改善の道筋をいろいろと考えた授業
- 公開日
- 2015/06/19
- 更新日
- 2015/06/19
仕事
中学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。今年度より学び合いを取り入れようとしている学校で、若手2人の授業アドバイスを行いました。
1年生の理科の授業は金属と非金属の性質の違いを考える場面でした。
小学校での経験のある方です。子どもたちを集中させてから話し始めます。授業規律を意識していることがよくわかります。板書しながらしゃべらないといった基本もしっかりとできていました。
非金属を金属でないものと定義するのはいいのですが、中学1年生では金属はきちんと定義できません。そこをどうするのかが課題です。この時間のめあては「金属と非金属とでは、どのような性質の違いがあるかを探ろう」というものでした。授業者はその前に、子どもたちの言葉で「金属ってどんなものか」を説明しようとさせていました。子どもたちから、「電気を通す」「磁石にくっつく」「水を吸収しない」「塩酸に溶ける」「銀色」といったことが出てきます。授業者はちょっとずれているかなという答も「ああ」とうなずいて受容します。しかし、残念ながら指名された子どもだけが参加して、他の子どもたちはそこにかかわろうとしません。ここで「電気を通せば、金属?」「水を吸収しないってどういうこと?」「それって絶対金属?」というように切り返したり、「納得した?」と他の子どもにつないだりしたいところです。こういった切り返しをすることで、金属がどういうものかを明確にするためには、金属の性質だけではなく非金属の性質も調べなければならないことに気づかせるのです。あわせて、めあてを「違いを探る」ではなく、「金属と非金属を区別する方法を見つけよう」とすることで、この後ただ「調べて」実験が終わるのではなく、その結果を使って区別する方法を「考える」ことができたと思います。
「銀色」という答に対して、授業者が「光ってる」と言い変えました。授業者はわざと錆びて電気を通しにくい釘を用意しています。であれば、ここは少しやり取りをしながら「光沢」を意識させておきたいところでした。
授業規律を意識しているのですが、聞くことが徹底していません。子どもに友だちの発言を聞くことを求めていないこともそうなのですが、一人発言するとすぐに板書をします。これであれば子どもたちは聞かなくても困りませんし、注意は授業者に向いてしまいます。せめて「どう?納得した?」「同じように考えた人?」と子どもたちをつないでから板書したいところです。また、顔を上げるように指示して、顔が上がるとすぐに話し始めます。子どもたちの集中はすぐに落ちてしまいます。子どもにとって、顔を上げれば指示に従ったことになり、話を聞くことは指示に入っていないからです。全員の顔が上がったらすぐに話すのではなく、「みんな先生の顔を見てくれているね。ありがとう」と指示に従ったことを認めて「じゃあ、今から○○の説明をするから、よく聞いてね」と次の目標を示すとよいでしょう。
さて、子どもからは色々な意見が出てきたのですが、授業者は「磁石にくっつくか?」「電気を通すか?」の2つに絞ります。子どもたちとっては必然性がありません。ここをどうするかが授業のポイントです。先ほど述べたように目標を「金属と非金属を区別する方法を見つけよう」とすると、どの方法がよさそうか子どもたちに考えさせることができます。そこで何を実験するか絞っていけばよかったと思います。「銀色」というのも、簡単に調べられますから加えてもよかったと思います。こうすることで指示されてやる実験から自分たちの実験に変わっていくのです。
実験は金属、非金属いろいろなものを用意して、ただ磁石にくっつくか、電気が通って点灯するかを調べるだけです。予想なしに実験をしても、ただやって終わるだけです。机の上を整理するために、一人を書記にします。他の子どもは何も書きません。実験をして確かめるとすることがなくなります。どうしても、テンションが上がりやすくなってしまいます。結果を自分のワークシートに写すにも、どれが○かを意識せずに、順番に○×と聞いて書くだけです。先ほど述べたように、区別する方法を見つけることを目標として、区別できるとするとどういう結果になるかを予想させておけば子どもたちの動きは違ってきたと思います。金属か非金属かわかりにくい物を用意しておいて、「金属だと思う人はどういう結果になると思う?」「非金属だと思う人は?」と予想させるとより意欲的になったでしょう。また、実験が終わったあとに考えることがあるので、テンションが上がりにくくなったとはずです。
授業者は、この実験に仕掛けを用意していました。錆びたくぎや一部塗装されたアルミ缶を実験材料に混ぜ、実験結果をすぐに黒板に書かせたのです。黒板に書かれた結果を見て、自主的に実験し直す班が出てきます。電気を通す、通さないで子どもたちを揺さぶったのです。授業者は書き直した班があることに注目して、「なぜ結果が違ったか考えよう?」と質問しました。やり直した班はどうすれば電気が通るか気づいています。やり直さなかった班は、線のつなぎ方が悪かったといった実験のやり方を理由にします。ここは、「やり直した班は他にもない?」と聞いて、「どうしてやり直した?」「どんなことをした?」と確認して、全体で共有してから、その理由を問えばよかったと思います。「錆びは電気を通さない」「塗装は電気を通さない」といった言葉を出させ、「錆びは金属じゃないの?」「錆びは鉄じゃないの?」と揺さぶると、酸化鉄の実験への布石になったと思います。残念ながら時間がなかったために、さびや塗装をはがして実験することまではできませんでした。
授業者は、授業規律を意識するなど、小学校の経験を活かすことができています。中学校だからと考えるより、過去の経験を活かすことを意識してほしいと思います。「理科の授業の課題はどうあるべきか」「授業の課題を子どもたちのものとするにはどうすればいいのか」を意識することで、大きく伸びると思います。
数学の初任者の授業は、2年生の連立方程式の応用でした。
授業者は明るく子どもたちとの関係もよさそうでした。この日の課題は鉄橋を電車が渡る速度と時間から、電車の長さと鉄橋の長さを求めるものでした。導入では、自分が電車で出かけた話をして興味を引こうとします。反応しない子どもが結構います。授業者は反応する子どもとだけで授業を進めていきます。
この日の課題のプリントを配り、授業者がプリントを見ながら読みます。授業者と子どもの目線は共に下を向いているので当然合いません。黒板に貼る問題を用意していたのですから、配る前に貼ってそれを読ませればよかったのです。子どもを「見る」、「顔を上げさせる」という感覚がまだないようです。
子どもに板書を写させますが、まだ書いている子どもがいるのにしゃべり始めます。子どもたちにどうあってほしいかが明確ではありません。余裕がなく、子どもの様子を見ることができないのでしょう。
「求めるものは?」とたずね、一部の子どもが反応するとそれを受けて進みます。せめてプリントに線を引かせて、まわりと確認するといったことをしてほしいところです。「数字に○をつけよう」というように、常に授業者が指示をしてその通りに活動させます。
問題文の読み取りも、授業者が整理して説明します。「その問題」の解き方を指示して教える授業です。子どもが考える場面がありません。これでは、数学の力はつきません。
鉄橋と電車の写真をわざわざ用意して貼りますが、その意味がわかりません。貼って見せただけで、そのあとは一度も使いません。時間がもったいないと思います。
問題を解くためには図を描く必要があると説明しますが、どうしてなのでしょうか。その根拠は語られません。せめて、子どもがから何をするかをいくつか出させてから、進めたいところです。授業者が図を描くと、だれも先生の方を見ません。写しているからです。
所々で指示したことを作業させますが、子どもたちは授業者に誘導されてやっているだけです。その間、授業者は色々なことをしゃべっています。子どもたちの集中力を下げていることに気づいていません。
「式を立てられた人?」と聞いても、3人しか挙手しません。挙手して答えることに意味がないからです。わかっている子どもにとってはただムダな時間が過ぎていくだけですし、わからない子どもにはわかるようになる場面がありません。ひたすら教師が説明しわかりなさいと説得する授業でした。ほとんど1時限すべてを使って、授業者がしゃべり続けた授業でした。
さすがに後半は、子どもたちの集中力が切れてしまいましたが、それでも大きく崩れません。先生方が見ていることもありますが、子どもたちは立派だと思いました。
「できた子はまわりの子どもに教えてあげて」と授業者が言う場面がありました。あたりまえですが、これでは子ども同士の人間関係を崩します。この先生の問題というよりは、おそらくこの学校で学び合いの基本が共有されていないということでしょう。「わからなかったら聞いてもいいよ」「聞かれたらわかるまで一緒に考えてね」というような言葉を知っていなければなりません。
問題を子どもたちができるようになるためのスモールステップが理解されていません。だらだらと説明をするだけで、足場をそろえることができていません。教材研究というより、数学の授業観の問題のように思いました。
授業者と話をすると、とても素直で前向きです。子どもたちが考える授業をしたいという言葉が出てきます。その言葉と授業のギャップが気になります。今回の授業の課題は、この授業者個人のものではなく、この学校の数学科全体の問題なのかもしれません。授業者には授業規律の基本と、数学の授業の考え方をまず勉強するようにアドバイスしました。玉置崇先生の「スペシャリスト直伝! 中学校数学科授業成功の極意」といった書籍も紹介しました。授業者が自ら学ぼうとしてくれればきっと改善されると思います。
校長、教務主任は授業改善について前向きだと感じました。子どもたちの学び合いについては、まだ具体的にどうしていけばいいのか見えていないようでした。学び合いでどのような子どもの姿を目指すのか、そのためにはどのような手立てが必要なのかを学校全体で共有することが大切です。具体的な道筋を考えてほしいと思いました。私ができることがあれば、協力したいと思います。相談していただければうれしく思います。