モラルBOX日記

【長久手市立北中】 指揮者の背中

公開日
2016/03/04
更新日
2016/03/04

ちょっといい話

 本校では、文化祭で合唱コンクールを実施している。私のクラスではクラス合唱の指揮者を歌声のバランスを考え、女子よりも人数の多い男子の中から選出することになった。しかし、誰も立候補する者がおらず、しばらく各々で考えることになった。すると、次の日、A君が「先生、初心者ですけど、僕、指揮者やります。」と言い出した。A君は運動は得意だが、音楽は苦手としていた。私は「指揮を振った経験がないとかなり大変だと思うけど大丈夫か。」と言った。A君は「確かに音楽は苦手です。けど、いい経験になると思いますし、誰かがやらなければいけないと思うので僕がやれるならやりたいと思います。」と答えたのだった。クラスでA君が立候補したことを伝え、指揮者に決定した。
 その後、合唱練習が毎日行われるようになった。A君は事前に楽譜を読み込み、何度もCDを聞きながら指揮の練習をしていた。しかし、毎日の合唱練習の時間だけでは明らかに足らなかった。そこで、A君は朝早く登校し始業前や昼休みを使って自主練習を行うようになった。分からないときは伴奏者の女子生徒にアドバイスを聞き練習に取り組んだ。すると、次第に伴奏者の生徒も一緒になって練習するようになり、また周りで見ているだけのクラスメイトたちも混じって歌いながら練習するようなった。クラス全体がA君の努力の姿を見て、「僕も!私も!」と真剣に取り組む雰囲気に変わっていった。
 合唱コンクール本番。A君は直前まで緊張していた。私は「あれだけ練習してきたのだから自信をもってやればいいよ。」と言って送り出した。本番では堂々と指揮を振ることができた。A君は「少しミスをしてしまったのが残念だった。みんなに申し訳ない。」と反省していた。
 後日、生徒たちが書いた合唱コンクールの感想文には「A君が毎日、休み時間などをつぶして練習してくれたから良い合唱になった。」「A君がクラスの雰囲気を変えてくれた。」「自分も歌うことが苦手なので、来年はA君のように指揮者としてクラスのために頑張れたらと思います。」などというコメントがたくさんあった。
 A君の感想文には、「苦手な分野に挑戦することは正直不安や心の迷いがあった。少しでもクラスに貢献できていたならうれしいです。」というコメントが書かれていた。クラス全体が思いやりの尊さを理解し、協力し合い、共に高め合う姿勢を示してくれる出来事だった。