若い教師と一緒に授業を見ることにこだわる理由
- 公開日
- 2012/10/23
- 更新日
- 2012/10/23
独り言
ここ数年、初任者や若手の授業アドバイスを頼まれることが増えてきています。アドバイスを頼まれたときに、彼らの授業を見せてもらう前に、一緒に他の先生の授業を見る機会をできるだけ持てるようにお願いしています。なぜこのことにこだわるのか、その理由を少し述べたいと思います。
経験の浅い教師の授業アドバイスをしていて、彼らが授業の場面を再現できないことに気づきました。「この場面で子どもがこういったよね。そのとき、あなたはどういったか覚えている?」「あなたの発問に対して、○○さんが反応したんだけどどんな反応だった?」と問いかけても、かなりの確率で覚えていないのです。そういう場面があったことはなんとなく覚えているのですが、子どもがどういう状況であったか、それに対して自分が何を言ったか、子どもがどういう反応をしたか再現できないのです。力のある教師だとどの場面を聞いても、そのときの状況から自分の発言・対応の意図まで完璧に再現できます。アドバイスをする立場から言えばこの差はとてつもなく大きいのです。
「この場面では、・・・だから・・・こう対応すべき」と説明しても、自分の中で場面を明確に再現できなければ実感を伴いません。また、場面認識と対応は連動します。「子どもが混乱した」「子どもの集中力が切れた」場面だったからこうすべきだと対応をいくら教えても、実際にそのことを認識できないのであれば活かすことはできません。せっかく授業を見て具体的な場面でアドバイスをしようとしても、これでは本を読むことと変わらないのです。
そこで、一緒に授業を見ることにしたのです。具体的には子どもたちのようすを見て、今、子どもに何が起こっているのか考えさせたり、解説したりするのです。
「今、子どもたちは集中している?」
「集中していない子どもはいる?」
「あの子はわからなくて手遊びしているんだろうか、それともできてしまったからだろうか?」
「今、あの子が笑顔になったけど、どうしてだと思う?」
「あの子は顔が上がらないけど、いつ上がると思う?」
・・・
子どもたちの見せる姿から、実に多くの情報が入ってくることに気づかせます。こうすることで、自分の授業ではどうなのか気になりだすのです。よく「子どもを見なさい」とアドバイスしますが、具体的に何をどう見るかを伝えないと、漫然と眺めているだけなのです。(子どもの「何」を見る参照)
少なくとも一度この経験をした後であれば、子どもがどういう状況かを以前よりは確実に意識することができます。自分の授業を振り返ったときにその状況を再現できなくても、こういう状況だったと伝えれば、授業を見た経験から「ああ、ああいう場面だったんだな」とある程度具体的に想像ができるのです。互いに共通の場面認識ができるので、アドバイスが理解されやすくなります。また、子どもたちのようすが気になりだせば、よい場面に出合えば再現できるように意識しますし、気になる場面があれば修正しようとするようになります。毎日の授業の中で自然に工夫をするようになります。
若い教師はいい授業を見たことがない、あこがれる教師、目標とする教師を持っていないと言われます。たしかにこれはとても大切な視点ですが、よい授業を見たり、憧れるような教師に出会ったりする機会をつくることは現実的になかなか難しいことでもあります。しかし、授業中の子どもたちのようすを客観的に見る機会はいくらでもつくることができます。意識することで、毎日接する子どもたちから多くのことを学べます。優れた教師から学ぶ以外にも、目の前の子どもから学ぶという方法もあるのです。一緒に授業を見るというのはそのことに気づいてもらうきっかけでもあるのです。若い教師と一緒に授業を見ることに私がこだわるのは、このような理由があるからなのです。