小規模校で、子どもの言葉を引き出す授業を見る
- 公開日
- 2014/11/10
- 更新日
- 2014/11/11
仕事
小規模校で2つの授業研究のアドバイスをさせていただきました。昨年度まで2年間、継続的に授業アドバイスをさせていただいた学校です。今年度は算数をテーマに授業研究に取り組んでいるということです。
1つは2年生の算数で、三角形、四角形を直線で切ってできる図形について考える授業でした。
授業者が子どもたちの言葉をできるだけ活かそうとしているのが印象的でした。「三角形、四角形を切るとどんな形になるか?」という授業者の問いかけに対して、子どもが何かよくわからないことを言っています。授業者はそれを無視せずに子どもに説明をさせました。前時までに使ったパズルの1つの長方形を示しこの形になると説明します。授業者はよく理解できません。しかし、しっかりと受け止めます。他の子どもたちも一生懸命に聞いています。どうやら、大きな正方形(?)を半分に切ると、その長方形ができることを言いたかったようです。そのことを理解した他の子どもが、今度は三角形2つで長方形ができることを説明しました。授業者は予想外であっても子どもたちの考えを受け止め、認め、ほめてからこの日の課題に入りました。日ごろから、子どもたちの発言をしっかり受容しているのでしょう。子どもたちが積極的に発言してくれます。
三角形の紙を用意して、子どもたちにはさみで切らせます。この時直線を強調し、直線はどんな線かを問いかけます。「まっすぐな線」という子どものつぶやきで確認して、定規で直線を引いてから切ることを押さえました。このまっすぐな線という言葉は大切なので、もう一度全体に向かって発表させて共有し、全員に言わせたいところでした。
どんな形ができたか、前に出て発表させます。しっかりと発表できますし、聞くこともできています。「どんな形」に対して、「すべり台の形」「オニ(の角)の形」といった言葉で説明します。授業者は、最初の子どもには「算数の言葉でいうと?」と問い返し、三角形という言葉を引き出しましたが、他の子どもには「あっち(以前の時間に学習をまとめたホワイトボード)の言葉」や「前の時間で習った」といった聞き方に変わりました。算数の用語を意識させるのであれば、「算数の言葉」にこだわりたいところです。前の時間にやった三角形の定義を子どもたちに確認して、「すべり台の形は三角形」「オニの形も三角形」というように、三角形の概念を具体的な例で押さえていくとよかったでしょう。
できた図形を黒板に貼りながら、どこで切ったかを説明させます。2つの三角形に分ける子どもが続きましたが、最後の1人が三角形と四角形に分けていました。この子どもがいてくれたので助かりましたが、小規模校ですから全員が2つの三角形に分けてしまうこともありえます。そのような時は、「みんな2つの三角形ができたね。いつでも、2つの三角形ができるかな?」というように問い返す必要があります。逆に普通の規模の学級であれば全員に発表させることができませんから、同じ考えの子どもたちをつないでから、他の考えの子どもに発表させる必要があります。
続いてこの切り分けの「今までの人と違うところ」と問いかけて、「四角形」という言葉を引き出します。授業者は「四角形だけではわからないから最後まで言ってほしいなあ」と切り返し、「四角形と三角形になっている。他の人は三角形だけ」と言葉を足させました。上手い対応でした。
ここで、これまでに発表した図形を見て気づいたことがないかを問いかけます。「気づいたこと」ではなかなか気づけません。「ちょっと形が違うと仲間に入れない」という言葉で、「ここが頂点になっていない」という気づきを引き出しました。実は、切り口が頂点から少しずれているものがあったのです。授業者はこのことに気づいていて、あえてその場では指摘をせずにここで取り上げたのです。続いて2人の子どもが同時に言葉を発しました。1人の子どもの「辺になっている」という言葉を取り上げて、「いいこといったね。どうなっているって?」と再度「ここが辺になっていると」説明させました。授業者が余計な言葉を足さずに子どもの言葉で重ねさせているのはとてもよいことです。前時で学習した「頂点」や「辺」という用語を子どもたちが使っています。また、さきほど言葉を発したもう1人の子どもにも「お待たせしました」とちゃんと発表させました。子どもたちが落ち着いて友だちの話を聞けるのは、こうして活躍の機会を確保しているからでしょう。
授業者は続いて四角形を切る課題に移りましたが、先ほどの頂点を通っていない切り方を「はさみが頂点を通っていない」「辺を切っていると」と押さえ、それぞれの切り方を「頂点と辺で切っている」「辺と辺で切っている」と整理することで、頂点、辺のどちらを切るかに注目させても面白かったと思います。ここは、算数的な見方を広げるよい機会でした。
四角形を切った時の説明では、子どもたちは最初から四角形と三角形、四角形と四角形と説明します。課題の視点を理解しています。切り方の具体的な説明をしている時に、「頂点がずれている」といった指摘も出てきます。ここで、授業者は指摘した子どもではなく、ちゃんと本人に修正させました。子どもをネガティブな気持ちにさせないことを意識しています。また、「○○さんとちょっと違って」とよく似ているが頂点を通らない切り方をした子どもの発表を、「○○さんとちょっと違うだけで四角形2つになるんだね」と評価しました。こういった評価するのはとてもよいことです。「どこが違う」「通るところが違う」「頂点と辺」というように発言をつなげて、「よく似ているけど、頂点を通るか辺を通るかでできる形が違うね」と算数的な評価にするともっとよかったと思います。
三角形と五角形に分けた子どもが発表しました。ところが、三角形と四角形と説明してしまいました。聞いていた子どもが五角形だよと、辺を「1、2、……、5」と数えました。発表した子どもは間違いを指摘されて、今にも泣き出しそうな表情になりました。授業者が「すごい発見!」と子どもを何度も評価し、気持ちが落ち込まないようにすることで、何とか持ち直してくれました。こういった対応も立派です。
五角形はまだ学習していませんが、子どもたちは類推しています。ここも評価し、価値づけしたいところです。三角形の定義と四角形の定義を復習して、「五角形は?」「六角形は?」「じゃあ百角形は?」というように拡張することを経験することも算数的な見方です。
全員発表しましたが、三角形と三角形に分けるやり方が出てきませんでした。ここで授業者は「実はもう1組ある」と誘導しましたが、先ほど述べたように、「これで全部?本当?」といった問いかけの方がよかったように思います。また、授業の最初に子どもたちが見つけた、長方形を2つの三角形に分けたものを使って気づかせてもよかったかもしれません。
三角形の時にどこを通るかという視点でもう少し整理しておけば、子どもたちが気づきやすくなっていかもしれません。「頂点と辺」「辺と辺」という切り方しかないかと問いかけることで、「頂点と頂点」に気づいてくれると思います。また、同じように「辺と辺」で切っても、2つの四角形に分かれる時と三角形と五角形に分かれる時があることを「どう違うのか?」とを問うことで、隣同士の辺や向かい合う辺といった言葉を引き出すことができるかもしれません。平行四辺形の学習などの布石になります。
以前と比べて、授業者の言葉が減って子どもたちの発言がとても増えています。子どもたちをしっかり受け止めているだけでなく、子ども同士のかかわり合いも増やそうとしています。子どもたちのよさを引き出すことを意識して授業をし続けていることがとてもよくわかります。そのことをとてもうれしく思いました。
だからこそ、算数の授業としてどうであったかということが問われます。算数の授業として見れば、この授業で子どもたちにどのような算数の力をつけたかったのかが明確になっていなかったことが、課題です。逆に言えば、目標さえ明確になっていれば、子どもたちから言葉を引き出すことはできるので、素晴らしい授業になると思います。次のステップが明確になったと思います。
もう1つの授業研究と検討会については明日の日記で。