第12回・教師力の基本
★このコラムは、日本初(?)の教育コンサルタントとして10年前からご活躍中の大西貞憲さんから、授業を見るための眼力が高まるノウハウをインタビュー形式で学ぶものです。
【第12回】教師力の基本
大西貞憲
(授業を見るプロ)
玉置崇
(インタビュー)
私はそのときが教師力の差を感じられた原点だったと思うのですが、興味があるのは、そのときに教師力をどのようにとらえられたかということです。随分昔の話で恐縮なのですが、そのあたりのお話を聞かせていただけませんか。
当時、子どもたちのつまずきを把握することを意識して授業を行っていました。机間指導をし、できの悪い問題は繰り返し説明もし、練習問題も配って勉強しておくように指示もしました。自分としては一生懸命教えていたつもりでしたが、子どもたちの成績はなかなか伸びませんでした。「この子たちは今まで学習したことが定着していないから授業についてこられない」「勉強しないから伸びない」とついつい愚痴を言うことが多くなっていました。
あるとき先輩と話をしていると、私が「この問題ができない子が多い。この単元が苦手だからこの問題が解けない」と言うのに対して、「この問題のこの部分でつまずいているから、まずこの練習をさせないといけない。過去の単元のここが弱いので、こんな問題を配った」と
ピンポイントで子どものつまずいている個所を指摘し、指導内容を具体的に語っている
ことに気づきました。
「子どもにつけさせたい力(教科・単元の目的・目標)を明確にして、その達成の過程が具体的に見えている」「子どもにどんな力がついていて何が足りないのかを具体的に把握できている」「足りない力をつけるためにどうすればよいかを具体的にわかっている」この点が私との違いであると気づきました。つまり、
できが悪い問題を把握していても、真のこどもたちのつまずきは把握できていなかった
と思うのです。
そこで、例えば、宿題とした問題の点検では、この生徒はこの問題についてどのように考え、どう解こうとしていたのかに注目しながら、解答の添削をすることを始めました。また、机間指導のときも、正解かどうかではなく、その過程に注目してみるようにしました。このことを通じて、どこでつまずくのか、どんな指示やアドバイスをすると理解できるのかがだんだん明確になってきました。
一方で、授業の組み立ても、今教えている単元の内容だけでなく、入学から卒業までに教えるすべての内容を自分の中で整理し、その関連を明確にして考えるようにしました。新しい単元に入るときは、その単元の理解に必要な過去の学習内容を整理してきちんと確認をし、多くの単元で必要とされる内容はその単元が終わっても繰り返し演習やテストに出題することで定着を図りました。
子どもたちの学習態度も、授業がわかるようになってくると前向きになってきます。「勉強しろ」と言っても勉強しなかったのは、子どもの問題ではなく教師である私の問題だったのです。教師の一方的な視点でこう教えればわかるはずだ、これをやればできるはずだと学習を強制するのではなく、
子どもの視点で授業をとらえ、子どもの事実を素直に認め、子どもから学ぶことが教師力の基本だ
ということをそのとき学びました。
あんなにして やったのに
『のに』がつくと ぐちが出る
というのがありますが、「子どもたちにあんなにしてやった『のに』という姿勢ではまずいですよ」ということですね。
(2009年12月28日)
●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)
愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「フォーラムin東京」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。
●玉置 崇
(たまおき・たかし)
1979年、教員生活スタート。小学校教諭3年、中学校教諭16年、教頭6年、校長3年、2007年度より愛知県教育委員会義務教育課へ。ICTを活用した授業や学校経営で実績があり、文部科学省発行「教育の情報化に関する手引」作成委員の一人。大学時代には落語研究会に所属。今でも高座に上がりご機嫌をうかがっている。「やってみなきゃ分から ない」をモットーに、「思いついたら、すぐ動き出す」ところもあって、失敗は数知れず。そのくせ、ちょっとしたミスで、いつまでもくよくよ悩むタイプ。眠れぬ夜も多い。
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