道徳の授業撮影
- 公開日
- 2012/07/13
- 更新日
- 2012/07/13
仕事
10月8日の教師力アップセミナーで野口芳宏先生にご指導いただく授業ビデオの撮影に出かけてきました。小学校5年生の道徳の授業です。
授業者は経験年数が2年目ですが、子どもとの関係がよいことがよくわかります。授業開始前からとても笑顔の多い学級でした。
その秘密はすぐにわかりました。子どものどんな意見も「なるほど」と受容し、きちんとまるごと復唱しようとしています。とても2年目とは思えません。どのようにして身につけたのか興味があります。本人に聞いたところ、子どもを否定しないようにと思って授業にのぞんでいるとのことでした。とてもよい姿勢です。
しかし、発表者をしっかり見て、子どもの考えを聞きとろうとしているのですが、その間他の子どもを見ることはしません。また、全体に対して話をするときは、漫然と「みんな」の方を向いていて一人ひとりを見てはいません。授業者との関係はよいのに、子どもたちが今一つ集中していないと感じた理由はそこにあるのかもしれません。子どもたちの集中度が上がるのは授業者が板書をするときなのです。
また、子どもの意見はしっかり聞くのですが、その意見の根拠をたずねたり、他の子どもにつないだりはしません。そのため、意見や考えが深まったり、広がったりはしないのです。グループでの話し合いでも、自分の意見を言うことが目的であって、友だちの考えを聞いて自分の考えを深めることはあまり意識されていません。ですから、グループでの話し合いの後、発表意欲も上がらないのです。グループで自分の意見を言ったので、とりあえず満足しているからです。誰かが意見を言うたびに、似た意見の発表の機会がなくなるので、どんどん集中度が落ちていきます。授業全体が話すこと、発表することに重きがおかれて、聞くことの大切さ、よさが意識されていないのです。
今回の授業は「ありがとう」をテーマにしていたのですが、道徳として子どもたちにどのような変容を願っているのか明確になっていないのが残念でした。資料には大きく3つの山がありました。「本当のありがとう」を問う場面、「ありがとうを言うのではなく、ありがとうを言われよう」とする場面、「自分のありがとうに対して、もっと素敵なありがとう」を言われた場面です。それぞれねらいとするものは微妙に違います。すべての場面を同じような重さで扱ったため焦点がぼけてしまいました。
授業者としては、「ありがとうを言うのではなく、ありがとうを言われよう」を中心としたかったようです。であれば、できるだけ早く資料を理解させ、その部分を焦点化して、自分の思いをたくさん話させればいいのです。宿題として、「言ったありがとう、言われたありがとう」を書かせています。こんないい材料があるのですから、資料は問いかけのきっかけとして使って、この自分の経験をもとに考えさせればよかったのです。
また、主人公の気持ちを問う場面での発問も明確でありませんでした。「資料から」気持ちを読み取るのか、「自分だったら」どう思うのか、どちらかはっきりしないのです。「主人公の気持ち」を聞いているのですが、子どもは根拠のない想像で意見を言います。ただ思いついたことを発表するだけなのです。国語であれば、明確に本文のどこでそう考えたか根拠を求める必要があります。道徳であれば、自分のこととして考えるように迫る必要があります。主人公の状況をしっかり把握させた上で「あなたならどう思う」と自分の考えを求めればいいのです。この国語と道徳の違いが意識されていないのです。
授業後、参観された教師力アップセミナーの運営委員の先生と一緒に授業者とお話をさせていただきました。きちんと子どもとの関係が作れるのに子ども同士をつなごうとしないのは、何か考えがあるのか、授業観が違うのかとも思いましたが、そうではありませんでした。自分なりに一生懸命取り組んできて、まだそのことの大切さに気づいていない、意識できていなかっただけでした。2年目ですから当然です。私たちの指摘をとても熱心に、また素直に聞いてくれました。授業を見た時にてっきり4年目か5年目と勘違いしてしまうくらい、しっかりとしていた先生です。今回の授業撮影をきっかけにして大きく成長してくれることと思います。また、この学校の多くの先生がこの授業を参観されていたのも印象に残っています。先生方のこのような姿勢が授業者のこれまでの成長の支えになっているのだと思いました。私にとっても、たくさんのことに気づき、学ぶことができた授業でした。子どもとの関係がしっかりできているからこそ、足りない点も含めて多くのことを学べるのです。教師力アップセミナーで野口先生からどのようなご指導がいただけるかとても楽しみです。学期末で忙しい中、無理を聞いていただいた授業者と、その環境を整え、バックアップしてくださった校長に感謝です。ありがとうございました。