日記

中学校の授業研究でアドバイス

公開日
2012/11/16
更新日
2012/11/16

仕事

昨日は中学校で授業研究のアドバイスをおこなってきました。中学校3年生の理科の授業です。

金星の見え方について、テニスボールの金星とピンポン球の太陽・地球を使ってグループで実験しながら、気づいたことをまとめるものでした。金星のテニスボールは黄色と黒、地球のピンポン球は白と黒に塗り分け、太陽のピンポン球は黄色のものを用意してありました。
授業は、「気づいたこと」をまとめるという課題を「他のクラスは4つあるうちの2つ見つけた」とコメントしてから活動させました。「気づいたこと」という問いかけは、子どもたちに視点が育っていないとなかなかうまく活動できません。まだ持てていないのであれば、事前に与える、または以前におこなった似た活動での視点を思い起こさせるなどをする必要があります。もしくは、この活動を通じて「結果」を共有することだけでなく、「気づくための視点」を共有することをねらっているということです。子どもたちが育っているのか、それともこの活動で育てるのか、子どもたちのようすがとても気になります。
「4つあるうちの・・・」という言い方は、ちょっと疑問です。教師の側にあらかじめ想定した答えがあるということです。子どもが教師の求める答え探しをしてしまう可能性があるのです。「これでいいの?」と教師に確認を求めることになります。授業者は、どんな気づきでもいい、もちろん4つでなくてもいい、自分たちで何度も実験し繰り返し見ることで何かに気づいてほしいと思っていたようです。子どもに聞かれても正解・不正解は判断せずに自分で自信を持って説明できるように促しているようでした。4つというのは1つ見つけて終わりにならないための、目標のつもりだったのでしょう。それならば、「できるだけたくさん見つけて」「他のクラスは2つだったけど、君たちはいくつ見つけられるかな」「以前は4つ見つけたクラスがあったよ」といった提示の方がよかったように思います。

子どもたちは、太陽に近いときには金星は見えない(昼だから)ということに気づかずに満ち欠けだけをワークシートに書いていきます。グループを回りながら「嘘を書いてはいけない」と挑発していきます。子どもたちの中には自分のワークシートに書いたものを消す子もいます。どこが間違いかわからずに動きが止まってしまうグループもありました。検討会でもこの対応が話題になりました。
後で授業者に聞いたところ、以前の学年では「嘘じゃない、ちゃんとこう見える」と反論したりする生徒がいて、一方的に指摘を受け入れなかったそうです。子どもたちの反応の違いは予想外だったようです。教師が絶対者になっていたのでしょうか。最初の問いかけ(4つ云々)の影響かもしれません。また、この挑発の仕方は授業者のキャラクターによるものです。他の人が真似をしたり、どうこうしたりというものではありません。授業者と子どもたちの関係で語られるべきもののように思います。意図とその実現の方法は別に考えるべきものです。この意図を達成するのであれば、「あれ、本当にこう見えるかな」「あれ、よそとは違う見え方だね」といった言い方もあります。太陽の近くでは見えないと気づいたグループがあれば、一旦活動を止めて、金星の満ち欠けの図だけ発表させて、「あれ、違っている人がいるね」とその違いだけをクローズアップし、「どうなんだろうね」と戻す方法もあります。そこに気づかず活動を続けさせたくないという授業者の意図はよくわかりますが、今回は意図どおりにいかなかったグループがあったようです。

授業者はこの1時間の中でまとめることはせずに、最後までグループで活動させました。煮詰りながらもなんと見つけようとするグループ、お手上げで活動が止まっているグループいろいろでした。この流れで以前の学年はうまくいったようでしたが、今回は授業者の思ったようには動かなかったようです。子どもたちを見る限りは、まだ天体を考えるときの視点は育っていないようでした。ということは、今回の活動で視点を育てたかったということのようです。

検討会は、グループで協議をした後、司会者が指名をしながら意見をつないでいきます。グループでの話を予定した発表者がするとすらすらと言葉が出てきますが、今回は個別に指名して意見をつないでいくので、言葉はとつとつとします。しかし、だからこそじっくり考えながら聞くことができます。しだいに、いくつかの大切なことに焦点化されていきました。

・視点を持たせずに活動していたため、動きが止まってしまうグループがあった。視点を持たせるべきではなかったか。
・授業者は「嘘」という言葉でグループごとにかかわったが、それでよかったのか。また、他のかかわりも必要だったのではなかった。

問題を共有化することができたのはとてもよかったのですが、ではこうすればいいということはなかなか出てきませんでした。これはなかなか難しいことです。一旦話し合いを打ち切って、授業者に感想や考えを求めました。授業者はこの授業では子どもにすべて気づいてほしかったのではない。結果を求めているのではない。何度も何度も繰り返し実験をすることを通じて初めて気づくことがある。たとえ見つからなくてもいい、集中して取り組むことがねらいだ。こう自分の思いを伝えました。また、以前の学年で同様に取り組んだときとの違いも話しました。
このあと私の話が予定されていたのですが、司会者は予定を変えてこの授業者の考えに対しての意見を皆さんに求めました。とてもよい判断です。ここから話が深まるところです。しかし、今回のような展開がこの学校では初めてだったこともあり、残念ながらなかなかつながる意見が出てきませんでした。授業者の思いにどう反応していいか戸惑いがあったのかもしれません。後から思えば、「今の授業者の話を聞いてなるほどと思った人」といった聞き方をした方がよかったのかもしれません。時間がなかったこともあり、私から少しお話させていただきました。

・「気づく」という問いかけで見つけることは難しいこと。視点を育てていかなければいけないこと。視点は、教える方法もあれば、子どもたちの視点を共有化していく方法もある。活動の前に、以前の経験を思い出させるやり方もある。
・今回の授業は、その視点を子どもたちで見つけていくのがねらいの授業であること。であれば、次時では気づいた結果ではなく(もちろんこれも大切)、その視点を共有化することをより大切にすること。
・とはいえ、今回の授業では活動が止まっているグループがあったのにそのまま続けたのは問題であること。一旦活動を止めて、結果を発表するのではなく、どんなことをしたか、どこを見たかといった、実験、活動を共有化して、止まっているグループに動くきっかけを与えて再びグループにもどすことが必要だったこと。
・子どもは毎年、毎年違う。学級によっても違う。たとえうまくいった流れであっても、目の前の子どもの実態によって修正することが必要であること。

このような内容です。

検討会の後、授業者ともう一人の理科の先生と一緒にお話しました。
理科は現実と仮説の間を行ったり来たりする教科です。このことを授業者もよく理解していました。今回の授業でも現実とこのモデルの結果をきちんと比べる場面が必要だと思います(理科(モデル)で大切にしたい問いかけ参照)。星は授業の中ではなかなか見ることができません。しかし、シミュレーションのソフトや写真など、確認できる材料は今の時代は豊富にあります。こういうものを利用することも考えてほしいと伝えました。
金星の見え方のあとに月の見え方を学習するそうです。ならば、月では視点を持って実験できるはずです。子どもたちがどう育っているかが勝負です。また、今回の授業の前に星座を扱ったそうです。当然、オリオン座はなぜ冬にしか見えないかというような課題を扱っています。となると、星が見える見えないことと太陽の関係(昼か夜か)の視点はあったはずです。「いつ」「どこで」「どのように」見えるという視点の内、「いつ」「どこで」という視点はすでに持っていなければいけないということです。今回、金星でそのことになかなか気づけなかったということは、星座での押さえが弱かったということです。子どもたちの実態がそのことを物語っていることに気づいてほしいとも伝えました。
また、地球を表すピンポン球を白黒に塗り分けていることの意味を伝えていません。太陽・金星・地球の位置関係だけではなく、モデルには昼と夜という要素も入っています。また黄色い太陽は、光っているということも表しています。そのことを理解し意識しないと、金星の見え方に気づけません。今回の課題は、モデルを理解するということと、その上でどう見えるか考えるという2ステップあるのです。それを1度にやっているので、最初のステップをクリアしていないグループは先に進めなかったのです。どこかで、最初のステップ、モデルの理解を全員で共有する必要があったと伝えました。授業者は他の学級ではやっていたようです。ということは、その必要性には気づいていたのですが、明確に授業の構成要素として意識はしていなかったということです。このことを意識できるようなればぐっと伸びると思いました。
授業者は、自分の授業の目指す方向をしっかり持っています。とても頼もしく感じました。ただ、経験が少ないこともあり、まだ大きく広げた網の目が粗いのです。目指す姿と現実の子どもの姿の違いをしっかり受け止めて授業を修正していくことで、その網の目が緻密なものになっていくと思います。これからに期待をしたいと思います。

もう一人の先生もこの機会にたくさん質問をしてくれました。考えながら授業に臨んでいるということです。とてもよいことだと思いました。

授業者の思いが強い授業だったおかげで、子どもを育てることについて深く考えるきっかけになったと思います。司会者も、先生方をつなぐことで課題を明確にすることに挑戦してくれました。このこともとてもうれしかったことです。このような授業研究を積み重ねることで、この学校は次のステージに立つことができると期待します。私にとっても子どもの視点を育てることについて深く考えることのできた時間でした。ありがとうございました。