日記

公開授業で考える

公開日
2012/10/24
更新日
2012/10/24

仕事

昨日は、フューチャースクールの公開授業に出かけました。1学期の終わりに授業を見せていただき、夏休みにお話をさせていただいた小学校です。ICT以前の学習規律について2学期は意識されたと聞いていました。今回どのような変化があるか楽しみでした。

各学年1学級ずつ1時間の公開でした。研究の性格上、1人1端末を活かすことが求められます。実はこのことが授業をつくる上で大きな制約になっていました。まだまだタブレット端末の機能、ソフトの完成度が低いからです。その中での授業づくりは厳しいものがあったと想像します。残念ながら、どの授業もその教科、単元のねらいを達成することとICTの活用が連動していないように感じました。ICTを活用しなければならないため授業のねらいがおかしくなっていると感じるものもあれば、ICTを活用する必然性を感じない場面もたくさんありました。象徴的なことがありました。電子黒板を使っての子どもの発表場面です。突然電子黒板の調子がおかしくなりました。授業者はしばらく復旧に努めましたが、「そんなときは、これを使って」と黒板に貼った写真を利用して発表するように指示しました。用意周到です。トラブルに慣れているようです。さて、この後どうなったかというと、私の目には電子黒板を使わなくてもこれで十分に思えました。電子黒板を使う必然性がなかったということです。

学習規律については、立て直すまではいっていませんでした。意識したのは2学期になってからですから時間が足りません。しかし、意識続けることで来年度には必ず結果が出るはずです。変化がないからといってあきらめないでほしいと思います。

また、「ICTを利活用した協働学習」ということがテーマとしてあげられていましたが、ICT以前に「協働学習」について根本的に先生方が学ぶ必要があるように感じました。1台のパソコンを前にグループの子どもたちが顔を寄せて作業しています。子どもたちに笑顔が見られ、一見学習が成立しているように見えます。しかし、どうもキーボードを操作する子どもが主導権を握る傾向にあります。子どもたちからでる指摘も、個々に思いついたことを言うレベルで、それがグループ全体に共有化され検討される場面はまずありません。1台のパソコンを使って、グループで1つのものをつくるこの形態では、「協同学習」を成立させることは難しいのは確かです(機器やソフトの問題もとても大きい)。しかし、そもそも発表やまとめることが目的化し、協同作業の結果はどういうものになればいいのかというゴールが不明確で、互いの意見を検討し判断するための根拠を持たないまま作業が進んでいるのです。「協働学習」を進めるにおいて、ICTのあるなしにかかわらず注意しなければならないことです。ICTがあれば「協働学習」が成立するわけではありません。ICTがなくても立派に「協働学習」が成立する子どもたちと教師であって初めてICTが活きるのです。

授業公開後の実践発表では、ICTは「協働学習」に有効であるとのことでしたが、「ここに気をつける」「こうすればうまくいく」という具体的なものは提示されませんでした。公開授業からICTの活用が有効な場面を見つけることが私はできませんでしたので、根拠が明確に示されなかったことは残念に思いました。

全体講演は岐阜聖徳大学教授石原一彦先生の「未来の扉を開くフューチャースクール」でした。その中でICTが学習の道具から学習環境へと変化していくということが示されました。その通りだと思います。教室の中に従来の黒板に加えて電子黒板や実物投影装置が、子どもたちの手元にノートや教科書に加えて(代わって?)タブレット端末を通じてデジタル教科書やネット環境が提供されるようになることは間違いないでしょう。しかし、残念なことにここでもその環境を具体的に活かす方法については語られませんでした。あるフューチャースクールでは資料集を買わなくなったそうです。その事実に対しても、今までの資料集を捨てるに至る根拠は示されませんでした。ネットは目的を持って調べるときにはとても有効です。しかし、あまりに多くの情報の中には、信憑性のないゴミのようなものもたくさんあります。情報選択能力がなければ使いこなせません。資料集という限られた世界の中から情報を収集選択するという経験も前段階として重要に思われます。また、資料集を読むという行為も子どもの学びにとってはとても大切なことです。単純にネット環境で代替できるものではないように思います。フューチャースクールは名前の通り、これからの学校の姿を模索する事業です。だからこそ、その環境だけでなく、その環境を活かすために必要なことを示す必要があるはずです。
今回の公開授業と講演からはフューチャースクールの姿は私には見えてきませんでした。

このように書くと、この学校での研究は意味のないもののように思えるかもしれません。そうではないのです。今までICTを特別に研究していなかったごく普通の学校に未来の環境(主にハードですが)を持ちこんだ時に何が起こるかを先生方が身を持って示してくれたのです。当り前のことですが、どんなに素晴らしい環境があっても、それだけで授業が成立するわけではありません。学ぶ姿勢を持った子ども、教科知識と指導技術を持った教師があって初めてその環境が活かされるのです。あらためて、そのことを教えてくれました。また、この学校で使われているハードもソフトも、以前教育ソフトの開発に携わっていたものからすれば、とても教育のことがわかっている方が開発したものとは思えません。そのことは、先生方が身を持って感じているはずです。その不満や問題点をどんどん挙げることが、フューチャースクールに求められる真の環境をつくることにつながっていきます。フューチャースクール事業は3年目の今年で終わりです。予算的には苦しいものがあると思います。しかし、ここで止まらずに進み続けることを期待します。

この学校の子どもたちと先生方は、新しい環境に適応するために多くのエネルギーを割いてきました。その労が報われるのはこれからです。ICTを使わなければいけないという頸木から解放されて、もう一度授業の根本を見直してください。ICTにとらわれずもう一度目指す授業の姿を描き直してください。まず授業を成立させる基礎基本をしっかり押さえてください。必要な場面でICTを利用できるスキルは子どもも先生も身についています。本当に必要とされる場面、活かされる場面に絞って使えば、ICTは大きな力を発揮するはずです。それこそが、フューチャースクールだと思います。

公開授業と全体会の間、とても多くのことを考えました。日本の教育の未来の姿を考えるとてもよい機会となりました。ありがとうございました。これまでの先生方の努力に敬意を表するとともに、これからに大きく期待したいと思います。