日記

なかまづくりを意識した授業を目指す学校でアドバイス(長文)

公開日
2014/06/04
更新日
2014/06/04

仕事

一昨日は、県外の中学校の校内研修会に参加しました。夏に研修を依頼されている学校で、それに先立ち子どもたちの様子を見せていただくためにおじゃましました。
研究の重点目標は「互いに認め合えるなかまづくりと主体的に学べる授業づくり」ということで、なかまづくりを基礎とした授業づくりを考えておられます。なかまづくりだけでなく、それを学力の向上につなげたいという思いです。

この日は、午前中に学校全体を見せていただき、5時限目は公開授業でした。研究を進めるにあたって、研修計画の中では授業規律やコミュニケーションが意識されているのですが、先生方の中でそれがまだ具体的になっていないようでした。
例えば授業規律でいえば、この場面で子どもたちにどのような姿になっていてほしいかが明確になっていません。そのため、子どもたちが教師に集中していなくても説明を始めたりします。子どもたちは素直ですが、教師が求めないことはやろうとはしません。説明中に板書を写す子どもの姿も目立ちます。また、コミュニケーションという意味では、生徒と1対1のコミュニケーションが中心です。挙手で指名し、子どもの発言を受けて教師が説明をする一問一答式の進め方がほとんどです。挙手をしない子どもが参加しない、子ども同士がかかわらない授業になっています。また、教師に直接話しかける子どもに一々反応します。子どもとのコミュニケーションを大切にしようとしているのでつい受け答えしてしまうのでしょうが、授業に関係ないことであれば、無視をするか注意しなければいけません。もちろん叱っては関係が悪くなりますので、笑顔とジェスチャーで制止するといったやり方が必要です。また、手を挙げて発言できなくてつぶやいているような場合は、「いいこと言ってくれたね。ありがとう。みんなに聞かせてくれる」「みんな、○○さんの話を聞こう」と公的な場で発表させるといった配慮も必要です。
なかまづくりを意識はしていますが、授業においてどのようにすればいいのか具体的な方策が見えていないようです。

公開授業は、1年生の文字式の導入でした。授業者は笑顔をとても大事にしている方でした。当然子どもたちもよい表情です。特に指名された子どもはとてもうれしそうにします。授業者がしっかりと笑顔で受容してくれるからでしょう。ワークシートを配る時にも子どもたちに「ありがとう」と声をかけます。前の座席からワークシートを受け取る時に「ありがとう」という声が出る子どももいます。が、それほど多くはありません。ちょっと残念でした。おそらく最初はもっと多くの子どもが言えていたのでしょうが、次第に減っていったのだと思います。よい行動を上手にほめて広げる、定着させることが大切です。

正方形の辺の上に石を並べて、その数の求め方をいろいろと考える課題です。問題文には「右の図のように」と正方形の頂点に石が置かれていることを強調するような図が描かれています。しかし、授業者は課題把握の時に「一辺に石を5個並べると・・・」と言って、頂点に必ず石を置くことをきちんと押さえません。課題の文が「右の図のように」となっているのは、言葉で説明すると難しくなるからです。ここは、「どのように並べればいいかな?」と子どもたちに投げかけながら、わざと頂点を外しておくといったことをして、課題のポイントを意識させたいところです。「どうしてここ(頂点)に石を置かなければいけないの?1辺に5個あるからいいでしょう」と揺さぶり、「右の図のようにと書いてある」「右の図は頂点に石が置いてある」といった言葉を子どもたちから引き出したいところです。

子どもたちに1辺が5個の場合の石の総数を考えさせます。最初に指名した子どもは14個と答えました。おそらく数え間違いです。授業者は否定的なことを言わずにしっかりと受容します。とてもよい姿勢です。続いて、20個、16個と意見が出ます。子どもたちに挙手で確認したところかなり分かれました。やってみようと先生が石を置いて確認します。ここは、どのようして答を出したかを聞くべきです。20個と間違えた子どもは5×4としたはずです。「計算で求めたんだ。すごいね」と評価することで、この後の1辺に30個並べる場合につなげることができます。5は何、4は何と確認しておけば、間違いにすぐに気づいてくれるでしょう。全く見通しを持たずに考えさせたいのか、見通しを持って考えさせたいのかで異なりますが、全員参加させたいのであれば、少し丁寧に扱って見通しを持たせるとよいでしょう。結局先生が正解は16個として次に進みました。20個と間違えた子どもに説明させ、説明の途中で自分で間違いに気づかせたいところでした。
25個という間違いもあったことを示し、中身まで数えたと解説します。5×5−4×4という考え方を引き出すための布石かと思ったのですが、どうやらそうではなかったようです。「これだとこの真ん中の部分を余分に足してしまっているね」と真ん中の石を取り除くといった操作をしておけば、このやり方に気づく子どもがたくさん出てきたと思います。課題把握と間違いを積極的に次の活動につなげるとよかったと思います。

次は1辺が30個の場合を考えます。できるだけたくさんの方法を考えることが課題です。「たくさん」とすることで、グループで考える必然性を出したかったのでしょう。しかし、この石を数えるという課題そのものは小学校でやってきたものです。ここにあまりエネルギーを割かずに、中学校の数学の内容にかかわる活動を中心にしたいところです。中学校の学習内容で、子どもたちがグループで活動する必然性のあるものにすべきでしょう。
グループで活動する前に個人で考える時間を与えます。すぐに手詰まりなる子どもがほとんどです。とりあえず何らかの方法で答を出せても、いくつもやり方を考えることは大変です。見通しが持てていない状態で、時間だけ与えてもあまり意味がありません。早くグループにすべきでしょう。

グループに対する指示は疑問の多いものでした。まず班長がいることです。この班長の力が強いと場を仕切ってしまいます。自分と違った考えがあったら書くようにという指示も気になります。「自分と違った考え」を書くのであれば、違っている時点で書くことに決まります。相手の考えを理解する必要はありません。ここは「なるほどと納得した考えがあったら書くように」としたいところです。
また、グループの活動は1分ずつ区切って一人ずつ発表させます。時間を持て余すグループ、とにかく相手を見ずに書くグループ、自分の考えをわからせようと説得しているグループ、いろいろでした。上手く話せない子どもに対して、「それってこういうこと」と代わりに説明してみるといったかかわり合う場面がありません。話すことが主体の活動になっていて、聞く、助け合う活動になっていないのです。中には「わからん」と声を出す子どももいますが、その子を納得させるための時間はこのグループ活動では取れませんでした。

全体での発表は個人でさせます。友だちの意見でも自分のものにして発表してもいいと付け加えます。これはとてもよいことです。グループで活動しても、発表は自分の考えが基本だからです。しかし、子どもはそのことを予想していなかったようです。ちょっと動揺が広がりました。日ごろはグループ活動の後は、個人の考えではなくグループのまとめを発表するのでしょう。であれば、なおさら違った考えではなく、納得した、理解した考えを自分のワークシートに付け加えさせるべきです。また、活動が終わったあとはどのような形で発表するかはっきりさせる必要があったと思います。

挙手した子どもと授業者とのじゃんけんで発表者が決まります。なぜこのようなことをするかというと発表者にはシールがもらえるからです。これでは、子どもにとって発表が目的化します。なかまづくりであれば、友だちに伝わる、友だちの考えを理解することを目指すべきです。
子どもの発表の後、拍手が起こります。時には授業者が拍手を求めます。これでは発言したことへの評価にしかなりません。拍手が起これば、なぜ拍手をしたのかの理由を聞くべきでしょう。すごい考えだと感動して拍手が起こっていることもあります。このことを言葉にして発表者に伝えることが仲間づくりにつながるのです。
子どもの発表を受けて、ポイントは授業者が説明します。子どもは授業者の板書を写します。言葉が足りないところは授業者が質問します。これでは、友だちの発言を聞く意味がありません。56+60という説明に対して、「28×2ということやな」とつぶやいている子どももいます。こういう言葉を拾って、全体の土俵に載せてやることが大切です。同じ考えの人を指名してもう一度説明させる、補足させる。よくわからなかったことは子どもに質問させる。こういうことを意識してほしいのです。

「5が23であと1つあるから116」という発表がありました。どういうことが授業者もよくわかりません。ここで自分が説明せずに子どもに助けを求めました。とてもよい判断です。この場面で、「わからない」「どういうこと」といったつぶやきが子どもから出ています。この言葉を拾ってつないでいけばよかったのですが、拾うことができません。当然です。授業者は教室の一番後ろで発表者を見ているからです。自分が前に立っていると発表者の視線が子どもたちに向かわないと考えてのことでしょうが、それでは他の子どもたちの様子がわかりません。前の横に立って発表者と全体を見るとよいでしょう。それでも子どもが授業者を見て困るのであればしゃがんでしまえばいいのです。いつも全員を見ることを意識してほしいと思います。
この5ずつ数える考えを2人の子どもに説明させました。授業者は納得したどうか挙手で子どもたちに聞きますが、最初の発表者には確認しません。実はその子どもは、2人目の発表のあと、口を開けて盛んに説明したがっていました。補足してみんなにわかってほしいという思いが湧き上がっているのです。とてもよい場面でしたが、授業者は活かすことができませんでした。
石の数を変えて、この日出た考え方を使って計算し、言葉の式で表わす活動に入ったところで時間となりました。

授業検討会では、一部の子どもが仕切っていた様子や、5ずつ数える考え方をしていた子どもが、全体では発表できなかったが隣の子どもからヒントをもらって図で説明していた様子など、3つのグループでとても質の高い情報が交換されていました。各グループからの発表も全体で考えるべき課題を明確にしたものです。授業に対して前向きな先生がとても多いことが印象的です。また、若い先生がしっかりと意見をまとめて発表したのには感動しました。授業での学びがどのように社会に出て役に立つのかといった視点での指摘が出てきたことにも驚かされました。学校での学びの本質を真剣に考えているということです。
私にも助言の機会をいただけたので、皆さんが感じられた課題について、できるだけ具体的にお答えさせていただきました。

夏の研修会については、研修担当の先生と相談の結果、模擬授業をもとに皆さんと一緒に具体的に授業を考えることにしました。あとは先生方から事前に質問をいただき、その回答の時間を取ることにします。
前向きな先生が多い学校ですので、何とかお役に立ちたいと思っています。夏の研修では2学期からすぐに役立つ内容となるように工夫したいと思います。