スモールステップの大切さを考えさせられた授業
- 公開日
- 2014/11/11
- 更新日
- 2014/11/11
仕事
昨日の日記の続きです。
もう1つの授業研究は、3年生のかけ算の筆算の授業でした。12×7の計算でかけ算の筆算のやり方を考えるというものです。
前時は12×4の計算で、12を10と2に分ける、6と6に分けて考えるという2つのやり方が出てきたようです。6と6に分けるという発想は12を2×6として、交換法則や結合法則を活用する時に使えますが、ここでは位取り記数法をもとにした計算を考えるのですからちょっと困ります。
授業者は「どんな数字(数とすべき)でも上手くできるやり方で考えて」と問いかけましたが、その意味は子どもにはよくわかりません。12を6と6に分けて考える子どももいました。ここでは、6と6に分ける考えを引きずらずに、最初から10と2に分けて考えさせるべきだったと思います。
2×7=14、10×7=70、14+70=84という式と計算を縦に並べて書きます。14、70、84が縦に並ぶことで筆算を想起させようというねらいです。授業者はそこからではなく、「もっとやりやすいやり方を考えていく」と、最後に子どもたちに言わせたいことから出発しました。筆算という言葉を前時に言った子どもがいたようなので、そのことを思い出させて、「かけ算にも筆算があります」と結論づけました。筆算がどんな形か予想させます。子どもたちが根拠を持って考えるわけではないので、あまり意味のある活動ではありません。
結局、授業者が答を書きます。筆算の形で12×7を書いてその下に「答はわかっているから」といって84と書きます。「なんでこうなるか言える?」と問いかけますが、子どもは混乱していきます。説明できる子どもは、知っている子どもです。その子どもは、繰り上がりを使って、「2かける7で14で、1が繰り上がって7と足して・・・」と説明し始めます。1段で書いているので、14と70を積んで考える段階をとばしてしまいます。ますます、混乱に拍車がかかります。授業者が「筆算の前にやったやり方で・・・」と別の説明を始めました。
ここで、「書く時に決まりがあったね」と問いかけます。子どもたちは、「定規を使う」「繰り上がりを忘れない」「1の位からやる」「位をそろえる」と筆算のポイントを答えます。授業者は、「『位をそろえる』だね」と自分の求めていたものが「位をそろえる」であることを伝えます。発問の意図が子どもたちによく理解されていなかったので、子どもたちは筆算に関して注意してきたことを思いつくままに答えました。ここで教師が自分の求めていたものを示すことで、子どもたちは教師の求める答探しをするようになってしまいます。
14と70を並べて書いたのですがから、「1は何が1つ」、「7は何が7つ」といった問いかけをし、同じ列に書かれているものは同じ固まりであることを押さえて、位をそろえると簡単に足せることを確認すればよかったと思います。
授業者は、「14をどこに書く?」と問いかけますが、子どもからは「どういうこと?」という声が出てきます。「14と70」を足すという計算をすればいいということを押さえずに、やり方(書き方)を先に教えようとするので混乱しているのです。14と70を足す計算するには位をそろえて筆算すればいいので、書き方が決まっていくのです。論理の流れが逆なのです。
ここで、数え棒を出して、筆算を書いた紙の上に置いて筆算の意味を考えさせました。ここで大切なのは、それぞれの数字が表すのがその位の数であることを押さえることです。70の10の位だから書かなくていいと説明しますが、子どもにはよくわかりません。位をそろえて書いてあるから、0がなくても10が7つあることがわかることを子どもに問いかけながら、言わせたいところです。
授業者は、教科書の流れを変えて、一気に筆算のやり方を子どもに気づかせようとしたのですが、子どもにとっての筆算の必然性がないまま、結局やり方を教えることになってしまいました。最初の友だちの「繰り上り」という言葉に引っかかって、14と70を積んで書いているのに、繰り上がりの1を足そうとしている子どももいました。「繰り上り」という言葉が余計な情報として子どもの頭に残ってしまったのです。
授業を組み立てるのに、スモールステップを意識して、1つずつクリアする必要があります。この授業では、「14と70を足せばいいこと」「14と70を、位をそろえて積めばいいこと」「1と7と数字だけをかけても、位を意識して書けばいいこと」を1つずつ押さえることが重要です。
授業検討会では、それぞれの授業ごとにグループに分かれて検討をしたのち、全体で発表しました。そこで出た皆さんの疑問に答える形で、私がアドバイスをさせていただきました。
授業者からは、「算数的な見方を子どもたち育てるためにどうすればいいのか?」「筆算のやり方は12×4、12×7、12×9のどの計算で考えればよかったのか?」という質問が出ました。
算数的な見方を育てるために意識してほしいことは、価値づけです。子どもたちの活動を通じてでてきた考え方や視点を、ただ「いい考えだね」とほめるのでなく、どこがどのようにいいのか価値づけするのです。価値づけを教師がしてもいいですが、育ってくれば子どもたちにさせることもとてもよい方法です。三角形をはさみで切って2つに分ける活動であれば、「切り方によっていろいろな形ができるけれど、辺か、頂点か、どっちを通る直線で切るかに『注目』すると、2つの三角形ができるか、三角形と四角形ができるかは『必ず決まるね』。」というような価値づけを子どもたちから出させるのです。振り返りで書くことねらってもいいでしょう。
筆算のやり方を考える時、12×4は、12を10と2に分けて考えれば計算ができることを考えさせるための問題です。12×7は2つに分けた計算を積んで計算する(筆算)必然性のある計算です。12×9は、計算を1段でやる(暗算)時に、2×7で14というかけ算による繰上りだけではなく、1+9という足し算により繰り上がりも起こることを考える問題です。子どもたちにとって異なって見えるステップが筆算のやり方を考えるためにあるのです。教科書は1度に1つのステップだけを登るように作られています。授業者は、本当は12×4の次に、12×9で筆算のやり方を考えさせたかったようですが、この間にある2つのステップをどう子どもたちにクリアさせるのかという道筋を明確にする必要があります。いつも述べていますが、教科書のやり方に縛られる必要はありません。しかし、教科書がなぜそのような組み立てをしているのかを理解した上で、子どもたちの実態に合わせて進め方を工夫してほしいのです。
授業者が、子どもの発言を途中で黒板に向かったまま書いている場面がありました。子どもを一切見ない状態が続いてしまいます。このことが気になったのですが、今回は算数の研究が主体ということと、時間の関係もあって触れることはしませんでした。代わりに教務主任にフォローをお願いしておきました。ところが、「そのあとすぐにその先生の授業を参観したところ、子どもの発言中に板書することはなく、意見をうなずきながら聞いていた」というメールをいただきました。教務主任は、まだ一言もアドバイスをしていなかったそうです。誰かが指摘してくれていたのでしょう。互いに指摘し合い、それを受け入れられる関係はとても素晴らしいことです。授業研究が確実に先生方の力量向上につながることと思います。
また訪問する機会があれば、ぜひ先生方の進歩を見させていただきたいと思います。