日記

小学校で教科内容についてのアドバイスを行う(長文)

公開日
2015/06/15
更新日
2015/06/15

仕事

小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環で、今年度第1回目の訪問でした。3人の先生の授業を見せていただきました。

2年生の国語の授業は、迷子探しゲームをする場面でした。
子どもたちの表情がとてもよい学級です。授業者の表情も柔らかく、学級経営が上手くいっていると感じました。
前時の復習をします。迷子のお知らせ(アナウンス)で大事なことはいくつあったかをたずねます。服装や性別、名前などの項目の数がいくつあったかは国語としてあまり意味のある問いではありません。迷子を見つけるために大事なこととはどのようなことかをまず押さえることが大切です。続いて、一問一答で具体的に項目を発表させます。子どもたちは思い出しながら答えますが、このことを覚えていることにあまり意味はありません。ノートで確認させればいいことでしょう。
この日のめあては、「まいごさがしゲームをしよう」です。ゲームをすることが目標になっているので、子どもたちは、ただゲームをすればいいと思ってしまいます。どんな力をつけたいのかを明確にして、子どもたちがその力を意識できるようなめあてにしたいところです。
これからやる、まいごさがしゲームを代表の子どもと授業者で行います。お知らせを聞いて、絵の中から迷子を見つけるゲームです。「よく見てください」と言って始めます。授業者が説明をしながら、やって見せますが説明するたびに流れが切れます。代表者以外の子どもたちはこの間ずっと受け身です。子どもたちは見通しがないまま見聞きするので、集中が切れていきました。また、授業者はわざと間違えた情報を与えて、「大事なことをわかりやすく伝える」という評価を意識させようとしました。しかし、説明、実演と同時だったので、迷子が見つからないのはゲームを理解できていないのか、お知らせの内容が悪いのかよくわからず、混沌としてしまいました。ここは、まずゲームの説明をして見通しを持たせてから、実演を見せるとよかったでしょう。実演の途中で、次にどうするのか子どもたちに問いかけることで参加させながら確認することができます。この活動を、話し手、聞き手それぞれが「わかりやすい説明」「はっきりと話す」「相手を見て話す」の3つの視点の項目に○をつけることで自分、相手を評価しますが、これについてはシートを配るだけで具体的にどういうことか、どうすればいいのかを押さえていません。やり方を確認した後、もう一度実演して評価の練習をするべきだったでしょう。わざと間違えたりするのはこの時でよかったと思います。特に、「わかりやすい説明」は、具体的にどのようにすればよいかを子どもたちに言わせておきたいところでした。
ペアでゲームを行いますが、子どもを正対させます。正対は対立する関係になりやすいので注意が必要です。ペア活動は、机を寄せて、体を斜めにして互いに見合うことが基本です。また、このゲームはお知らせ(アナウンス)を聞くのですから、相手を見て話すというのはあまり相応しい設定ではないように思いました。相手と見合うのであれば、反応することが必要です。お知らせ(アナウンス)ではなく、ゲームのヒントとするか、目をつぶってしっかり聞くといった設定にした方がよかったでしょう。メモを取らせずに聞き取ることをさせますが、それであれば、「メモを取らなくてもわかるようにするためにどうするか」という視点も与える必要があったと思います。どのような力をつけたいのかもっと意識したいところです。
1回終わって、すぐに2回目に移りました。活動のねらいを意識させるためにも、○をつけたところが具体的にどのようによかったか、何組か発表させて共有したいところでした。
2回目は、好きな子同士でペアを組ませます。これは避けるべきです。授業に普段の人間関係はできるだけ持ち込まないことが原則です。相手の取り合いや相手の見つからない子どもが出てきます。今回は男子同士、女子同士のペアがほとんどでした。男女の関係をよくするためにも、避けるべきだったように思います。好きな子同士なのでテンションは上がります。ペア1回ずつ終わったあともテンションは下がりません。
国語としての活動のねらいを明確にする必要性を感じました。ここが曖昧だと目標も漠然としてしまいます。このことを意識して授業を組み立てると、大きく進歩すると思います。

6年生の道徳は、「すれちがい」をテーマにして相手の気持ちを理解することを考えさせる授業でした。
事前のアンケートをもとに、相手に腹を立てた経験を問います。それはどのような時かを問いかけ、「約束を破られた時」「悪口を言われた時」といった言葉を引き出します。自分はよく「約束をやぶっとる」と言う子どもがいます。素直にこういうことを言い合えるのはとてもよいことです。今回はすれ違いで、約束を破られたように思って関係が壊れる話なので、「約束を破った時、どうしてる?」「その時、相手はどう反応した?」と言ったことを聞いておくとよかったと思います。その子どもの発言をもとに、全体にも問いかけておくのです。
資料を子どもたちに配って範読します。資料を配るとどうしても子どもたちは、資料を見ながら聞きます。国語と違って本文を見ながら考える必要はあまりありませんから、資料は配らずに、顔を上げて聞かせた方がよいと思います。資料は同じ出来事が2人の登場人物の視点で語られます。1人目の話が終わったあと、黒板を上下二段に分け、それぞれに起こったことカードを使いながらテンポよく整理します。事実を色や囲みを変えて見せることでわかりやすくする工夫もしていました。よく準備しています。範読しながらこの内容確認をすればもっと効率的にできたと思います。
すれちがいから約束を破られたと思った子どもの気持ちを言わせます。子どもたちは、友だちの意見によく反応します。「約束を破っとる」と素直に言える子どもがいることといい、安心な学級をつくることができていると感じます。
続いて、もう1人の登場人物の立場で話を進めると、すれ違いであることが明らかになります。というか、1人目の登場人物は状況を自分勝手に判断していたことがわかります。ここで、「相手の事情がわかった後、どういう気持ちになったでしょう?」と問いかけます。すれ違いのきっかけとなった、たまたま訪ねてきた親戚を非難するといった、自己正当化をする意見も出てきます。それまで授業者は子どもの意見を板書していたのですが、この意見はどう処理していいかわからなかったのか板書しませんでした。道徳では、教師があまり価値判断をしない方がよいので、簡単に「親戚が悪い」とメモ書き程度はしておいた方がよかったでしょう。子どもたちは相手の子どもに何があったかを知らないままに1人目の子どもの立場で意見を言っていたので、なんとなく引っ込みがつかなくなったのか、第三者のせいにする発言が多かったように思います。
最後に「どうすればよかったと?」と質問しますが、正しい状況がわかってからどうするかを考えてもあまり意味はありません。今後自分が友だちに約束を破られたと感じた時にどういう態度をとるかを考えさせることが大切です。
この教材であれば、「すれちがい」というタイトルも伏せておいて、1人目の登場人物の話の時に、その子どもの気持ちだけでなく、あやまったけれど無視されたもう1人の登場人物の気持ちも聞くとよかったと思います。その上で、もう一方の立場から話を聞かせて、自分たちの想像とは違った気持ちだったことに気づかせます。そのあと、あらかじめ聞いておいた、「約束を破った時どうする?」「破られた時にどうする?」といった質問をもう一度するのです。その上で、考えが変わった人に、その理由を聞いていくとよいでしょう。
「この考えがいい」と、こちらか価値を押し付ける必要はありません。子どもたちが友だちのいろいろな考えを聞き合って互いに影響され合えばいいのです。子どもたちの心を耕し、少しずつよい方向に変容することをうながすのです。道徳では、最初と最後に同じ質問をしてその変化を聞き合うという方法がありますが、この資料はその方法に適していると思いました。

6年生のもう一つの学級は、国語のパンフレット作りの授業でした。
授業者は笑顔を絶やしません。子どもたちの言葉をきちんと受容できています。子どもが反応することもほめています。子どもがよくつぶやくことからも、安心感のある学級がつくられていることがわかります。
駅でパンフレットが置かれている写真を見せて、パンフレットを手に取ってもらうには何が大事かを考えさせます。駅は、不特定多数の広い年齢層が利用することを押さえた上で、「相手や目的に合わせてパンフレットの構想を練ろう」というめあてを示します。
パンフレットの「形式」と「題材」に分けて、色分けした付箋に考えを書かせます。「形式」とはどういうことかを確認しますが、見た目といった言葉の説明で終わります。もう少し具体例を挙げてもよかったでしょう。ここでいう「形式」は、レイアウトに近いものです。これを子どもたち考えさせるのはかなり難しいように思います。子どもたちはすぐに鉛筆を持って手を動かそうとしていますが、ちょっと困っているように見えました。考えるための材料を子どもたちが意識できていないのです。授業者は、「ノートを見てもいいね」と作業中に声を出します。子どもたちからするとわざわざ先生が言うことだからと、無批判で受け入れます。ここは、机間指導中に「ノートで振り返っているね。いいね」とノートを見ている子どもをほめるといいでしょう。それを聞かせることで子どもに自分でどうするかを判断させます。
今回は作業中に話したので、ヒントはなかなか浸透しませんでした。授業者は作業をいったん止めて、あらためてノートを活用することを指導しました。こういう判断ができるのは、子どもたちをよく見ている証拠です。
この後子ども同士で相談させますが、思った以上に話し合うことができています。聞く姿勢ができているように思います。続いて全体で発表し合いました。教師はあまり介入せずに子ども同士で意見を言い合います。子どもたちは友だちの発言をよく聞いています。授業者は発言が止まると「同じでもいいので」と、多くの子どもを参加させるよう働きかけます。しかし、最後はどうしても一部の子どもに発言が集中してしまいます。「形式」では「写真」や「文字」の工夫、題材では「特産品」に関する意見が出てくるのですが、それ以上は話が深まりません。途中で、視点や根拠を全体で共有する必要があります。この課題であれば、「だれに読んでもらいたい?」「読んだ人にどうなってほしい?」「どう思ってほしい?」と「相手」や「目的」を意識させて、つないでいきたいところでした。「この市のよさを伝える」という目的があるのですが、その結果どうなってほしいかをという目標を明確にすることが必要です。「この市に遊びにきてほしい」「この市に住んでほしい」「この市の特産品を買ってほしい」といったものがあれば、パンフレットで紹介すべきものが特産品以外にも出てくるはずです。また、「形式」も「写真」や「文字」以外にもたくさん出てくるでしょう。こういった目標を最初に確認する以外にも、作業を早目に中断して中間発表を行って焦点化することで意識させる方法もあります。時間は少しかかりますが、子ども自身に気づかせるような活動も大切です。
また、「形式」を子どもたちに一から考えさせるのは少し無理があると思います。「形式」は事前学習したものを分類して、そのよさを整理しておくとよかったでしょう。テンプレート化しておいて、題材を決めてからどれを使えばよいか選ぶのです。
子どもたちはとても前向きで、授業者、子ども同士の人間関係も良好でした。一生懸命課題に取り組んでいましたが、この授業でどんな国語の力がついたのか、考え深まったかは疑問が残るところでした。学級経営や授業規律などの基本はしっかりできているので、授業のねらいとそれにつながる活動を意識して教材研究をしてほしいと思います。今後の進歩が楽しみです。

全体に対しては、「活動主義」にならないようにお願いしました。一つひとつの活動の目的を意識して、子どもたちにわかる具体的な目標を設定し、子ども自身で評価できるようにしてほしいのです。評価場面も明確にすることも忘れないでほしいと思います。

教務主任からは、授業検討会の持ち方について相談を受けました。子どもの事実をもとに話をすること、検討会で上がってきた共通の課題については、次の研究授業の授業者に引き継ぐことなどをお話ししました。とても前向きで勉強家の先生です。きっと改善されていくことと思います。

この日見た学級はどこも授業規律などの基本ができていたので、教科の内容についてのアドバイスをすることができました。ここからの道のりは長いものになりますが、一歩ずつ着実に前に進んでくれることを期待します。次回の訪問での変化が楽しみです。