野口芳宏先生から学ぶ
- 公開日
- 2012/10/09
- 更新日
- 2012/10/09
独り言
本年度第4回の教師力アップセミナーは、野口芳宏先生の講演でした。11年連続のご登壇です。一本筋の通ったぶれないお話の中に、毎年新しい気づき、学びがあります。
午前の講演は具体的な教材をもとに、教材内容と教科内容、子どもの向上的変容、学力形成の判定などについてお話しされました。聴衆に若い先生が増えたことをお伝えしたせいでしょうか、いつも以上にわかりやすい例をもとにお話しいただけました。
国語の授業では教材文を通じてどんな国語の力をつけるのかが問われますが、そのことを算数の足し算の例をもとに、教材内容、教科内容という言葉を使って説明されました。野口先生は短い言葉(用語)で端的に表すことで、考え方や概念をとてもすっきりと明確にされます。算数・数学で、用語を定義し概念を明確にしていくことと同じです。国語の授業は算数・数学と同様に論理的でなければいけないという私の思いを見事に具現化していただけるのが野口先生です。
学力形成の判定を次のように整理されました。
1 入手・獲得
2 訂正・修正
3 深化・統合
4 上達・進歩
5 反復・定着
6 活用・応用
教師がこの言葉を意識し、授業の各場面を評価することで、間違いなく子どもたちに力がつくと思います。
かな表記を漢字に変え読字力をつける。「姿を変える」を「変身」と言い換えることにより抽象度を高め、思考力のもととなる語彙を増やす。ともすれば、できるだけやさしく言い換えよう、わかりやすく説明しようとしがちな私たちに対して、学力形成のためにはチャンスを活かして子どもを鍛えるという姿勢とその具体的な方法にはとても説得力があります。子どもたちを「鍛える」者としての教師のありようを常に具体的に示していただけます。
午後の最初は、2年目の教師の道徳の授業ビデオをもとに会場の方と学び合おうというものでした。授業のハイライトシーンを視聴後まわりと話し合っていただき、その意見を全体で共有しました。指名された方はどなたも授業をポジティブに評価され、その上で自分なりの考えや改善案を具体的に話されました。参加者のレベルの高さがうかがえます。
最後に野口先生にコメントをいただきました。まず、ビデオで省略されていた最後の説話を聞かせてくれというリクエストです。授業者の学生時代の体験の話でした。そのあと、参加者に授業ビデオと今の説話のどちらがよかったかを問いました。圧倒的に説話です。それを受けて、授業ビデオの部分は職業的に話していた。一方説話は私的な話だ。表情も違う。教育には2つの側面がある。伝達と感化だ。伝達は忘れさられ剥がれていくが、感化は内面化され消えていかない。こう話されました。
まいりました。いかに伝えるか、理解させるか、そのためのスキルをどうするか。私のアドバイスも、まず目先の授業を改善するためにこういった話になりがちです。感化するとは、そういった技術の問題ではなく教師自身の在り方、内面の問題です。ここに踏み込むことは、相手に迫ることであり、それと同時に自分自身もどうであるか問われることです。それを臆することなく言う、求めることができる野口先生のすごさに圧倒されます。私のしているアドバイスが野口先生の前では薄っぺらなものに思えてきます。もちろん、私とて教師の根本部分を問うことをしないわけではありません。しかし、野口先生のように自らのありようを持って示せているかというと、とても比らぶべくもありません。またひとつ大切なことを教わった気がします。
最後の講演は、皇室についての考えをお話しされました。色々と異論のある微妙な問題ですが、臆することなく自らの考えを伝える姿勢には背筋が伸びます。講演後、先生のお話の中で私の知識とずれていたことに関してお話しさせていただきましたが、しっかりと聞く耳を持っていただけました。謙虚な姿勢には頭が下がります。
この日、一聴衆として野口先生の話に引き込まれていたのですが、その理由を考えてみました。たとえば、私が講演をするときは自分のリズムやテンポに聴衆を合わせようと意図的に声の大きさや間をコントロールします。動的です。それに対して野口先生にはそういう意図的な動きは全く感じられません。実に自然に話されるのですが、いつの間にか引き込まれているのです。目の動きは自然に聴衆のようすを追っています。聞き手が話を飲み込めた、どういうことだろうと興味・関心を持った、その瞬間に次の言葉が発せられるのです。野口先生にこのことをお聞きしても、意識はされていないそうです。当り前のように相手に合わすことができているのです。名人の名人たる所以です。
今回も野口先生から多くのことを学ぶことができました。そばにいて同じ空気を吸っているだけでも何か学べる気がします。感化力のある方とはこういうものなのでしょう。ありがたいことに、来年のお約束もいただけました。次回お会いする時が今から楽しみです。