授業観を問い直してほしいと感じた授業
- 公開日
- 2015/07/16
- 更新日
- 2015/07/17
仕事
中学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。この日は、経験年数は少ないのですが、年齢的には中堅層に属する方の授業アドバイスでした。
2年生の社会科で、脱原発かどうかを考えさせる授業でした。
授業者は緊張していたのか、しゃべりが早く一方的です。授業も基本的に子どもたちとの一問一答で進んでいきます。子どもたちの視線が集まっていないのにしゃべり始めるので、集中しません。この日の授業は子どもたちに、「すべて廃止」「減らすべき」「現状維持」「増やすべき」の4つの立場に分かれてグループで考えさせようというものでした。
前時までに、個々の立場は決まっているので、同じ意見の者を一つのグループにしています。グループになってからこの日の課題「それぞれの立場で説得力のあるキャッチコピーを考える」を「トイレなきマンション」といった有名なものを示しながら説明します。ここに結構な時間を使います。子どもたちはグループになった瞬間は意欲が高まったのですが、また下がっていきます。授業者は説得力のあるキャッチコピーとはどういうものか、またどうすればつくれるのかと言った手段は何も伝えません。ただ、自分がその立場になった理由を付箋紙に書いて模造紙に貼り、それを整理するという作業の指示だけです。キャッチコピーとの関係はわかりません。根拠を持って議論することのできない課題を与えて、しかもグループで一つにまとめるとなると、テンションが上がるか、何も出てこずにムダ話が始まるかのどちらかです。
子どもたちの中には前時までに自分の考えの根拠となる資料を持っている者もいますが、それだけをもとに話を進めても意味はありません。資料を互いに共有して考えることが必要ですが、同じ考えのグループ内で共有するだけでした。
活動の途中にとにかく授業者がよくしゃべります。子どもたちはほとんど聞いてはいません。ムダ話が増えテンションばかりが上がります。グループの話し合いに授業者が参加して、自分の考えを言っています。グループにする意味がありません。
途中で「後10分」と時間を区切ります。子どもたちはいきなり時間を切られて、当惑します。全く進んでないグループ、ほぼ終わっているグループ、どちらもテンションがおかしくなります。進んでないグループの中には、誰かが決めてくれればいいという態度の者がかなりいます。中にはプリントを裏返して、明後日の方を向いている子どももいます。子ども同士がかかわれません。ほぼ終わっているグループは、何もすることがないので雑談が増えます。目標や手段が明確でない活動は、このような状態になってしまうのです。
発表時間になっても、まだつくれないグループがいくつかあります。しかたがないので、作業を続けさせながら、できたグループの発表です。これでは、全体で発表する意味がありません。何を目的とした活動かが完全に忘れ去れています。互いの考えを聞くことではなく、発表そのものが目的のようです。それとも、授業者に評価してもらうことが目的なのでしょうか。
遅れているグループで、「やっと完成した」という声が上がりました。その言葉を発したのが積極的に参加せず、雑談しながら傍観していた子どもでした。人間関係を悪くするグループ活動の典型でした。
結局、目標も評価する基準も、キャッチコピーの根拠となる事実も何もはっきりしません。子どもたちが何を考えたか、よくわからない授業でした。
授業者に、「子どもたちは考えたと思いますか?」と質問しました。グループ活動で何かを考えたはずだと答えが返ってきます。何かとは、何なのでしょうか?キャッチコピーをつくったのですから、確かに何かを考えたのかもしれません。それは、社会科として意味のあることだったのでしょうか。子どもたちの何を高めたのでしょうか。授業における、向上的な変容を求めているのか、いささか疑問に感じました。
授業者は以前からしゃべりすぎを指摘されていたので、それで今回はグループ活動にしたようです。授業の考え方が根本的にずれてしまっています。
厳しいようですが、子どもたちにどのような力をつけたいのか、子どもたちのどのような姿を見たいのかという「授業観」を自身に問い直してほしいと思います。細かい授業技術は、意識して訓練すればある程度はすぐに身につきます。しかし、根本的な授業に対する姿勢や考え方は、傍から言って変わるものでありません。この方にとって今は、このことに対して真摯に向き合うべき時なのだと思います。