まず取り組むからこそ見えてくること
- 公開日
- 2016/07/05
- 更新日
- 2016/07/06
仕事
私立の中高等学校で授業アドバイスを行ってきました。
今年度は学校全体でグループ活動を取り入れた授業を目指すことになっています。今回はまず取り組んでいる方の授業を見せていただき、その様子から今後の方向性を見つけることをねらいとしました。
4人の先生の5つの授業を見せていただきました。新しいことに取り組んだからこそ、見えてくることがありました。
中学校2年生の数学の授業は、子どもたちに試験問題をつくらせるのが課題です。
すぐにグループにしてまとめるための用紙を配ります。配り終わると話を聞くようにと指示をします。しかし、いったんグループになって作業の準備をしていた子どもたちの動きを止めるのは大変です。指示をしてから、グループにして用紙を配ればよかったでしょう。
子どもたちが集中しないまま、「出るかもしれないよ」と授業者が言ったところを参考にして試験問題をつくるとよいと話をしました。ここで注意をしたいのは、先生が出るかもしれないと言ったのと似たような問題をつくるのか、出るかもしれないと言った理由を考えて問題をつくるのか、どちらをさせたいのかです。放っておくとどうしても前者になってしまいます。できれば、後者の視点で考えさせたところです。「試験には大切なこと、考えてほしい問題を出すよ。何が大切かをよく考えてください。発表は、なぜこのような問題をつくったのか理由も聞かせてね」といった、課題の提示や指示をするとよいでしょう。
子どもたちは、問題をつくりにあたって明確な戦略がありません。つくった問題を持ち寄っても、どれがよいか判断する基準を持っていないのです。そのため根拠のない活動になりがちです。どうしても子どもたちのテンションが上がりやすくなるのです。
まずは、試験範囲で大事なことは何かをグループ内で共有することが必要でしょう。それだけを話し合わせて、全体で共有してから問題をつくらせてもよかったと思います。解第解決のための足場となるものが必要なのです。
4人のグループなのですが、2+2に分かれているグループが目立ちます。まとめるための紙が2枚あったので、1枚ずつに分担されてしまったようです。こういったことにも注意が必要になります。
結局子どもたちはそれぞれで問題をつくり一つにまとめているだけです。グループで話し合う必然性がないのです。黙々と自作の問題をつくっている子ども、集中力が切れている子ども、同じグループでも子どもたちの様子がばらばらになっていきます。
授業者は机間指導をしながら、個別の子どもたちと話をします。先生の役割は、子ども同士のかかわりを促すことです。授業者がかえって子どもたちのかかわりをじゃますることになってしまいます。
授業者としゃべっていた子どもが、その後集中力を失くしている場面がありました。授業者との話は課題解決のためではなく雑談になっていた可能性があります。
各グループでまとめた紙を授業者が回収して、全体に見せていきます。あるグループのものを見て「すごい」と声が上がります。一気に子どもたちの集中が高まります。友だちのものはやはり気になるのです。ただ、紙が小さいので細かいところまで見ることができません。実物投影機などを活用するとよい場面です。授業者は「なかなかいい線いっているんじゃないですか」と言って次のグループのものに移ります。もったいない場面です。せっかく子どもたちが反応したのですから、どこがすごいのかを子どもたちに聞いて評価させたいところでした。授業者が「いい線いっている」と言っても、その理由はわかりません。せめて、どうしていい線いっているのかを子どもたちに考えさせたり、説明したりして共有したいところでした。
順番に見せていく中で、授業者がきちんと評価しないものもあります。子どもたちにも評価させないので、これでは意欲が落ちてしまいます。子どもたちに、グループごとにお薦めだという問題を選ばせるといったことが必要だったでしょう。
問題を見る時は集中するのですが、授業者のコメントに対してはあまり集中しません。もう作業が終わって満足してしまって、授業者のコメントには興味がないのでしょうか。ちょっと気になる場面でした。
最後に、試験範囲が終わった後に授業者が出るかもしれないと言ったことをメモしておけば今回とても役に立ったはずだとまとめます。次の時間にもう一度確認すると子どもたちに告げますが、そうであればこの日の子どもたちの活動は何だったのでしょうか。結局先生が出したい問題を出すのかということになってしまいます。
子どもたちが、ただ問題をつくらされただけと思ってしまうことが心配です。
この授業の課題をいろいろと指摘しましたが、これはグループ活動を取り入れたから見えてくることです。逆に言えば、この課題を解決すれば、ぐっとよくなるということです。挑戦してくれたことが大きな前進だと思います。これからの進化がとても楽しみです。
今年から教壇に立つ講師の方の高校生の英語の授業は、小テストから始まりました。
子どもたちは、一生懸命に取り組んでいます。終わった後、子どもに答を言わせます。授業者は「ピンポン」と確認します。途中からは、授業者が答だけを言っていきます。答を聞けば理解できる問題なのかもしれませんが、少し気になります。間違えた子どもができるようになる場面を意識することが必要です。
2人か3人の組になるようにとだけ指示しますが、子どもたちは、どうすればよいか少し困っています。どの列とどの列がくっつくというように具体的に指示をする必要があったでしょう。2人が机を向かい合わせにしている組もありますが、ペアの場合はあまり勧めません。対決型になるからです。授業者がこれも指示するべきでしょう。
ABCの3つの問題が準備されています。組ごとに各自どの問題を選ぶかを決めます。問題は穴埋めです。「教科書を見ながらでいい」とどのページを見るかも指定します。子どもたちは黙々と問題を解きますが、組をつくる理由がわかりません。作業終了後、”dictation”をやると説明します。自分が穴埋めをした問題を読み上げ、それを聞いた人が書き写すのです。なるほど、そういうことだったのかとわかりますが、先が見えないミステリーツアーでした。作業開始前に流れを伝えておくべきだったでしょう。
この”dictation”が成立するためには、「読み手が正しい答を正しく発音で読むこと」「聞き手が、少なくともその文章に出てくる、単語や言葉を知っていること」が条件です。この条件を満たしているかが気になります。また、聞き手は穴を埋めるだけですから、文章を聞き取ろうとするのではなく、穴埋めの答だけを聞こうとします。言葉を理解する活動にはつながらない可能性があります。中には、聞かずに教科書を見て写している子どももいます。子どもたちは、友だちの言葉を理解するのではなく、ワークシートの穴埋めが目的化しています。ワークシートを使う時に気をつけなければいけないことです。
2人組をくっつけて4人組をつくります。リーダーを決めるように指示しますが、その必要性はあまり感じません。グループごとに異なった課題が与えられます。「3人称単数現在」「助動詞を使ってみよう」「5文型」といったものです。子どもたちが持っている文法の副教材を使ってこれらをまとめるのです。こういった知識をまとめて、英語が使えるようになるのか疑問です。このような課題をグループで取り組む、目的や目標は何かよくわかりません。しかも、グループごとに課題が異なるので、どう共有するのでしょうか。
まとめると言っても何をすればよいのかよくわかりません。授業者が個別のグループに対して説明しています。説明が必要なのであれば、作業を止めて全体に対して行うべきです。
また、子どもが授業者に質問して、それに対して答えています。グループで活動しているのですから、子ども同士で解決させるようにすることが大切です。授業者が子ども同士のかかわりを切ってはいけません。
基本的に、副教材の内容をまとめるだけであまり頭を使う必要はありません。子どもたちが個別に付箋まとめたものを貼るだけの作業になっています。
終盤になってくるとさすがに集中力が切れてきます。この活動の目標や評価が見えないので、集中を維持できないのです。最後にグループごとに付箋をまとめた紙を集めてこの時間は終わりました。
これを教室に掲示したりして共有するようですが、他のグループがまとめたことを見て力がつくのでしょうか。そうであれば、授業者がまとめて配ればそれでよいことになります。
子どもたちは、グループの形にすると頑張って取り組みます。だからこそ、何をやらせるのかが大切になるのです。
授業者は、アクティブ・ラーニングに取り組むために書籍を購入して勉強したそうです。意欲的な先生です。しかし、まず英語の力をつけるために何が必要なのかをしっかりと押さえておかないと、アクティブ・ラーニングは単なる活動になってしまいます。残念ながら高等学校の実践は、子どもが活動すればよいというレベルのものがまだまだ多いようです。単に形だけアクティブにしても意味はありません。
とはいえ、くどいようですがまず取り組んでみなければ何もわかりません。アクティブ・ラーニングをきっかけにして、英語の力をつけるにはどのような活動が必要なのか、じっくり考えてほしいと思います。まだまだ、教師人生はスタートしたばかりです。焦らずに一歩ずつ前に進んでほしいと思います。次に授業を見せていただく機会が楽しみな先生です。
この続きは明日の日記で。