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◆「ある」と思うことから始まる

公開日
2023/07/15
更新日
2023/07/15

船井幸雄の人間学

◆「ある」と思うことから始まる

 そもそも,船井氏の教育の原点は,「人間には能力はある」としている点です。「ある」と考えていることが大きいのです。「ある」から引き出す(educate)ことができます。引き出すの教師の役目です。
 反対に,「人間には能力がない」と考える立場もあります。「ない」と考えるから「教えてあげる」のだという立場です。「ない」と考えているのは,それは,人間の研究がたりない人です。脳の研究からいっても,「ない」のではなく,生まれつき「ある」のです。人間の脳は,一生かかっても5%しか使われていません。5%ですよ。後の95%は眠っているのです。使われずに一生を閉じるのです。5%の脳だけでも,人間はこれだけの素晴らしい文明を作り上げてきたのです。他の動物にはできなかったことです。
 だとすると,後の95%が使われだしたらとてつもなく大きなことができるはずです。現在の科学では,また,教育学では,残りの95%を使うノウハウが未知なだけです。ですから,「人間には能力がある」という立場で,子どもを見ていくべきだと思います。
 あるとき,中学1年生のある生徒が英語が苦手で困っていました。テストをしても一桁の点です。英語の教師は,この生徒に能力がないとあきらめました。ところが,その生徒の母親は,そんなことはない。この子どもには能力があると思って,一から特訓を始めたのです。そうして,3ケ月後,80点をとりました。英語の教師は,担任に「あの生徒ははどんな生徒か」と質問したそうです。そして,その後は,母親の力も借りずに英語を勉強していったそうです。
 この事例を聞いて,私は思いました。「人間の能力は無限である」と。母親とその子どもにはよい機会だったわけです。しかし,本来は,英語の教師がやるべきことです。週に4時間も生徒と接しながら,何一つ有効な手立てをうたなかった教師は失格です。その教師は,他の生徒にも評判が悪く,親からも不平が出ていたそうです。複数の親の証言があるからまちがいないでしょう。当然,その教師の運も落ちているわけです。
 そこで,「能力はある」という立場にたったら,いかに「引き出す」かということが問題なわけです。それが,船井氏のいう「長所伸展法」なのです。以前にも他の論文で,この長所伸展法について論じましたので,要点だけのべます。