第6回・授業の中でこそ生徒指導だ
★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。
【第6回】授業の中でこそ生徒指導だ
大西貞憲
(授業を見るプロ)
玉置崇
(インタビュー)
これまで多くの授業をご覧になられていて、「授業中の生徒指導」という観点で、具体的に話していただく事例はお持ちではありませんか。「授業がうまい方は生徒指導もうまい。このことは授業のここを見ればよい」といった視点を与えていただくとありがたいのですが。
私も
授業力と生徒指導力は間違いなく強い関係がある
と思います。
授業がうまい教師と生徒指導力がある教師にはコミュニケーション力が高いことが共通
しているようです。学習指導でも生徒指導でも、コミュニケーションがきちんと取れることがその大前提だからです。特に
授業でのコミュニケーションを考えるとき、そのポイントは2つ
あると思います。一つは教師が子どもに考えや思いを分かりやすくきちんと
伝える
こと。もう一つは、教師が子どもの考えや思いを肯定的に
受け止める
ということです。
伝える力のある教師
は、説明や指示が具体的で子どもにとってわかりやすいだけでなく、自分の発する言葉が子どもの立場で聞くとどのように受け取られるだろうかも意識しています。例えば「・・・しなさい」では命令的に聞こえるので、「・・・しよう」と呼びかけたり、「考えを言って」ではなく「考えを聞かせて」と表現したりしています。このような配慮をすることで、教師と子どもとの関係がよくなり、結果として教師の言葉が子どもたちに受け入れられやすくなります。
一方、
受け止める力のある教師
は、子どもの発言に対して、笑顔を作るようにしたり、うなずいたり、受容的な態度をとるようにしています。たとえ不正解やずれた発言でも「なるほど、そう考えたんだ」ととりあえず認めるようにします。また、ちょっとしたつぶやきやしぐさも子どもからの大切な発信ととらえてきちんと受け止めます。「今、『あれっ』て言ったけど、それってどういうこと」「今うなずいてくれたけど、納得した?」。このような対応をすることで、子どもは教師がちゃんと聞いてくれている、認めてくれていると感じ、安心できるので、自分の考えを発言しやすくなり、落ち着いて学習に参加することができます。
教師がきちんと伝え、受け止めることで、子どもとのコミュニケーションが円滑になり、考えや思いを共有・共感できるようになれば、学習指導も生徒指導も間違いなくうまくいくと思います。
「コミュニケーション力は、伝える力と受け止める力だ」 と二つの視点を与えていただいたことで、自己分析がしっかりできると思います。管理職の中には、「これだけ思いを伝えているのに、職員はちっとも理解してくれない」とこぼす方がありますが、「思いを伝えただけで、職員の思いを受け止めていないのではないですか」と助言したいですね。何事もバランスが大切です。
我々も「県教育委員会の思いをちっとも分かってもらえない」と嘆くことがありますが、まずは「伝える」努力が足りないのだと思います。もっとも、「現場からの声をしっかりと受け止めてくれるか」と言われると難しいことが多くて・・・。だからバランスを取って、伝えることを控えているとも言えるんですが(笑)。
(2009年9月28日)
●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)
愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。
●玉置 崇
(たまおき・たかし)
1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。