日記

教材理解が大切(長文)

公開日
2016/07/20
更新日
2016/07/20

仕事

元気な学校応援プロジェクトの一環で、授業アドバイスツールを使った授業アドバイスを行ってきました。
代表者による授業研究と、各学年1学級ずつ授業参観させていただきました。

この地区は生徒指導的に大変だと聞いていたのですが、子どもたちは思った以上に落ち着いていました。先生方は、子どもたちを指示に従わせることを強く意識していたように思います。このことは悪いことではないのですが、どうしても命令口調が多くなっています。先生方の表情がかたいことも気になりました。表情を緩めて子どもたちが勝手なことをし出すのがこわいと思っているように見受けられました。また、顔を上げさせても、先生がしゃべり始めると集中が落ちる場面をよく目にします。指示に頼ると、授業者が指示したことしかしないようになってしまいます。常に子どもたちに今どうあってほしいかを意識し、指示しなくてもそうなることを目指してほしいと思います。子どもたちは決して悪くはないので、もっと信用して、子どもたちのよいところを積極的に評価してあげるとよいと思います。
子どもたちのテンションが上がりやすい傾向をどの学年でも感じました。これを力で押さえようとすると子どもたちの人数にはかないません。そうではなく、その原因を考えて対応することが必要です。ペアやグループの活動でもよく話すことができるのですが、話す側が中心となっています。これは、発言に対して「いいです」と他の子どもたちが答えて終わってしまう、一問一答形式が多いことと無関係ではないと思います。つまり、話すこと、声を出すことが重視されて、聞くこと、他者の意見をもとに考えることに価値が置かれていないのです。ですから、子どもは発言できそうな機会があれば、テンションを上げて声を出そうとするのです。また、課題が根拠を持って考えるようなものになっていないのもこの傾向を助長しています。
一問一答を減らし、子どもをつなぎ、聞いていることを評価することが大切です。ペアやグループ活動では、根拠を持って考えるような課題にし、聞く側の役割をしっかりとつくり、そのことを評価する場面をつくるようにするとよいでしょう。

代表者の授業は、4年生の算数で、大きな数の学習でした。
参観者がたくさんいるせいか、挨拶の後、子どもたちが落ち着きません。授業者は、「まず、机の位置をそろえましょう」と、前列の子どもの机を自ら直しながら指示します。机の整頓をきちんとさせることはよいことですが、その前に子どもの動きをいったん止めることが必要です。ごそごそしている子どもはそのままの状態なので、指示が全員にきちんと通っていませんでした。
続いて、机の上に筆記具とノートだけ出すように指示します。子どもたちは指示に従うのですが、そのあとごそごそしています。今、子どもたちにどのような姿であってほしいかを授業者がはっきりと意識していないのです。「準備ができたらよい姿勢で待っていてね」と指示をし、「○○さん、いい姿勢だね。はやいね」とできている子どもを評価します。子どもたちが指示に従えるようになれば、「先生は、次にどんなことを言うと思う?」と指示の代わりに子どもたち問いかけるようにするとよいでしょう。こうすることで次第に子どもたちは自分で考えてよい行動をとろうとします。

「みんなに見てもらいたいものがあります」と子どもたちに映画の写真を見せます。一部の子どものテンションが上がり、勝手にいろいろなことをしゃべります。まだ、授業者がコントロール可能な範囲ですが、放っておくとエスカレートしていきます。この授業では映画は単に興味づけでしかありませんので、テンポを上げて、子どもたちがムダなことをしゃべる時間を減らすとよいでしょう。
2つの映画の興行収入を印刷した紙を使ってじっくりと示しますが、この子どもたちであれば、最初に「今から、2つの映画でどれだけ売上があったかを見てみます」と何をするか示して、素早く貼ってもよかったかもしれません。指示がある前に大きな声で貼られた数字を読む子どもが何人もいます。テンションが上がりすぎていると思ったら、口を閉じるように指示することも必要でしょう。

数字を貼り終わって、「今日は何をするかめあてを書きます」と告げると、子どもたちは素早くノートを開きます。「大きな数の仕組みを考えて大きな数をつくる」のがこの日のめあてです。
授業者は、「書けたらこっちを向いてください」と言って子どもたちの方を向いているのですが、表情がかたいのが気になります。子どもたちから見ればチェックされているように感じます。笑顔で顔が上がっている子どもとアイコンタクトがとれるとよいでしょう。

どちらの数が大きいか子どもに問いかけます。「さあ考えてください」と言うと、すぐに発言する子どもがいます。授業者は「わかった人」と挙手を素早く求めて、不規則な発言を封じようとしました。ほぼ、全員の手が挙がりますが、まだ反応しきれない子どもが何人かいます。しかし、授業者はすぐに指名しました。子どもが答を言うと、すかさず「いいです」と声が上がります。授業者は「同じという人?」と、挙手を求めました。挙手させたのはよい対応です。授業者は「みんな同じ」と言いましたが、一人だけ手が挙がっていませんでした。その時、隣の子どもがその子をつっついて手を挙げさせました。よい人間関係だと思いました。その時授業者は黒板に向かっていて、気づかなかったのが残念でした。
授業者が板書していると、すぐに何人かの子どもがしゃべります。こういったところをコントロールしたいところです。今どうしてほしいのかを、意識して子どもに伝えないとどうしてもこのような状態になってしまうのです。

結果を板書した後、どうしてか理由を聞きます。すると挙手が1/3ほどです。「どうして?」は答えにくいのです。「どうやった?」といった聞き方の方がよいでしょう。ここで授業者はすぐに指名をしましたが、ちょっとまわりと相談させるだけで、子どもたちの挙手は増えると思います。
指名された子どもは、「一番左の数字が1と2で、2の方が大きかったから」と答えます。こういった不完全な答をもとにキャッチボールしながら、子どもたちの考えを深めていくことが大切です。授業者は「なるほど」とまず受容しました。これはよい対応です。しかし、すぐに「位をわかりやすくするために」と、用意した桁と位の関係を示す図を貼りました。子どもから「位」という言葉が出ていない内に「位」という言葉を出して図を貼るのはちょっと誘導しすぎに思います。授業者はこの図を貼った後、「他には?」「○○さんとは別ですという人?」と聞きます。「なるほど」と先ほどの子どもの答を受容していたのですが、このように問いかけるとその子どもは自分が間違っていたと感じるかもしれません。「同じように考えた人」とつないで、何人かに答えさせれば、自然により完全な答に近づいていくはずです。
次に指名された子どもは「位が同じだから」と説明します。授業者は「両方とも同じだからここを比べたの?」と言葉を足します。このやり取りでは、何が同じかがまだ明確になっていません。それぞれの数の「最大の位」が同じということを子どもたちから出させる必要があります(桁数が同じというのも出させたいところですが……)。
ここで「2人が言ったことと大体同じだなあという人?」とつなぎます。2人目の意見を最初の意見とつなげることをしていないので、今ひとつ2人の考えが子どもたちに伝わっていません。半分くらいしか手が挙がりませんでした。2人目の「位が同じ」を最初の「一番左」とつなげて「一番左の位が同じ」と言わせることが必要でした。
授業者は、挙手した子どもたちに「はい、ありがとうございます」と返して説明を始めました。「なるほど」「ありがとう」といった言葉が自然に出ているはとてもよいと思います。子どもたちのテンションが上がっても、授業者が意識すれば子どもたちが落ち着くのは、こういった言葉かけでよい関係ができているからなのだと思います。
授業者は「一番大きい位に注目したんだね」と説明しますが、「一番大きい位」という言葉はまだ子どもたちからでていません。授業者が子どもの言葉を自分の都合のよいように変えてしまっています。「なんで一番左の数を見るの?」といった切り返しをしておくことが必要です。授業者は子どもの言葉を受け止めることはできるのですが、切り返すことができないのです。これが授業者の課題です。

次に、少なかった方の売り上げを増やして、最大の位の数を同じにしました。再びどちらが大きいか聞いて、答えさせます。ここでも子どもたちはすぐに「いいです」と声を上げます。全員同じ考えであることを確認して、理由を聞きますが、やはり挙手は1/3程度でした。先ほどの場面でしっかりと理解していれば挙手は増えてもいいはずですが、あまり変わりませんでした。
指名した子どもの発言に対して「はい、ありがとう」と答えて、「他には?」と聞きます。今度は誰も手が挙がりません。そこで、「○○さんとほとんど同じだという人?」と問いかけます。すると、ほぼ全員の手が挙がります。先ほど挙手しなかった子どもも手が挙がります。これがどういうことかを考える必要があります。その子どもの発言を聞いて納得したのでしょうか。それとも自分の考えを持っていたが挙手しなかっただけなのでしょうか。それとも空気を読んだのでしょうか。
自分の考えと「同じ」かどうかを確認するのであれば、挙手した子どもを指名して、自分の考えを答えさせることが必要でしょう。説明を聞いて理解したかどうかを確認するのであれば、「○○さんの説明で納得した人」「なるほどと思った人」と問いかけて、「これだけの人が○○さんの説明に納得したんだ」と評価し、「よく聞いていたんだね」と聞いていた人も評価します。納得した人が全員でなければ、「じゃあ、今納得したという人、代わりにもう一度説明してくれる?」と、もう一度言わせることが必要でしょう。子どもたちが空気を読んで挙手しないようにするには、挙手した子どもを指名するようにすることが必要です。
一見子どもたちとやりとりをしているように見えるのですが、結局1人発表しただけで、授業者が説明して終わりました。

ここで先ほどの売り上げの数を構成している数字を一つずつ読み上げさせます。そして、「どんな数字が使われているか?」と問いかけます。どう答えていいかわかりません。どんな数字と言っても、数字は「0から9」の10個しかありません。子どもたちは戸惑っていますが、数人の手が挙がります。指名した子どもは「0から9の数字」と答えます。授業者は復唱して、板書します。「他には?」と次の子どもを指名すると「高い数があんまり使われていない」と返ってきます。次は「9はあっても10がない」、続いて「すべて1の位」と答えます。渾沌としてきました。「数字」と「数」が混乱しています。算数や数学の授業でよく目にするのですが、授業者が「数」「数字」を混乱して使っていると子どもも混乱してしまいます。「0から9」の「数字」を使って「10進位取り記数法」で「数」を表わしていることを意識して正しく言葉を使ってほしいと思います。
「0から9の数字」以外は、「高い数」「10がない」「1の位」とすべてが間違いか間違った言葉の使い方です。授業者はこれを修正しませんでした。子どもたちは「数」と「数字」、「数字が表す数」が混乱したままで終わってしまいました。
授業者は千の位が7の数に3千を足します。7と3を足して10と、7のところを10にします。「こんなの見たことありますか?」と問いかけ、「変だと気づいたね」と言葉を足して、どんな数字が使われているかを答えさせます。指名された子どもは、「位が上がる」と3千を足したときの誤りを指摘します。授業者は否定せずに、そうだねとそのことを受容します。よい対応なのですが、根本的に問いがおかしいために、一向に焦点化できません。
結局授業者が、めちゃくちゃ重要と「どんな数字でも0から9までの数字を使って表わすことができる」とまとめて板書しました。この日本語がおかしいことに授業者は全く気づいていませんでした。

子どもたちにプリントと0から9までの数字のカードを配り、カードを並べて条件に合った数をつくらせます。つくれた子どもは理由を書くように指示します。子どもから「10が足りん」という声が上がります。数字と数が混乱していることがわかります。
最初の条件は「2枚を使って一番大きい数をつくる」です。できたら、ペアで説明し合うように指示します。子どもたちはしゃべるのですが、友だちを見ない、聞いていない子どもが目立ちます。この活動の目標が示されていないのでしゃべるだけで終わってしまうのです。
「答と理由を発表してくれる人?」と問いかけます。テンション高く声を上げて挙手する子どもが1/3ほどです。ペアで説明し合ったのに、これだけしか挙手がありません。友だちの説明に納得したら、そう伝える。友だちの説明がよいと思ったら、自分の説明につけ加えるといったことが指示されていないので、自信を持って挙手しないのです。
指名された子どもは、「9が一番大きいので9を入れて……」と説明します。一番大きい位という言葉が抜けていますが、授業者は「ほとんど一緒だったという人?」と挙手で確認して終わります。授業者が「正解」と言わないのはよいことなのですが、不完全な説明でよしとしては教師がそこにいる意味がありません。同じ考えでいいので、何人かに答えさせながら修正していくことが必要です。
続いて3枚使って一番大きな数をつくらせ、同じように発表します。子どもの説明も、「でかい数から順番に並べて」と先ほど同様の説明です。「でかい」は算数の用語ではありませんから、「大きい」に修正したいところでした。ここでも、左に行くほど位が大きくなることは押さえられませんでした。

グループになって、カード10枚使って一番大きい数をつくるように指示します。子どもたちは個人で作業をしています。特に困っている様子もありません。グループの発表をさせますが、子どもたちは相談していません。個人の考えを発表するだけです。グループになる必然性がよくわかりません。
「最初に大きい数を……」と理由を発表します。子どもの表現はいろいろですが、桁が大きいとか左に行くほど位が大きくなるといった、算数の言葉が出てこないままです。授業者も前の2つと同じで、「9から順番に置いていけば……」とまとめます。どういう順番かが一番の問題なのですが、そこは押さえません。
最後の課題は、10枚のカードを使って一番小さい数をつくることです。ここで、10枚全部を使うことをきちんと押さえる必要がありますが、授業者はそこには触れませんでした。
チームプレイで取り組むように伝えます。子どもたちのテンションが上がります。「理由まではわかりません」という声が上がってくると、授業者は「理由まではいいです」と返します。グループで考えるのであれば、根拠を意識しないと相談することができません。答の言い合いになってしまいます。これでは、子どもたちのテンションは上がっていきます。グループで答をまとめさせますが、子どもたちが無責任に言いあっている声が教室に響きます。

グループの答を黒板に貼らせた後、一番大きい数は「9876543210」だから、逆にして「0123456789」ではダメですかと問いかけます。そもそも逆にすれば小さくなることは、それほど自明ではありません。感覚で進めています。ダメだという子どもに理由を説明させますが、「別の数になります」と答えます。よくわからない説明ですが、子どもたちは「いいです」と答えて、それで授業者は進めていきます。別の数になるのではなく、記数法のルールです。そこをきちんと押さえていないと、おかしなことになってしまいます。
子どもから、これじゃだめだから「0と1をひっくり返した」という答を引き出して、「どんな数字でも0から9までの数字を使って表わせる」と再び確認し、「数を比べる時は上の数から順番に比べていけばわかる」とまとめました。「上の数」という言葉は算数として不適切です。算数は国語と同じく言葉にこだわる教科です。用語をしっかりと意識して使ってほしいと思います。

授業者は子どもを受容しようとする姿勢を持っています。また、できるだけ子どもたち自身で正解を判断させようとしています。このことはとてもよいのですが、いかんせん何が大切か、根拠は何かということを授業者自身がわかっていないので、子どもの考えの足りないところを補うことができません。結果としていい加減なことを教えることになってしまいました。小学校の先生は、すべての教科を教えるので大変だと思いますが、特に算数はまず教材理解をしっかりとしてほしいと思います。答が出せるので簡単と思ってしまいますが、その概念はそれほど簡単なことではありません。先生自身がよくわかっていないので、解き方だけを教えてしまう傾向があります。算数が解き方の手順を覚える教科になってしまっては困ります。

この日、授業アドバイスツールを早速使っていただきましたが、同行していただいた開発元のEDUCOMのサポーターの的確な説明のおかげで、操作に戸惑うことはほとんどないようでした。授業アドバイスツールは、使用者が何を意識しているかで使われ方が変わってきます。私は、授業者を写すのではなく、子どもたちの変容を追跡するという視点での利用をお見せしました。子どもたちの事実をつかむことで、授業の課題が見えてきます。このことを意識していただければと思います。とはいえ、使い方は学校や個人によっていろいろな形があってよいと思っています。気に入ってもらえたようなので、この学校の抱える課題解決につながる使い方を見つけていただけることと思います。レポートが楽しみです。
この町の教育長や指導主事、他の小学校の教務主任までが、一緒に授業を参観し、時間の許す方は検討会にも参加していただけました。ありがたいことです。多くの方が参加してくださったおかげで、とても有意義な時間となったことを感謝します。