合っています。国語の時間にしっかり指導されていることがわかりますが、道徳ではマイナスです。主人公を客観的に見ていて、自分に引き付けられていません。全体の発表でも子どもたちの多くは教師を見ています。教師の求める正解は何かを知ろうとしているのです。一人の女生徒が自分に引き付けて主人公の心情を語っているのですが、なかなか他の子どもとかみ合いません。この女生徒は何度も発言するのですが、最後までうまくつながりませんでした。出てきた意見を授業者がメモ代わりに板書するのですが、かなりの子どもが写しています。当然その間、友だちの言葉には集中できません。ワークシートに時間がなくて使わなかった欄、「友だちの考え」があったのでそれを埋めようとしていたようです。
最後に「親友とは」の答を各自が考えて発表したのですが、このときも子どもたちの視線は発表者に向かいません。自分の課題として真剣に考えたときは、友だちの考えを知りたいと思うものです。子どもたちは教師の求める答を探していたのです。

3人の授業者に共通していたのが、子どもをとてもよく受容していたことです。そのことが、子どもたちが安心して授業に参加できる雰囲気をつくっています。残念だったのが、受容はあるのですが、評価や称賛が少なかったことです。評価することでよい行動が広がり、次の活動への意欲が高まります。また、意図的に子ども同士をつなぐこともできていませんでした。おそらく学校全体の課題だと思います。

協議会はよい雰囲気で進みましたが、この日の授業者が来週の学校訪問での代表授業をおこなうので、教師側の視点からの改善点の発言が多かったのが残念です。子どもの表情や声などを話題にしていたグループもあったので、学校訪問をあまり意識せずに進めることができればもっと子どものことが話題になったと思いました。

3つの授業について共通の話題が、導入とその時間、グループ活動の在り方でしたので、この2点についてお話をしました。
導入は何をするのかについて皆さんに聞いたところ、前時の復習、本時の課題や目標の提示とそれに向かう意欲づけということが出てきました。それをもとに落語の「まくら」と授業の「導入」の違い、子どものやる気はいつが高いかということから、導入はできるだけ時間をかけずに早く本題に入ることをお話しました。
グループ活動については、個人が自分の考えを深めるためにグループを活用すること、リーダーやまとめ役は必要ないこと、グループで話し合っても結論をまとめる必要はなく、個人の考えを持つこと、課題が子どもたちのものとなることが大切なこと、座席の配置や人数はどうするとよいのか、子どもたちの姿勢から活動のようすがわかること、グループ活動の間の教師のかかわり方、役目、動きが止まった時の対応、つなぎ方などの基本となることをお話しました。
このような話をしたからといって、この学校が先生方の基本ができていないということではないのです。逆に授業でよい場面が増えたことで子どもたちが確実によい方向へ変化したこと、そのために次のステップへの課題が明確になってきたことの現れです。子どもがいつも同じ状態なら、何が課題かはよくわかりません。子どものよい姿が見られるからこそ、そうでない状態の場面に課題があることがわかるのです。
1年前のことを思い出すと、今回このような具体的な話ができるとは想像できませんでした。教務主任、研修主任が日々発信し続けていることが大きな力となってきていることがわかります。ある授業の場面で「子どもたちが・・・」と私が言いかけた時に、素早く「発表者を見ていませんね」と教務主任がつなぎました。ホームページに載せる授業風景を撮るために、毎日子どもたちを見続けているからこそ、たくさんのことが見えるようになっているのです。

最後に校長室で3人の授業者とお話をしました。他者の授業の話題でも真剣に耳を傾け、少しでも吸収しようとする姿勢、指摘を受け入れようとする素直な態度、疑問を臆せず聞こうとする貪欲さ。彼らの今後の進歩がとても楽しみです。

教師以上に子どもたちは素早く変化していきます。そのよい変化が教師の変容へのエネルギーとなります。次にこの学校に訪問する機会があれば、また大きく変化した子どもたちと先生方の姿が見られることと思います。子どもたちの素敵な笑顔と前向きな先生方にたくさんの元気をいただきました。ありがとうございました。