8月20日(日)13:30より的場正美先生 シニアフェロー就任記念 シンポジウムを実施しました。
- 公開日
- 2023/08/30
- 更新日
- 2023/08/30
社会連携
8月20日(日) 13:30〜15:30に、ウインクあいち 小会議室において実施しました。司会・報告にシニアフェロー 的場 正美先生、対談者に名古屋大学大学院講師 草薙佳奈子先生、コメンテーター 名古屋大学教授 Sarkar Arani Mohammad Reza 先生をお招きし、(世界から見た日本の教育)をテーマに行いました。
今回のシンポジウムには、小中高の先生方、研究者(ドイツ・中国からの留学生も含)、出版社、学生と多様な立場の方が39名集い実施できました。
第1部 提案と対談
□提案の趣旨 的場先生より
□フロアーのグループで学び合い
□草薙先生より(インドネシアのレッスンスタディ)
□対 談(的場先生×草薙先生)
— 休 憩 —
第2部 フロアーからの質問とモハメッド・アラニ先生よりのコメント
□7グループからの質問
□アラニ先生からのコメント
第1部
□ スピーカーのご紹介
□ 的場先生より
〇提案の趣旨
・日本の授業研究には理論がないのか?
日本やアジアの授業研究は実践優位、欧米の授業研究は理論優位といわれる
・戦前の教師は授業研究をどのように考えていたのか? 現在に通じるのか?
・学び合う経験の意味とは?
世界の授業研究に詳しい研究者との対談と本日参加されている授業実践者からも学び合いたい。
●参加者への(問い1)「あなたが最初に出会った授業研究は、いつ?どこで?ですか」
グループごとに交流を行いました。(6分)自己紹介・問いについての各自の考え・意見交流
〇歴史から学ぶ 授業研究の精神
・東京師範学校 校則改正1875年・東京府師範学校「授業批判会」1885年
・大正期の授業研究 理科教育研究会1922年
・明治20年代の授業批評界の特徴 批評の基準・批判会の開催・批評内容 の事例を紹介
・1960年以降➡1980年代 授業研究の衰退(校内暴力・不登校・教師の多忙化)➡1990年代 新しい学問領域(認知心理学・エスノグラフィー)➡授業研究の再発見(Lesson study・校内研修による学校づくり)➡WALSの設立(授業研究の世界への広がり)
・他者から学ぶ(Learning from Each Other)同僚から、子どもから、ベテランから、専門家から、助言者から、校長から、保護者から、学ぶ ➡ 日本の授業研究では、子どもの集団における学びや態度を丁寧に見つけている。
ドイツ・中国での授業研究の紹介
●参加者への(問い2)「あなたは後輩に授業研究の何を伝えたいですか? 一つ挙げてください」
グループごとに交流を行いました。(7分)シンキングタイム・問いについての各自の考え・意見交流
●グループで共有されたことを全体共有
・高等学校ではあまり授業研究が行われていないが、子どもの認知科学レベルまで踏み込みながら子どもの学びをとらえていくような授業研究を進めていきたい。
・グループでは多様な立場や視点の話し合いが生まれた。学生からは先輩の授業の良かった点を取り入れ改善点をいかしたい。授業者としては、子どもがどのように分かっていくのか。を協議することが有効になる。他の国の視点として、研究者の視点は先入観がないので重要である。授業研究は、教師のためになるが、最終的には子どもがどのように分かっていくのかを追求することである。
・グループの交流では、授業研究の印象は「あまりやりたくない」ネガティブなものが多かった。それは、先生への授業評価からくるものではないか。授業研究は最終的に子供の成長につながっていくものでなくてはいけない。授業研究について、教師が楽しいと思える視点とプログラムが必要ではないか。
〇的場先生から 宮崎小学校での授業研究実習(授業記録の分析の具体的な事例)の紹介
〇授業研究とは、様々な(解釈)共同体(意味を保持・生成)する営み
言葉➡現象を切り取る➡意味 概念の揺らぎ➡分節された事実に新しい気づきが生まれる。
□ 草薙先生より(インドネシアのレッスンスタディ)
〇今回のシンポジウム(現場の先生、研究者、学生が学ぶ場)は世界でも珍しいものです。
私が授業研究で一番大切にしていることは、「先生が楽しく学び合っていること。いいことでも押し付けにならないようにしたい」わざわざ週末に学び合いたいことは何かを研究テーマです。日本から発信された授業研究がインドネシアでどのように再文脈化されたかを探るため、昨日までインドネシアにおりました。
・授業研究の目的 教育の質の向上
・社会文化背景の違い 異なる前提(通学の様子・学校の様子・授業研究の様子)
・どのように授業が始まるのか?
・授業デザインと教授法(ワークシートの例)
・授業の様子をビデオで視聴
・授業研究の文化はどのように作るのか
インドネシアでは、校長の力が大きく、授業研究は簡単に始まる。それが、果たして教師にとっていいことなのか?
内側から授業・学校改革することの難しさを感じている。
■対 談 (的場先生×草薙先生)
的場先生:ドイツでは、授業研究をすることが、教師にとっては、自身のステップアップのために道具になっています。
草薙先生:インドネスアの場合は、LS(レッスンスタディー)を取り組む理由は、学校が授業研究をしていますよといったアッピールの材料にされています。
的場先生:アフリカでは、LSはやっていられない。現実は教室がなく、子どもは100人を超えていて、授業研究以前の問題です。アラニ先生は、アフリカへ行っていますので後ほど語ってください。日本は、授業研究をやっていない学校はない。何のためにやっているのか?考えていきたいです。
草薙先生:世界では、やはり、放っておくと、先生間や子供の競争になりがちで、ベストスクールを目指すことになる。こうした学び合いは、どのようなことだと思われますか?
的場先生:韓国でも授業改善点に注目している。アメリカでも評価される。いわゆる俎板の鯉にされている。日本でも授業案を書くと研究主任から直される。しかし、授業研究をすると楽しいと言っている先生には、何が起きているのか。楽しいとは「平和」につながっていくのではないか。子どもが楽しいときは、平和のことを考える時間になっており、どうなると楽しいになるのか。もう少し、地に足の着いた授業研究ができないだろうか。
草薙先生:授業研究はいろんな側面がありますが、的場先生にとって一番大切にしていることは何ですか?
的場先生:メチャブリですね(笑い)私は研究者です。研究者が授業実践にどうかかわるかと共通する問題です。研究者は授業記録の解釈に壁を作って示します。果たして、日本の授業研究はそうなんだろうか?佐藤学先生の「教授学が優位なのはおかしい」との批判から急激に変化した。お互いの学びの意味を考えている。私の悩みは、研究者としての立場と授業を一緒に考える伴走者として立場があります。自分の考え方がひっくり返り、新しい考えが生まれる。
草薙先生:授業研究の中で、子どもの様子を語る先生を増やしていきたい。インドネシアでは、職員室では世間話をよくするが、子どもの話を始めると競争意識が働いてしまいます。ここえ超えていうことが難しいです。
的場先生:対談は、どこまでも続きますね。ここで休憩をはさみます。その間、対談を聴いて感じたこと、グループで質問を考えてください。
アラニ先生:今の日本は、先生方のエネルギーが足りないと感じます。学校を訪問すると、「短時間で振り返る方法はありませんか?」と訊かれる。難しいことですが、どうですか
的場先生:難しいことでもないです。たとえば、校長が授業ビデオを撮り、授業後に職員室で再生します。すると、自由に話が始まる学校があります。わざわざ集まってはじめなくても実現しています。子どもたちが、自分たちで授業を撮って子どもたちが授業研究を始める。これは感心しました。「忙しい時に研究ができるかよ。」との声はありますね。
草薙先生:ワークバランスで早く帰るからできないとの声がありますが、学び合う会に参加する意味は個人の学びたい思いとネットワークの力だと思います。いろんな困難がありますが、的場先生がネットワークの重要性を話されましたように、インドネシアでは、LSを中心となり推進される先生がみえ、さらに研究者がオンラインで助言するというシステムがあります。
休 憩
第2部 フロアーからの質問とモハメッド・アラニ先生よりのコメント
□ グループからの質問
・私の学校では、授業を見合う週間があります。授業を見に行っていいですかと尋ねると、おびえられます。いわずに行くと固まります。どうしたらいいでしょうか。
・モチベーションが大切との考えに同感です。みんなが横並び主義で、先生たちがなかなか挑戦しません。
・世界のLSを見せていただき、日本のLSは理論にもとづかないと言われました。世界は理論的です。それにもかかわらず、なぜ、広がったのか?やはり、型なのか?日本のようなLSに挑戦している国はありますか?
・インドネシアは女性の先生が多いと感じたが実情は?
・ドイツの留学生と話し、その前向きさに感心しました。やはり、日本も昼から子どもを返した方がいいのでしょうか。質問です。どうしても、授業は教師が指導する場という意識はぬぐえない。本来、子どもが主導という授業に変わる日はいつなのか。
・授業研究をする時間がない。やれない。やりたくない。そういう状況で、こんなアイデアはどうでしょうか。1年に一回でいいので、みんなのアイデアをねって楽しくできる授業研究をする。
・愛知文教大学の学生の姿を見て、どうしてこう育つのか?
□ アラニ先生からのコメント
たくさんの質問をしていただき、ありがとうございました。
〇授業研究には、もっと教師に責任を渡していく必要があります。モチベーションだけでは、教師の専門性を高度化できません。教材研究だけではなく、カリキュラム開発など教師アイデンティテーをもつことが、教師を主体的にすることができます。
〇文化かイデオロギーかです。世界的に話題になっていますが、子どもを早く返すか、教師が早く帰るか。こうして、子どもたちは空いた時間で自発的な力をつけるかもしれません。
〇我々には三つの言葉が必要です。現場の言葉(実践の言語)、行政との対話、研究者の言語、テクニカル、プラクティカル、これからどうするか、という三つの言葉が必要です。
〇海外は、抽象からはじまります。日本は、具体からはじまります。日本は、具体的な実践から考えています。出発点が違います。経験から学ぶか、振り返りの場をとおして学ぶか。やはり、振り返りから学ぶものです。我々は鏡を持っています。さまざまな文化・国・システム・制度があります。他者の鏡をとおして、自分を見て問題を明確にしていく。これからは、それが目的になります。現場と研究者のアプローチが大切です。現場を尊重しなければいけません。
□ 愛知文教大学 富田健弘学長あいさつ
□ 閉会の言葉
参加された方からの振り返りを紹介します。
◆今日の講座で学んだ中で重要だと思ったことは、授業研究が授業者の評価にならず、参加者全員の学びの場になるためにはどうしたらいいのか、考えさせられました。
普段の授業研究でも、どうしても教師の動きや発問などに意識が向いてしまうが、子供の何気ない言葉やつぶやきなどを拾うことによってそこから学ぶ事が大切だと改めて感じました。大変勉強になりました。ありがとうございました。
◆今日の講座で学んだ中で重要だと思ったことは、Lesson Study の意義です。
的場先生が日本の教育方法の分野で取り組んでこられた歴史を知ることを通して、私自身も、なぜこの分野に心を惹かれるのかを考える2時間でした。「後輩に授業研究の何を伝えたいのか?」と問われたとき、授業を通して子どもを知ることや仲間(教師)とつながることの大切さを、改めてかみしめました。すでに現役を退きましたが、様々な機会を通して、後輩たちに授業研究の意義を伝え続けたいと思いました。
草薙先生のインドネシアにおける協同的な学びの再文脈化は、何度聞いても考えさせられます。再文脈化は、日本の中でも起こっていますし、学校ごとでも起こりえる現象です。型ではなく、本質を受け継ぐことの重みを再認識しました。
アラニ先生は、いつも授業の中で、「教師に責任を持たせる」ことを強調されます。自分の意志で教育の一端を請け負っていくことの責任の重さは、裏を返せば「学ぶことを楽しむ」ことの原点でもあります。また、「他者の鏡で自らを見る」「他国のLSを見ることで、日本を見る」という言葉は、研究者としての大切なレンズを教えていただいたような気がしました。こういったお話を、研究者だけでなく、現場の教師や学生を交えて共有できることに本セミナーの価値を感じます。企画していただいた皆様、本当にありがとうございました。