白石範孝先生から、論理的に思考する国語の授業を学ぶ
- 公開日
- 2016/07/08
- 更新日
- 2016/07/08
仕事
今年度第2回の教師力アップセミナーは、明星大学客員教授の白石範孝先生の「論理的に思考する『考える』国語の授業〜問題解決学習を目指して〜」と題しての講演でした。
白石先生の国語の授業は、国語の授業でつけたい力が明確で論理的です。また、そのための方法もとても明解です。「イメージや感覚」で読む国語の授業とは一線を画すものです。
この日のお話は、国語の授業におけるアクティブ・ラーニングとはどのように考えるとよいかから始まりました。「思考力・判断力・表現力」を身につけるための思考活動をアクティブ・ラーニングととらえ、論理的に考える活動を重視するということです。そのための基礎基本をしっかりと身につけることが大切です。白石先生は、「用語の習得・活用」「どのように考え、どのようにとらえ、どのように表現していくかという方法の習得・活用」「原理・原則の習得・活用」という3つの力を挙げておられます。
漢字の書き順を例に「原理・原則」について話されました。原理・原則を習得していれば、書き順を一つひとつ覚える必要はなくなります(もちろん例外はありますが)。それをもとに論理的に考えれば、書き順に迷うことはありません。
「方法」の例として、説明文の読み取り方を話されます。「頭括型(結論が文章の頭にある)」「尾括型(結論が文章の最後にある)」「双括型(結論が最初と、最後にある)」といった形を理解すれば、筆者の伝えたいことは容易に理解することができます。「頭括型」は事件記事のように事実を伝えたい時、「尾括型」はコラムなど思わぬ展開で驚きや発見を伝えたい時、「双括型」は、論説文のように最初の結論をもとに、さらに考えを付加することで主張を伝えたい時とその特徴を知っていれば、深い読み取りが可能になります。
つなぎの言葉や文末表現に注目することは、事実を読み取るための「方法」です。
「たしかに」「もちろん」「当然」といった言葉は、相手に「歩み寄る文」の特徴です。それに対して「しかし」「でも」「ところが」といった言葉は「主張する文」の特徴です。相手に自分の考えを受け入れてもらうために筆者は、相手を否定せずに主張しようとします。そのため「たしかにA。しかしB」といった構造をとります。このことを知っていれば、筆者の伝えたいことが何かは容易に理解できます。
そして、「〜とういことなのです」(伝聞)、「〜からです」(理由)、「〜でしょうか」(問い)、「〜です」(様子)、「〜なのです」(説明)、「まるで〜のようです」(例え)といった文末表現の意味するところを知っていれば、文章の組み立ても、論理的に理解することができるはずです。
こういった基礎・基本をしっかりと子どもたちに習得させ、活用できるようにすることが大切なのです。
物語文における授業の展開の方法について説明されました。
物語は、中心人物が出来事によって「+(幸)」か「−(不幸)」になるという基本構造です。それをもとに、物語を「中心人物」が「出来事」によって「変容」する話と、一文でまとめさせます。一読した後、子どもたちに一文でまとめさせることにより、読みの実態を把握することができます。
中心人物は変容した者となりますから、例えば、「がまくんとかえるくん」であれば、変容したのはがまくんですから、「がまくん」が「かえるくんの手紙」によって、「しあわせになる」話というような一文になります。この一文をもとに、「かえるくんの手紙によってどんな気持ちになった?」、「しあわせになったのはどうして?」と問いかけていくことで、子どもたちに考えさせることができます。
問題解決型の授業をつくるには、子どもの疑問を持たせることが大切です。このことを、「モチモチの木」を例に説明されました。
「モチモチの木」の話を一文で書こうとすると、子どもたちは困惑します。中心人物である豆太が、おじいさんのためにお医者を迎えに行った後でも臆病なままで変わっていないと書かれているからです。そこで、子どもたちの中に「豆太はかわったのか?」という疑問が生じます。これを論理的に解き明かしていくことで、子どもたちが考える授業がつくられていくのです。
小見出しを手掛かりに、場面をまとめていきます。まとめる時に最後に中心人物である「豆太」をつけさせます。「おくびょうな豆太」「モチモチの木がこわい豆太」「モチモチの木の灯りがみたい豆太」「モチモチの木の灯をみた豆太」「おくびょうにもどった豆太」となりますが、ここで、「モチモチの木の灯をみた豆太」の場面が、その小見出し「豆太はみた」と重なります。語り手の視点で、場面を見ると、最初の2場面が「豆太の説明」、次の2場面が「豆太の心やしたことの説明」、最後が「豆太の説明」です。この、語り手が豆太の心やしたことを説明している場面に注目することで、中心人物である「豆太」の「こだわりは何か?」という問いにつながります。豆太が「モチモチの木の灯りを見たい」と強く思っていたことを手掛かりに、「豆太がモチモチの木の灯りをみたいと思って、モチモチの木の灯りをみた話」といった一文につなげていきます。
ここで、「対人物(中心人物を変えた人)」である、「じさま」に注目することで、豆太が「勇気」をだすことで、モチモチの木の灯りを見られたのは、「じさまを思う気持ち」があったからだと子どもたちに気づかせます。
最後に、子どもたちに「豆太は変わったのか?」という最初の疑問に対して、「だって、……」と書きだしを指定して子どもの言葉で表現させます。
「なるほど」と思わずうなずいてしまう授業展開です。文章を細切れにするのではなく、「まるごと」読んでつながりの中で読み取るという、物語を論理的にとらえる授業構成に誰しもが納得したことだと思います。
「子どもたちに問いの文をつくらせる」という手法も紹介されました。例えば「お手紙」という題名に注目して、「お手紙」って、「どんな手紙?」「だれが出して、だれがもらった?」という問いの文をつくるのです。
「たんぽぽのちえ」であれば、「どんなちえ?」「いくつあるの?」といったものです。
その答を子どもたちに答えさせると、ずれが生じます。問題が子どもたちの中から出てくるのです。
ここで、「主語連鎖」という考え方を教えていただきました。形式段落の「主語」を書き出すのです。主語の変化に注目することで、意味段落が見えてきます。先ほどの「たんぽぽのちえ」を例にすれば、形式段落が「理由」と「動き」に分けられることから、「どっちがちえ?」と問いかけることで、子どもたちの疑問を解決していけます。
「いろいろなふね」を題材にして、説明文をバラバラにして、正しい順番に並べるといった課題も紹介されました。並べている内に、子どもたちの中から疑問が出てきます。「船の順番は?」「結論はどこに置く?」といった疑問を、「身近なものからかけ離れたもの」という例示の視点や、結論を示す時に「○○は」は最初で、「○○が」はまとめになるといった言葉の使い方の違いに気づかせることで、論理的に解き明かすことができます。まさに、子どもたちが考える授業です。
子どもたちに紙芝居をつくらせる例も、とても興味深いものでした。紙芝居をつくらせると、子どもたちが切り取る場面はいろいろですが、大切にしている場面はどのグループでも共通です。それが話の山場です。ここは絶対外せない場面を子どもたちはキチンとらえているということです。「山場」という用語を実感して理解させることができます。
こういった授業をつくるために大切なのは、何と言っても教材分析です。教材分析をすることで、「何を学ぶか?学べるか?」が見えてきます。
白石先生の教材分析10の観点は、とても参考になるものです。
【物語の10の観点】
1 設定(時、場所、季節、時代、など)
2 人物(登場人物、中心人物、対人物、語り手)
3 出来事、事件
4 中心事物の変容
5 三部構成
6 因果関係
7 お話の図・人物関係図
8 くり返し
9 中心人物のこだわり
10 一文で書く(〜が、〜によって、〜する・〜になる話)
【説明文の10の観点】
1 題名・題材・話題
2 段落(形式段落、意味段落、形式段落の主語)
3 要点
4 事例(具体と抽象)
5 問いと答え
6 文章構成図
7 三部構成
8 要約
9 くり返し
10 比較しているもの・こと
今回紹介された教材をこの観点で見てみると、この観点の持つ意味がよくわかります。
教材分析をもとに、どう授業をつくるかが教材研究です。教材分析によって見えてきた教材の特徴や論理を、どのような具体的な学習活動によって活かすかという、教材化の視点についても、わかりやすくまとめていただきました。
【物語の教材科の視点】
◎作品の内容に浸る
◎作品のおもしろさをとらえる(言葉、くり返し、ドラマティックアイロニー、内容……)
◎伏線をとらえる(ファンタジー、仕掛け、謎解き、推理……)
◎変容をとらえる(変容過程、因果関係……)
◎主題をとらえる
◎人物をとらえる(人物関係、人間の性格、人物の行動……)
◎音読する(会話……)
◎挿絵に着目する
◎場面構成をとらえる(三部構成、設定……)
◎発展の活動(紙芝居、音読会……)
【説明文の教材化の視点】
◎事例・題材をとらえる(目的・数、内容)
◎比較する(表にする、図にする、内容……)
◎構成をとらえる(三部構成、文章校正、実験観察〜結果〜考察、3文型)
◎題名との関連をとらえる(謎解き、筆者の主張……)
◎記号に着目する(「 」の活用、句読点……)
◎要約する(要点・要約……)
◎問いと答えの関係をとらえる(意味段落……)
◎順序をとらえる(アニマシオン的活動、順番……)
◎グラフや図、資料に注目する(活用、内容……)
◎接続語に着目する(つながり……)
◎発展の活動(補う、基本文型の活用……)
【詩の教材化の視点】
◎技法をとらえる(リフレーン、擬声語、擬態語、倒置法、擬人法、体言止め……)
◎言葉遊びをとらえる(音数、アナグラム……)
◎内容をとらえる(人物の心情、情景……)
◎リズムをとらえる(五七調、七五調、韻……)
◎音読する(群読、朗読、リズム打ち……)
◎創作する(作品の中にあるきまりを活用して、作品の内容との関連から……)
どうでしょう、教材研究の視野が広がったような気がします。
今回、白石先生から、短い時間の中で本当にたくさんのことを学ばせていただきました。資料もたくさんいただくことができ、これだけ密度の濃い講演はそうそうあるものではありません。本当にありがとうございました。