日記

中学校で授業アドバイス(長文)

公開日
2012/11/19
更新日
2012/11/19

仕事

先週末は中学校で授業アドバイスをおこなってきました。1年生を中心とした子どもたちのようすの観察と、2つの数学の授業アドバイスでした。

1年生は、全体的に授業規律が緩くなっていると感じました。子どもたちは、友だちや教師の話を聞くことよりもノートに写すことを大切にしています。教師が話を聞かせるために板書をやめても、写すものがないと不安なため、友だちの話をメモし始めるようになった学級もあるそうです。子どもたちの話を聞く姿勢を意識している先生の授業でも、以前より子どもたちの集中が落ちている場面に出会います。小学校でよくしつけられていたのでしょう、1学期は子どもたちの授業規律はとてもよかったという記憶があります。2学期になってそれが緩んできているということは、学年全体で授業規律を維持すること、特に話を聞くことを意識して指導・強化してこなかったということだと思います。
そのことを感じたのが、総合的な学習の時間での職業調べの発表場面でした。グループ内で発表した後、グループの代表が全体で発表します。このとき、聞く側の子どもたちの課題は、発表をメモして、話の内容や感想をワークシートにまとめるというものです。そのため、どの子も書くのに忙しく発表者を見ていません。メモしながら顔が上がればよいのですが、メモとは何かもよくわかっていません。ほとんどの子どもがワークシートに文章で書いています。発表者がつくった資料が手元にあるのですが、それを見ながらまとめている子もたくさんいます。これでは、子どもたちの顔が上がらないのも当然です。一方、発表者も原稿を見ながら話すので、友だちと目が合いません。こういう活動を続けていれば、子どもたちが聞くことより書くことを優先するようになるのは仕方のないことです。

授業アドバイスの1つ目は、授業がうまくいかないということで自ら授業アドバイスを求められた方です。とても素晴らしい姿勢です。
子どもたちにわかってほしい、理解させたいという授業者の思いがあふれている授業です。しかし、子どもたちの反応は今一歩です。決してわかろうとしていないのではありません。むしろわかりたいという思いは強いのです。そのことは、友だちが前に出て説明する時に、全員が体を乗り出して理解しようと集中して聞いていた姿勢に表れています。では、なぜ授業者の言葉には反応しないのでしょうか。

1つは、授業者がしゃべりすぎることです。子どもの反応がないと何とかしようとすぐに次の言葉を発します。情報が次々にでてくるので、子どもは消化しきれません。考えが追いつかないので、整理された板書を頼ることになるのです。子どものわからない、困った感に寄り添うことが大切です。どこでつまずくか、わかるためには何が必要か、そのことを整理しておき、子どもと一緒に考えることが大切です。「最初に何を考えた」「どうすればできそう」「何がわかれば解けそう」。こういう言葉を大切にする必要があります。

次に、子どもの発言を正解かどうかだけで評価していることです。子どもは自信がないと発言できません。発言できない子どもにヒントを与えて何とか答えさせようとするのですが、子どもからすれば、自分の考えを聞かれているのではなく、教師の求める答えを強要されているように感じるのです。教師がヒントを言うのではなく、まわりの子どもに助けを求めるなど、子どもたちで解決できるように働きかけます。指名されれば、最初は答えられなくても、最後は必ずポジティブに評価されて終わるようにすることが大切です。

そしてもう1つ、数学としてとても気になる発言がありました。「知っている人はわかるけど、・・・」「定番の解き方以外の解き方を考えて・・・」といった発言です。これでは、数学の問題解決は解き方を知っているかいないかの問題になります。確かに塾で解き方を習っている子は多いのでしょう。しかし、これでは子どもは「知らないから解けない」と思うようになります。考えるのではなく、答を知ろうとする姿勢になってしまいます。見たことがない問題を解決する力をつけることが数学では大切です。「どこから手をつけたらよいかわからないね」「こういうときはどうすればよいのだろう」と、わからないから出発し、「解き方を知る」ことではなく、自分たちで「考える」ことで解決する喜びを味わわせてほしいのです。

少々厳しいコメントになりましたが、自らの授業を変えようという意思のある方です。これを機にきっとよい方向に変わっていくことと信じています。授業がよくなる第1歩は、変わろうとすることだからです。

もう1つの授業アドバイスは、2年目の先生の数学の授業です。次週にひかえた要請訪問での代表授業の先行授業です。
兄と妹が同時に家を出て学校に向かうときの時間と位置の関係のグラフの読み取りが課題です。課題の提示の仕方に工夫が見られます。情報不足のまま取り組むように指示します。子どもはすぐに取りかかりますが、困惑が広がります。子どもの「情報が少なくない?」という言葉をひろって、「いいこと言ってくれている」と発表させます。「おっ、いいじゃない」と思わずつぶやきました。子どもの言葉を活かしたり、認めたりすることができています。教室の雰囲気がいいのも、授業者が笑顔で子どもを受容し認めているからでしょう。また、この指導案の展開は経験の浅い授業者だけではつくられるとは思えません。教科の主任を始め教科部会でしっかりアドバイスをしたのでしょう。授業者を支える教科のチームワークを感じました。まだ若い教科主任がこの授業をしっかり参観している姿にもそのことを感じます。
残念だったのは、この後授業者がすぐに「そうだね」と説明し次に進んでいったことです。ここは大切な場面ですから、全員が「情報が少ないこと」を共有する必要があります。「情報が少ないってどういうこと?」「○○さんの言っていることどういうことかわかる?」と子どもの言葉を他の子どもにつないでいくことが大切です。全員が「情報が少ない」ことを理解した上で、次の「何がわかればいい?」という発問につなげるのです。おそらく授業者は意識していなかったと思いますが、「何がわかればいい?」という発想は数学的にはとても大切な考えです。結論が言えるためには「何がわかればいい?」、「何がわかれば」この問題は解けそう。このことの数学的な価値を意識させることができるようになってほしいとも思いました。

情報を付加していよいよ課題追求に向かいます。まず兄と妹の家からの位置と時間の関係をグラフに表すのですが、いきなり「変わっていく数量って何がある」と聞いてしまいました。ちょっともったいないです。ここは新しく中学校で習った「関数」の復習をした上で、そのつながりで、「変わっていくものに何があるか」聞きたいところです(関数の本来の定義は対応で考えるので、扱うものは「数量」と限らないことからすると、「数量」という言葉にこだわるかどうかは微妙なところです。中学校では大きな問題にはならないとは思いますが・・・)。その上で、互いに「かかわりあって変化する」ものを見つけるという流れにするとよいと思いました。もちろん、かかわりあって変化するものを見つけた段階で「関数」との関連を押さえてもよいと思います。また、兄と妹がどれだけ離れているかと時間の関係も当然関数として扱えますが、これも関数として授業のどこかで触れたいところでした。

家を出発してからの時間と、家からの距離の関係を兄、妹それぞれグラフに表した後、できるだけたくさん「グラフから読み取る」ことを課題にして活動を始めました。最初子どもたちは何を書いていいかよくわからないようすでした。数学で「グラフから読み取る」というはどういうことか、まだよくわかっていないのです。この時間までに子どもたちはグラフを読み取る経験をしていなかったようです。となれば、最初に全体で少し読み取ることを経験させる。または、この時間のまとめの段階で「読み取る」とはどういうことか整理するといった工夫が必要になります。残念ながらこのことは意識されていませんでした。とはいえ、とまどいながらも子どもたちはワークシートを埋めていきます。個人活動の後、グループでの活動です。子どもたちは積極的に取り組みますが、グループでホワイトボードにまとめるように指示されているので、どうしてもホワイトボードに書く子どもが中心となってしまい、他の子どもは傍観者になっていきます。友だちの意見を聞いて考える、納得するという活動ではなく、意見を出してそれを書くことが中心となってしまいました。そのため、最初は自分の意見を言うことが中心でテンションが上がり、後半は代表一人が書く作業が中心となって活動が停滞したのです。

発表は、グループごとに次々おこなうのですが、発表されたことを板書する、教師がそれを評価するだけになっています。最初子どもたちは集中していたのに、同じ意見が続いているうちに次第に集中を失くしていました。順番にこだわらず、同じ考えをつなぐなどしていく工夫が必要です(グループ活動の後の発表参照)。
途中、兄と妹の距離の差が一定の割合で増えていくという、とてもよい視点での気づきがありました。しかし、その数値が違っていたので、間違っているという指摘を教師がして終わってしまいました。子どもたちに広げながら、正しいものにしていけばとても面白い場面だったのに残念です。
結局、気づいたことの結果だけの発表で、グラフのどこを見て、どのようにして考えたといった課程を子どもたちに聞きませんでした。「なるほど」「そうなっている」と教師が物わかりよく納得するのではなく、グラフを使って子どもたちに、「ここを見ると・・・」「ここでも、ここでも・・・」「こことこことを比べると・・・」「ここからここの間で・・・」といった言葉で説明させることが、「グラフを読み取る」ことを学ぶ上では大切です。この課題で気づいた結果はこの課題でしか言えないことですが、グラフを読み取る「視点」はこれからもずっと役に立つことです。このことを意識してほしいと思いました。

授業後、研修担当の先生と、教科主任、授業者とお話をしました。1対1で子どもを受容できるようになって、落ち着いて取り組める教室になっていたことは立派です。指導案もチームでよく練られたものでした。次は、すぐに教師が正誤を判断せずに、子どもに考える時間を与え、子ども同士をつなぐことを意識すること。指導案の流れにそって進めることばかり意識せずに、一つひとつの場面で何が大切なのか、そこで見たい子どもの姿は何かを意識して、子どもたちの実際の姿に応じて対応することを考えてほしいことを伝えました。1つの授業のために研修担当、教科主任(その後ろには教科の先生方)がこれだけのバックアップをしてくれる学校はそれほど多くはありません。授業者もそれに応えて本番では、また一つ進歩した姿を見せてくれると思います。教師を育てる環境があることは本当に素晴らしいことです。このような学校が増えることを願います。