【フォーラム記録】私の愛される学校実践発表
- 公開日
- 2011/03/27
- 更新日
- 2011/03/27
活動記録
司会 小牧市教育委員会学校教育課長 石川学
愛される学校づくりは愛する学校づくりから
〜「わたしの木をみつけよう」を通して〜
一宮市立黒田小学校長 平林 哲也
■子どもが「学校が好きだ」という学校をつくる
「愛される学校づくり」は、「愛する学校づくり」からということで考えてみた。
基本的な考え方としては、子どもが「学校が好きだ」という学校をつくること。子どもが学校を愛してくれなければ、保護者の方も学区の方も賛同してくれない。それは地域でも理解してもらえないことになる。子どもが「自分の学校が好きだ」という学校づくりが大事。私たちの立場としては、子どもを愛する学校、どうすれば子どもが輝けるのかを考えていける学校にしたい。そして、保護者地域に情報を伝える学校でありたい。それが最終的には周りから愛される学校になっていくのではないかと考えている。
子どもが学校を好きになる条件は、友達に会える、担任の先生が大好き、授業や行事がとっても楽しい、自分の好きな場所がある、自分を発揮できる場や機会があるなどである。教師の役割は、これらの条件を満たす仕掛けをつくることではないかと思う。たとえば仲間作りはどうしたらできるのか、担任と子どもとの信頼関係をどうしたら作れるのか、分かる授業をするにはどうしていけばいいのか、環境整備はどうすればいいのか、自分が存在できる場所をどう提供するかということである。これらのことを考えていろいろな実践をした。その中の1つを紹介する。
■私の木を見つけよう
本校には百数十本の樹木がある。背の高い木もあれば低い木、いろいろな木がある。学校に通っている子どもたちも全く同じで、どの木を見ても個性豊か。
現在勤めている学校は母校。赴任して最初に出かけた場所は昔よく遊んだ1本のくすのき。その木を見たときに、一緒に遊んだ仲間、先生など自分の少年の日の記憶が次々に蘇った。ちょうど愛知県でCOP10の開催があった。そこで、木と結びつけて活動させることはできないかと考えて植樹をしたり、グリーンウェーブ運動に参加したりして、樹木を通した学びを仕掛けた。
その中で、私の木を見つけようという活動を仕掛けた。百数十本の中からお気に入りの木を1本選ぶ。どの木がいいか、校内を巡って子どもたちは見つけてきた。見つけただけでは意味がないので、「みんなに知らせよう」という仕掛けをした。校長室の前へ写真を掲示し、私はこの木とわかるように吹き出しを作って、お気に入りの木にシールを貼ってみんなに知らせるようにした。一番多いのは桜。シールの色は学年を表し、何年生の子がどの木を気に入っているか一目で分かるようにした。
決めてからいろいろな機会に、私の木を眺め続けようという話をした。観察をしたり、写生会で描いたりした。写真の子は観察日記を書いているところ。これは松の木だが、茶色になって「先生、紅葉しました」と言ってきた。答えるのに困ったが、実は松食い虫に食われて一昨日切った(笑い)。その子を校長室に呼んで、切った幹をどうしようかと尋ね、幹で記念品を作ることにした。思い出を途切れさせないようにしたいと思っている。写生会で描いたり、虫を捕ったりして、自分の木にいろいろなかかわりを持つようになった。今回は木の話だけしたが、学校の中にいろいろな居場所を持てるということが、自己存在感につながっていくと考えている。
■学校ホームページで伝える
ホームページの活用を活用して戦略的な学校広報をめざしている。
(画面:学校ホームページ)これは今日のブログ。学校には7段のひな飾りがある。季節感のある学校にしたいなあと言ったら、保護者が持ってきてくれた。毎年飾って3年目になる。
ホームページには、日々の情報が掲載されている。花便りであるとか、卒業会食であるとか、校長ブログを毎日書いている。これは子どものおばあさんからいただいた電話に対する返事。これをいろんな人に読んでいただいている。
校長だけが書いているのではない。「給食日記」は給食主任、「にんにんクラブ」は栄養士が書いており、調理員もこれに加わっている。これらは毎日書かれる。(画面:松の木)これがさっき言った切った松の木。授業の様子、ボランティアの活躍、インフルエンザの情報などを毎日掲載している。日常の情報発信で、学校は何を考えて、何をやろうとしているかという意味合いが保護者に伝わる。学校の応援団やパートナーになっていただけると考えて毎日実践している。
シンボルをつくって愛される学校に
〜成中ヒマワリロード〜
半田市立成岩中学校長 鈴木 正則
■想い
成岩中学校は、半田市の中心部にある伝統校です。生徒数717名、学級21、職員約40名の学校です。なぜ、本校がマワリロードをつくるようになったのか、そして、ヒマワリロードがどのように子どもたちに浸透していったのかを述べたいと思います。
(画面:ヒマワリロードの写真を提示)
成中ヒマワリロードというのは、写真のように、校庭の土手、ここは草が生えていた場所ですが、ここに777本のひまわりが花を開かせました。ヒマワリロード横の国道を通る運転手、通行する人たちがきれいだと言ってくれました。
私は2009年4月に赴任しました。赴任時は、生徒の自負心、保護者、地域からの信頼が急落した時期でした。命を大切にする心を育てる取り組みをする必要もありました。そんな中での着任でした。
半田というのは大きな祭礼のある地域で、地域の中で人と人のつながりが非常に強い地域です。市民ボランティアも盛んな地域であり、学校の特色としてボランティア活動、中でも地域ボランティア活動の定着した学校にしたいという願いをもちました。その中で、生徒、保護者、地域の気持ちを学校へ向ける取り組みをしたい。「成中はすごいね」と言ってもらえる、「私たちはすごいね」と言える、そして命に関わる取り組み、このようなことを満足させる取り組みにはどんなことがあるのか、4月、5月、毎日、思案していました。伝統的な取り組み、ボランティア、いわれ、目に見えるもの、継続できるもの、生徒が汗を流すもの、一発勝負でないものがいい、そんな観点で考えました。
■ヒマワリロードをつくる
本校は伝統的に「花とあいさつ」の取り組みをしています。花は人目にとまる、誰に心にもすっと入る。花で学校がきれいになる。植物は命の取り組みになる。花の中でもひまわりは本校の校章の花、ひまわりが学校一杯に咲いたらきれいなると考えました。「ひまわりを育てたい」という生徒のアイデアもあり、たくさんのひまわりを植えて育ててみようと決心しました。
■ヒマワリロードをシンボルへ
ヒマワリロードを、どのようにシンボルしていったか。ひまわりの命を生徒の命にたとえたら自分の命、友達の命として育てていくことになる。これを生徒会活動に広げていきたいと思いました。徐々に徐々にやっていく、子どもたちが押しつけられてはいけない。生徒の手と汗と意味づけをしながら、活動がだんだんと全校活動に広がっていったらいいと思いました。
最初は、私と一部の生徒とで植えていきました。子どもたちが委員会活動を開いてもっとたくさん植えたいと申し出てきました。生徒の分だけじゃなく先生の分も、みんなの分植えようとなってきました。生徒と職員の人数分は何本か?たまたま777本。これはラッキーな数字、フィーバーだ(笑い)という話をして、意味づけをしながらPRしていきました。学校通信とか、ホームページとかで逐次広報活動をしていきました。マスコミにも報道していただくことにしました。
■想いと命をつなげる
(画面:生徒がひまわりを植え、世話をし、花を咲かせ、種を採る写真を提示)
苗を植え、草を取り、花を咲かせ、種を取り、子どもたちの想いと命をつなげる。生徒と地域の心にひまわりが根付いていきました。
(画面:生徒の描いたひまわりの絵)
この絵はやらせで描かせたわけではありません。子どもが自分で描いて文化祭に出展したものです。
(画面:生徒の書いた作文)
「ひまわりはどんなときでも太陽に向かって咲かせます。常に上へ上へと育つ向上心、成中はそんな素晴らしい場所であり、成中生はそんなすばらしい生徒です。・・・」。
この作文は「ひまわり時計塔」のデザイン画に添えられたコメントです。絵を描いた子、作文を書いた子たちは1年生なので、ちょうど1年生の時から2年間ヒマワリロードをつくってくれた子たち、その子たちの心にひまわりがある、自負心ができてきたことが絵や作文からわかります。ヒマワリロードは新聞に取り上げられ、地域の人がすごいねと言ってくれました。生徒には、自分たちにこんなすごいことができて、命を育てることができた、命をつなげていくことができたということが誇りになっていきました。
昨年10月、地域から学校の好きに使ってくださいと、多額の寄付をいただきました。時計塔がほしいという声があったので、せっかくだから時計塔をひまわりにしようということになりました。時計塔の名前をひまわり時計塔と名付け、ひまわり時計塔のデザインを全校生徒に募集し、生徒が描いたデザイン画元に、設計図面を画いてもらいました。
(画面:生徒が描いたひまわり時計塔のデザイン画と実際の設計図面)
こういう形のひまわり時計塔が本校の正門入り口にできます。まさに地域からのプレゼントです。地域の方からプレゼントいただいたのは、少しずつ取り組みを認めてもらったおかげかなと思っています。地域から「文句は言わない。お金は出してあげる」といつも言ってくださる。いい意味で地域と保護者が学校の応援団になってくれています。
愛される学校づくりは
特色ある学校づくりから
春日井市立味美中学校長 堤泰喜
■めざす生徒像
本校は生徒数275名、学級数10学級、春日井市でもっとも小さな中学校。純朴で素直な生徒が多いが、人間関係づくりがうまくできない、自ら主体的に判断して行動する生徒が少ないという実態がある。
平成20年度から研究実践をする際の「めざす生徒像」を3つ決めた。
キーワードは、「主体的な生き方を追究する」、「夢や目標を持つ」、「段取りよく課題追究する」とした。
総合的な学習の時間を改良して、めざす生徒像につなげていきたいと考えた。総合的な学習の時間にすることを2つ決めた。
1つは探究学習。キャッチフレーズは、「すべては、子どもたちの『知りたい』から始まる!」
もう1つは夢授業。キャッチフレーズは、「『本物』との出会い!『本物』に耳を傾ける!そこから『夢』が膨らんでいく!」これによってめざす生徒像に迫っていきたいと考えた。
■探究学習
探究学習は、1年生から3年生までの縦割り班で、協同的な課題追究学習をする。テーマ及びテーマへの迫り方を決定、体験活動による情報収集、情報の整理・分析、まとめ・表現につなげていくという流れを約半年間のスパンで行う。
テーマと班の決め方について述べる。4月に全校生徒を集めてガイダンスを行う。「自然科学」から「スポーツ趣味」までの7ジャンルから希望調査を行う。例えば、自然科学に希望した子は、1年〜3年まで全学年いるが、自然科学といっても宇宙や生命などいろいろな領域がある。集まった生徒たちと先生とで、どんなことを追究していきたいか話し合いをし、そのグループをテーマ1とテーマ2に分ける。テーマ1に対して1人の教員がつく。テーマごと1つの教室に入り、テーマに迫るためにどんなアプローチをしていけばいいのか話し合う。迫り方を3つに分けて、1つのグループは6人から8人の班で探究していく。テーマは、教科横断的、基礎的な知識の必要性を実感できるもの、体験活動が可能なもの、学び方を獲得できるものである。例えば、平成21年度の探究学習は14のテーマを作り上げた。個人的には、「日本人にデザインセンスはあるか」というテーマはなかなかいいと思っている。平成22年度は15のテーマを作った。特に、「マイケルジャクソンは“KING OF POP”と言えるか」はおもしろいと思った。このテーマに基づいて子どもたちは探究をしていく。
例えば、「春日井市は魅力的な街と言えるか」というテーマに対してどのような迫り方をしているかということだが、地場産業を調査して迫るグループ、安全面を調査して迫るグループ、交通から迫るグループがあった。それで魅力的な街と言えるかどうか、結論づけることになる。
どのテーマに対しても体験学習を重視し、次のようなことを行った。
「春日井市は魅力的な街と言えるか」、JR勝川駅前でアンケート調査を行った。
「ロボットは人間を超えたと言えるか」、名工大でロボットの専門家に聞き取り調査を行った。
「人はどんなときに癒されるか」、ハーブ、お茶の実験で癒されるか試した。
「マイケルジャクソンは“KING OF POP”と言えるか」プロのダンサーを招いて、マイケルはいかにすごいかということを実体験した(爆笑)。
「すもうは日本の国技と言えるか」、地元出身の十両力士を招いて実体験した。
「人間は音楽を聴くとどうなるか」、老人に音楽を聴いてもらい、聞き取り調査した。
「だれでもイチローになれるか」、イチロー記念館でイチローの父から聞き取り調査した。
これらの情報収集を経て、結論をポスターにまとめ、ポスターセッションを行う。この中間発表後にさらに練り上げて、本発表を行う。プラズマテレビICT機器を利用して発表する。「1日学校参観日」の午後、保護者に参観してもらい鋭い質問をいただいた。保護者を巻き込むことが「愛される学校づくり」につながると考えている。
■夢授業
次に、「夢授業」について。
社会の第一線で活躍している方、最新の技術開発をされている方などをお招きし、講演していただいている。子どもたちは本物に出会ったときに感動する。感動が目標に向かって一歩を踏み出す力になる。
子どもたちは、「実行委員会」を組織し、自分たちで企画運営をして授業を作っている。2時間の夢授業の流し方、当日までの準備、司会・講師紹介・お礼の言葉などすべて子どもたちで行う。
芥川作家、女子カーレーサー、脳科学者の茂木健一郎氏、金メダリストの吉田沙保里氏などがきてくださった。子どもたちは講演を聞いた後で、作文を書く。
「夢授業」は、PTAの「ふれあい教育セミナー」との共催で行っているため、毎回保護者が大勢来てくれる。保護者を巻き込むことが「愛される学校づくり」につながると考えている。
子ども、保護者、地域に信頼される学校をつくるためには、子どもが生き生きと活動する場、夢を育む場所をつくること。どんな子どもを育てたいのかというビジョンを持つことが大事。
取り組みは手段でしかない、目標ではない。続けていく中で、愛される学校づくりを推進することが大事である。