日記

授業の軸について考えた授業研究(長文)

公開日
2014/06/05
更新日
2014/06/05

仕事

一昨日は中学校で授業アドバイスをおこなってきました。かかわらせていただいて、今年で4年目の学校です。

午前中2時間と午後の1時間で校内のほぼすべての学級を見ることができました。
進路への不安でしょうか、3年生は授業に集中しない子どもと、その子どもに引きずられて落ち着かない子どもが若干目につきます。授業開始時の小テストでは、全体が集中するのに時間がかかるのが気になりました。あまり注意ばかりして教室の雰囲気が悪くなるのを気にしているのか、先生方はどこで注意したものかと悩んでいるようです。この場面では、「さあ、集中しよう」と全体に声をかけ、集中できた子どもたちを積極的に評価することが大切です。まず大多数の普通の子どもたちをよい状態に持っていき、乱す子どもたちに引きずられないようにすることが肝心なのです。落ち着かない子どもたちは授業中だけでなくいろいろな場面で声をかけることで、教師が見守っていることを伝え、不安の受け皿になってあげるようにするとよいでしょう。

2年生は、入学時にはいろいろと心配された学年ですが、先生方が子どもたちを受容することで関係をつくってきました。新年度になって一部の子どもに問題行動が出てきたと聞いてちょっと心配しましたが、教室の子どもたちは授業にとても集中していました。この日はたまたま心配な子どもたちが教室にいなかったのですが、大多数の子どもたちと教師との関係は問題ありません。これならばそれほど心配することはないでしょう。1年からそのまま持ち上がった担任団ですが、信頼関係ができていると感じました。ただ、子どもたちが集中して聞いてくれるので、つい指示や説明が多くなっています。次のステップとして、教師と子どもの縦の関係を中心とした授業から、子ども同士のかかわりを意識したものに変えていってほしいと思います。気になる子どもに対しても教師との関係だけで何とかしようとするのではなく、他の子どもとの関係をつくることで教室に居場所をつくってあげることが大切になります。授業の中で子どもが他の子どもに助けてもらう、友だちにありがとうと言われるような場面をたくさんつくることを意識してほしいと思います。

1年生は表情もよく、よい状態です。しかし、この状態はこの学校の先生方が子どもたちと意識してかかわることでつくられたというわけではなさそうです。多くの子どもが集中できていますが、中には集中を失くす子どももいます。その状況で具体的な対応をする先生が少ないのです。逆に、子どもたちがとてもよい行動をとった時でも、ほめたりポジティブな評価をしたりはしません。つまり、悪い状態を修正しようとする動きや子どもたちのよい行動を強化する動きがないのです。どうやら小学校でしっかり育てられて入学してきたようす。せっかくよい状態ですので、よい行動を認め、ほめることで、さらによい状態にしてほしいと思います。このままですと、しだいに授業規律が緩んできて、気がつくとなかなか修正できなくなってしまう可能性があります。

4人の教育実習生が1時間一緒に授業を見てくれました。適宜解説をしましたが、子どもを見るということがどういうことか少し理解していただけたのではないかと思います。中に一人とてもよい反応をしてくれる方がいました。教師になりたいという熱意を強く感じます。子どもの姿勢で集中度がわかるという話を聞いた後、実際に子どもを見ながら本当にそうなのか自分の目で確認していました。こういう姿勢が大切です。4人の実習生にはこの学校からたくさんのことを学んでほしいと思います。

授業研究は3年生の家庭科でした。幼児と一緒に遊ぶおもちゃを考える授業です。授業者は小学校から今年異動して来たばかりの方です。中学校は初めてで、家庭科は単位数も少ないため子どもたちともまだ関係がつくれていないと想像します。子どもたちは背筋を伸ばして授業を受けています。担任も授業を見ているのでよい姿勢をとろうとしているように感じます。背筋は伸びていますが、体は前には傾きません。授業者との距離を感じます。幼稚園や保育園のころどんな遊びをしたかたずねますが、子どもたちは今一つ反応しません。授業者も緊張して表情が硬いままです。しゃべり方に間もありません。コミュニケーションが上手く取れていませんでした。
事前に行ったアンケートをもとに幼稚園・保育園のころの遊びとそれでどのような力がつくか簡単に発表させます。指名された子どもはちゃんと答えますが、他の子どもたちの反応はあまりありませんでした。
ここで、グループごとに指定された遊びについて、どんな力がつくかを相談させます。グループになった瞬間、教室の雰囲気が変わりました。子どもたちの顔に笑顔が浮かびます。額を寄せ合って相談を始めました。子ども同士の関係のよさがよくわかります。
用意された「判断力」「コミュニケーション力」「思考力」といった、いろいろな力が書かれたカードを見ながら、選んだものを小型のホワイトボードに貼っていきます。「判断力って何?」といった言葉が子どもから発せられます。どのグループも非常に集中して活動していました。活動終了後、各グループのホワイトボードが黒板に貼られます。2グループずつ同じ遊びが指定されていることもあり、子どもたちは他のグループの結果が気になるようです。とても真剣に見ていました。見ながら何か話し合っている子どももいます。とてもよい姿でした。
子どもたちの笑顔の影響か授業者の顔にも笑顔が浮かんできました。教師の笑顔が子どもの笑顔を引き出すように、子どもの笑顔も教師の笑顔を引き出します。授業は教師と子どもでつくるということがとてもよくわかる場面でした。

遊びごとにグループに発表させます。共通することと違うことがはっきりするので子どもたちは聞こうという意思を見せます。座ってぼそぼそと発表した子どもに、「よいことを言ったから、立って説明して」と声をかけました。よい行動をうながすための上手い声かけです。しかし、発表した後、その考えに対する他の子どもたちの意見を聞く場面がありませんでした。これだけ関係のよい子どもたちですから、きっといろいろな意見が出たことと思います。

この日の主課題は、「新聞紙を使って園児と一緒に遊ぶおもちゃをグループでつくる」です。子どもたちの活動の見通しを助けるために、新聞紙を丸めたり、破いたりして、利用の方法を例示してからグループで活動させました。
子どもたちは意欲的です。一瞬テンションが上がりましたが、しばらくすると落ち着きました。何をつくるか考え始めたのです。しかし、作業が始まるとだんだん声が大きくなります。とりあえずつくるものが決まれば、思考は必要ないからです。活動は指示しましたが目標や評価がないため、考えることがあまりありません。どうしてもテンションが上がりやすくなります。

作業が終わって、元の状態に戻ります。子どもたちは素早く移動しました。授業者は「素早く移動してくれてありがとう」とほめます。こういった言葉が自然に出てくるのはとてもよいことです。ここで、授業者は子どもたちが考えた遊びでどんな力がつくか考えるように指示をします。子どもに動揺が走ります。そんなことは全く考えていなかったからです。子どもたちは無理やり考えますが、テンションが上がります。明確な根拠を持って考えられないので、思いついたことを言うしかないからです。
いくつかのグループに遊びの説明とつく力を発表させました。どのようにして遊ぶのかが上手く伝わりません。実際に前に出て遊ぶところ見せればよかったのですが、時間がないので無理だったのかもしれません。考えた遊びと力の関係も明確にならないまま終わりました。最後に授業者がつくったおもちゃを見せてから、次の時間は個人で遊ぶおもちゃを考えることを伝えて終わりました。授業者のつくったものを見せる意図がよくわかりませんでした。

子どもたちはよく活動してくれましたが、家庭科の授業としての学びが何だったのかはっきりしません。授業の軸となるものが明確ではなかったのです。そもそも、家庭科の授業で幼児の遊びについて考える理由は何でしょうか。このことが子どもに伝わらなければいけません。「幼稚園や保育園でたくさん遊んだけれど、保育士さんはきっと遊びを選んでいるよね。どうしてかな?」といった問いかけで、子どもにとって遊びが成長するためにとても大切なものであることに気づかせます。その上で「じゃあ、君たちがやってきた遊びを思い出してみよう。どんな力をつけてくれたのかな?」とすれば、必然性のある問いかけになります。「みんなも将来子どもができたら一緒に遊ぶことが大切だね。君たちはまだ子どもがいないので、保育士さんが子どもたちと一緒に遊ぶ新しいおもちゃを提案しよう。本当に採用されるとうれしいね」と課題を設定して、「採用してもらうために何が必要かな」と問いかけます。「お金がかかると大変だから、できるだけ安くつくろう」と新聞紙を利用する必然性を与えます。「どんな力をつける」を事前に押さえておいてもいいですし、活動の途中でいったん止めて、「採用されるためにどんなことを考えた?」と採用されるための視点を共有してもいいでしょう。活動のゴールは「プレゼンをして、みんなに保育士さんになったつもりで採用するかどうか判断してもらおう」とします。こうすれば、発表を聞く側にも必然性が生まれます。採用の決め手になったところやダメな理由を発表させることで、子ども同士がかかわりながら、幼児の遊びについて考えることができるはずです。

全体の検討会では、若手を中心に積極的な発言がたくさんありました。とてもよいことです。子どもたちの活動の様子をもとにしっかりと意見が交換されました。
私からは、この授業だけでなく全体に共通なこととして、答がちゃんと出ているのに子どもたちが挙手しない理由について話をしました。参加していた実習生に理由を聞いてみると、「間違えると恥ずかしいから」と「発表したくないから」という2つの意見が出ました。その通りだと思います。自信がなくても発表できるようになるためには、しっかりと受容することが必要です。また発表したくないのは、発表してもいいことがないからです。ポジティブに評価されなかったり、評価されてもすぐに先生が自分に都合のいいように言い換えて説明したりでは、発表したいと思いません。子どもたち全員が参加する授業を目指してほしいことを伝えました。
子どもたちはとてもよい姿を見せてくれました。指導案も研修部のメンバーが一緒になって練り上げたものです。そのため、授業者は今回の授業研究を非常に前向きにとらえていました。家庭科の教師は一人だけです。しかも小学校から異動したばかりで孤独になりやすい状況です。みんなの助けを得て授業をつくり上げたことはとてもうれしく支えになることだったようです。
最後に、子どもたちに向上的な変容をさせることを意識して、1時間の授業に教科の目標という軸をしっかり通してほしいことをこの授業を例に具体的に伝えました。
検討会のまとめとして教頭から、今まで私の指導は子どもとの接し方、コミュニケーションの取り方が中心だったが、今回初めて教科のめあてや軸といった授業内容に関すことが話された。自分たちが進歩したのだと感じたと話がありました。その通りです。子どもたちが育ってきたので、何を学ばせたかが真剣に問われるようになってきたのです。

この日の夜は、懇親会が開かれました。食事をする間がないほどたくさんの方が話しに来てくださいました。皆さん、自分の授業はどうだったか、子どもたちはどうだったかと授業の話ばかりです。本当に授業力をつけたいと思っていることがよくわかります。今年から3年の研究指定を受けたそうです。その期間の指導をお願いされました。とても光栄なことです。これから3年間、先生方と子どもがどのように成長していくかとても楽しみです。
この日はとても充実した1日でした。このような機会を得られたことに感謝です。