授業アドバイスの手ごたえを感じる(長文)
- 公開日
- 2014/12/08
- 更新日
- 2014/12/08
仕事
先日、小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環で、今年度第2回目でした。
6年生の算数は、順列の学習でした。子どもの表情がとてもよいことが印象的でした。子どもたちと先生の関係がよいことがよくわかります。授業者は笑顔で、とにかく子どもたちをよく見ようとしています。子どもたちが安心して授業に参加している理由がよくわかります。
先輩に教わったということですが、算数の授業では子どもたちに「算数博士になる」という目標を意識させていました。「は」は「はや(速)く」、「か」は「かんたん(簡単)に」、「せ」は「せいかく(正確)に」で「はかせ」です。算数的なものの見方考え方を子どもたちに意識させるよい方法の一つだと思います。
子どもたちの考えを大切にして授業を進めていきます。3人がリレーをする時の走る順番が何通りあるかを個人で考えさせた後、グループで話し合わせます。グループになると止まっていた子どもも動き出します。どの考え方がいいかを「このやり方は速いけれど、簡単なのはこちらだ」と「は・か・せ」で議論しています。子どもたちが評価の基準を持っていることのよさを感じることができました。
指名した子どもに考え方を説明させます。子どもは友だちの説明に対してしっかり反応できます。授業者は上手く説明できない時には他の子どもに説明をさせますが、きちんと本人にそれでよいか確認します。基本がきちんと押さえられています。わからない子どもに対して、友だちの説明がわかったかの確認もしっかりします。「わかった」と答えたあと、「自分の言葉で言ってくれる?」と言わせました。一瞬緊張しましたが、たどたどしいながらもなんとか自分の言葉で説明し、終わったあと笑顔になったのが印象的でした。
3つの順列の適用題はすぐにできたのですが、4つの順列の問題で子どもたちがつまずいています。2番目がそれぞれ3つあるのに、2つになってしまっています。3番目で止まっている子どももいます。授業者には予想外だったようですが、できる子どもを指名して板書しながら説明させました。よいヒントになったのですが、指名された子どもは最後まで書いてしまいました。ここは、途中で止めた方がよかったでしょう。
子どもたちが4つの順列の樹形図を書けなかったのは、3つの順列の時に「は・か・せ」の「せ(正確)」を確認しなかったことが原因と思われます。授業者は、指導案では漏れがないか確認することを意識していたのですが、実際にはきちんと押さえませんでした。「正確であること」=「正しい」=「漏れがない」をきちんと確認する必要があったのです。第1走者をリストアップした時に、「これで全部?」「他にはない?」「絶対?」と確認し、理由を言わせます。第2走者でも同様です。1番目、2番目、3番目と順番を意識しながら、「これで全部か」をしつこく確認するのです。子どもたちは1番目、2番目、3番目と樹形図を横に追いかけて書いています。そうではなく、1番目はこれで全部、2番目は・・・と縦に書かせることが必要だったのです。一つひとつの順列を書くことではなく、もれなく書きだす書き方を意識させなければいけなかったのです。3つの場合で子どもたちがあまり抵抗なく正解を出せたので、授業者は確認を怠ってしまったようです。
とはいえ、子どもたちはとてもよい雰囲気で学習していました。だからこそ、教師が何を押さえ、焦点化し、共有するかが問われるのです。
3年生の体育の授業は、ポートボールでした。
子どもたちは準備運動をしっかりとやっています。集合解散も素早く行えます。次の練習のためにボールを取りに行かせたところ、かごへは素早く移動しましたがそこで困ってしまいました。ボールがどれだけ必要かわからなかったのです。指示があいまいでした。指示をし直した後、子どもがボールを持って戻ってくるのに、移動が遅くなっていました。子どもたちは、今度は早く移動することを意識していなかったようです。
これに限らず、授業者が明確に指示をしなかったことや、子どもにこうなってほしいと意識していないことを子どもたちはできません。あたりまえと言えばあたりまえですが、一つひとつの場面で目指す子どもの姿がはっきりさせることが大切です。
例えば、ドリブルの練習一つとっても、毬つきをしている子どもがほとんどです。ドリブルのポイントを意識して練習している子どもはいません。バウンズパスもどんな場面で利用するのかを教えていません。ただ、活動しているだけの練習でした。
この日は試合形式の練習です。ドリブルなしで全員がボールをキャッチするまで、シュートをしてはいけないという特別ルールですが、違反した時にどうやって再開するといったことは説明しません。子どもたちはゲーム中に戸惑ってしまいました。
子どもたちはやみくもに動いています。授業者は試合中に「シュート」といった指示を出しますが、子どもたちは指示されたことをとっさにやっているだけで、自分で判断したわけではありません。これでは技術は向上しません。また、試合のないチームの子どもはぼんやりとしているだけです。
最初に今日の試合形式の練習でのポイントが何かを説明することが必要です。もし説明しないのであれば、短い時間で全員に経験させ、他のチームのプレイも見せて、どうすればうまくゲームを進められるか相談させることが大切です。
授業者は自分が意識したことは子どもに徹底できる力はあると思います。要は、何が大切か、子どもたちにどうなってほしいかをきちんと意識することです。このことを強くお願いしました。
この市では5、6年生以外も外国活動を行っています。4年生の外国語活動を見ました。この日は家族を表わす単語を家族の写真や絵を使って”Who is this?”に答えることで練習するものでした。市全体で共通のカリキュラムがあるので、授業者の問題ではないのですが、英語を習得するという意味では、非常に問題のある授業でした。
語学の習得の初期段階では、「聞く話す」と「読む書く」は混在しない方がよいと言われています。単語書かれた絵で発音練習していることが気になります。文字を覚えてくれればラッキーという程度だとは思いますが、単語を覚えるのにはノイズとなります。また、Classroom Englishを使うのですが、肝心の言葉の説明は日本語でします。”brother”や”sister”は日本語で説明するとおかしくなります。兄と弟、姉と妹の区別がないからです。英語を日本語に1対1で対応付けることは避けるべきです。”situation”を理解することで身につけることが大切です。All Englishでねらうべきはこの部分なのです。ここで日本語を使ってしまっては意味がありません。
“What is this?”に対して”This is ○○.”という会話も気になります。確かに写真や絵を間にはさんでの会話は”this”でやり取りできますが通常は”situation”で変わります。”it”になることもあります。同じパターンだけで練習して習得してしまうと、混乱して修正しにくくなります。きちんと”this” ”that” “it”の違いを身につけさせる必要があります。
また、単語の練習で班ごとに列で順番に”father” “mother” と一つずつ順番に答えさせる場面がありました。一人が一つの単語言うだけです。他の班はそれすらもなく聞いているだけです。活動量の余りの低さにびっくりします
最後はいつものようにゲームです。この日は各自が描いた家族の絵をもとに、じゃんけんに勝った人が“What is this?”と絵を指さして、相手が”This is ○○.”と答えるものです。交代して終わりますが、ゲームのポイントを得るのはじゃんけんに勝った人だけです。英語の活用と関係のないところでゲームの勝敗が決まります。外国活動の目標が外国語と関係のないところに行ってしまいます。
担任がだれであっても外国語活動の授業ができることを目標にしたカリキュラムということはわかるのですが、ぼつぼつ次のフェーズに行くことを考えてほしいと思います。私が言うべきことではないかもしれませんが、そのことを教育委員会や校長会にはお願いしたいと思います。
6年生の音楽の授業は、かなり教材研究をしたと思わせるものでした。
授業の最初に全員で合唱しますが、歌う前にポイントを具体的に確認します。子どもたちは笑顔でとてもよい姿勢で歌っていました。ポイントを意識していることがよくわかるものでした。
この日はホルストの組曲惑星から木星の鑑賞でした。曲想の変化に注目させるのですが、「曲想」が何かが明確になっていません。この時間を通じて理解することでもよいのですが、音楽の用語をきちんと押さえながら進めることが大切です。曲を聞かせてから、子どもに感想を言わせます。つぶやきを拾ったときは、きちんと全体に対して発表をし直させます。とてもよい対応です。しかし、そこで自分で説明を始めてしまいます。もう少し他の子どもにつなぐことをしてほしいと思います。
ホルンの音が前に出ていることを説明して、再度聞かせます。説明で終わってしまっては気づけなかった子どもはそのままです。これもよい対応です。ただ、その場面を子どもたちで気づけるようにすることを意識するとよかったと思います。具体的には、ホルンの音が出てきたら手を挙げるといった指示です。
ホルンが6本と多いことを説明するのですが、子どもたちはピンときません。そもそも通常何本か知らないからです。教えてもいいですが、通常のオーケストラの写真と惑星を演奏しているオーケストラの写真を比べて見せても面白いかもしれません。特徴である、ホルンとティンパニーの構成の違いに気づくことができたかもしれません。
曲の感想をイメージで答えさせます。ここから音楽的な表現につなぎたいところです。子どもからは、「音が低いから」「ゆったり」という音楽表現につながる言葉が出てきますが、その場では深めたりつなげたりはしませんでした。
子どもたちの発言が終わったあと、そのイメージがどこから来ているか音楽表現に関する用語を出して、音楽的な根拠を求めました。視点を与えるのはいいのですが、用語の意味が全員に理解されていなければいけません。まずは、簡単に説明するか、子どもに確認したいところでした。何度も聞かせて鑑賞を深めさせようとしているのですが、友だちのイメージを聞くだけではなかなか深まりません。授業者は過程や根拠をつなぐことを意識せずに、子どもの感想を聞いては自分で説明をしてしまいます。結局教師がしゃべりすぎの授業になってしまいました。子どもはしっかりと感想を書いています。その感想をつなげることを意識すべきでした。
「同じような感想を持った人いる?」「それって曲のどういうところで感じた?」「同じようなことを感じた人いる?」「あなたはどんな感想を持った?」と根拠となる表現と感想をつないでいくのです。その上で、もう一度聞くと曲に対する理解が深くなったと思います。
どんなことを感じたというアプローチもいいのですが、逆に「作者は、木星はどんな星というイメージをもっているのか?」を課題としてもよかったかもしれません。より作者の表現を意識することになるからです。
「木星」という曲について本当によく教材研究をしていました。教材研究をするとどうしてもそのことをしゃべりたくなるのが人情です。そうではなく、子どもの言葉をつないだり深めたりする過程で教材研究を活かすという発想をしてほしいと思います。あくまで、子どもに気づかせることを基本とするのです。
授業後、個別に授業アドバイスをしました。どなたもとても素直に聞いていただけます。この姿勢であれば、必ず進歩すると思います。事実、前回に引き続き授業を見せていただいた方は、私のアドバイスを確実に自分のものにしていると感じました。私も自分のアドバイスに手ごたえを感じることのできた授業でした。こういう経験をさせていただくと私も元気が出ます。ありがとうございました。