私立の中高等学校での授業改善
- 公開日
- 2015/05/26
- 更新日
- 2015/05/26
仕事
私立の中高等学校で、授業アドバイスを行ってきました。今回は3人の先生の授業を中心に、学校全体の様子を見せていただきました。
昨年度の後半と比べると授業規律はよい状態でした。しかし、3年生の一部の教科では1時限目から伏せっている子どもの姿が目立ちました。授業者との関係以前に、わからない、やってもムダといったあきらめの状態のように思います。今年度は1年生の内に基礎基本の徹底をするようにお願いしています。子どもたちが授業に参加できるための最低限を早くクリアしたいからです。
授業者によって子どもの集中度の違いが大きいように感じます。一見すると同じように落ち着いて授業に参加しているように見えても、子どもが受け身でノートをとることにエネルギーを使っているのと、「わかろう」「できるようになりたい」と話を聞いているのでは集中力が違います。また、総じて子どもたちの集中度が高い授業は、授業の雰囲気が柔らかいように感じました。子どもの安心感や信頼感が雰囲気に表れているのでしょう。
昨年度授業評価アンケートで気になる傾向があった、中学2年生の教室の様子を観察しました。事前に聞いていたよりも落ち着いていたのですが、気になる何人かの子どもたちとそのほかの子どもたちの関係が気になりました。気になる子どもを意図的に真ん中の列に集めていたのですが、そうすると先生の意識がどうしてもそこに集中してしまいます。気なる子どもの発言や行動に先生が反応してしまい、結果として、他の子どもたちと先生の関係が薄れます。先生の視線を奪われることで、子ども同士の人間関係も悪くなってしまいます。他の子どもたちの活躍の場面を意図的につくり、しっかりと受容し認めることが大切です。
気になる子どもたちの座席も、固めるのではなく前列で他の子どもと一緒にした方がよいと思います。何かあればすぐに先生が対応できる場所であればいいのです。もし、まわりの子どもにちょっかいを出すようであれば、ちょっかいを出された子どもに声をかけます。「我慢してくれてありがとう。先生はあなたたちをちゃんと見ているよ」というメッセージを伝えれば大丈夫です。気になる子どもは、ちょっかいを止めればほめるようにします。ペアレントトレーニングです。
また、気になる子どもが先生に向かってしゃべってくるときは、授業に関係のない話であれば基本無視をします。授業に活かせる話であれば、いいことを言ってくれたと全体に対して話をさせて共有します。他の子どもに評価させ、人間関係をつくるようにします。
このようなことをアドバイスさせていただきました。
高校1年生の古典の授業は、子どもたちが授業者の話をよい表情で聞いていました。授業者との人間関係のよさを感じます。しかし、質問や問いかけに対して今一つ反応しません。子どもたちは「聞くこと」「書くこと」はするのですが、「話すこと」に対して消極的です。待っていれば授業者がわかりやすく説明してくれるからです。子どもたちに積極的に活動することを求める必要があります。また、授業者の話はよく聞くのですが、板書があると写すことを優先します。やはり、写すことより説明を聞くことをはっきりと求めなければいけません。授業者との人間関係がよいので、求めれば応えてくれるはずです。
今の時期の古文の授業では知識主体です。どうしても教えることが主体となりますが、文法の副読本で調べることもできます。その時、ただ調べて終わるのではなく、その結果を隣や全体で確認するだけで子どもたちに動きが出てきます。また、知識をただ覚えるだけは定着しませんので、実際に使って経験をすることが必要です。子どもたちの出力場面を増やすことを意識してほしいと思います。
高校3年生の数学の演習の授業は、子どもたちがとても集中し、積極的に参加していました。「できるようになりたい」「やればできる」と子どもたちが考えていることが伝わります。授業者はとても柔らかい表情で子どもたちをよく見ています。ところどころ問いかけるのですが、子どもたちは板書を写すことを優先してしまいます。授業者もすぐに指名するので、実際には子どもたちは考えていません。大切な内容は、流れをいったん止めて全員で考えさせることが必要です。子どもたちは、わからなければ「なんで?」と疑問をつぶやきます。「わかった!」と反応もします。問題の解き方を友だちと聞き合っている姿も見られます。とても安心感のある授業です。是非とも、こういった子どもたちに「何がわからない?」「わかったことをみんなに説明してくれる」「どんなことを相談していたの?」と発言を求め、他の子どもたちとつないでほしいと思います。
ていねいでわかりやすい説明なのですが、あくまでも答案の解説です。問題を解く力をつけることには今一つつながりません。問題を解く前に、具体的にいくつか試してみたり、今までやった知識で何が使えそうかと確認したりといった、見通しを持つための活動を入れるとよいでしょう。数学的な見方・考え方といったメタの知識を大事にしてほしいと思います。
できた子どもに対して前で○つけをしていましたが、途中で○つけのために教室を回りだしました。しかし、途中でつまずいている子どもに説明を始めて、中途半端で終わってしまいました。できているところまで○をつける部分肯定、つまずきに対して一声で済むようなアドバイス、全員に○をつけるといったポイントをアドバイスしました。
非情に素直で熱心な先生です。個別にいくつものよい質問をしてくれました。次回訪問までに、きっと進化した姿を見せてくれると思います。
高校1年生の英語は、子どもと授業者が今一つつながっていないように感じました。
授業者の指示に対して子どもの動きが遅いことが気になります。授業者は指示が通るのを待っているのですが、素早い動きを求めないと子どもはそれでいいと思ってしまいます。また、素早く動いた子どもは待たされるばかりなので次第に嫌になって動きが遅くなってしまいます。結果として締まらない授業になってしまいます。同様のことは個人作業でも気になります。早くできた子どもに対する次の指示がないので、できた子どもの集中力が切れてしまうのです。
子どもたちは、ワークシートに書きこんだものが試験に出ると思っているようです。授業者の話より書き込みを優先しています。授業者は手元の資料を見ながら話をしているので、漠然と全体の様子しか見ていません。子ども一人ひとりに視線を落としていないのが気になります。今授業者が、子どもたちにどうあってほしいのかがはっきりしないので、子どもたちも恣意的に行動するのです。子どもたちの活躍の場面が少なく、子どもの外化に対しても評価しません。授業者と子どもがつながっていないと感じます。
授業者、教材研究を熱心に行っています。知識を一方的に与えても身につかないことも理解しています。子どもたちにどのような活動、特に言語活動をさせるとよいかという視点で授業の組み立てを考えてほしいと思います。
この学校での授業改善は始まったばかりです。今後方向性の修正を含め、一歩ずつ足場を確かめながら進めていく必要があります。今回は特定の先生を中心にアドバイスを行いましたが、次回は夏休みに模擬授業を使った研修を全体で行いたいと思います。その結果、どのような変化が見られるかをもとに、次のステップを考えていきたいと思います。先生方の変化が楽しみです。