【愛西市立立田中】 階段上り
- 公開日
- 2015/10/28
- 更新日
- 2015/10/28
ちょっといい話
10月のある雨の日曜日でした。この雨で野球部はグランドで練習ができません。体育館も補修工事の為、室内用ボール使ったバッティング練習もできません。
そこで校舎内に移動をし、階段の上り下りを行うことになりました。これは、雨天時で、他の部活動との兼ね合いから体育館も使えない時に行う下半身強化の練習です。普段は、最上階の3階まで一段ずつ駆け上り、下りてくる、これを一本とし、30本程度行います。しかし、この日は時間がたっぷりあります。そこで、100本に挑戦することになりました。階段上り100本を行うにあたり、「事前に水分補給をしっかり行うこと」「必要に応じて適宜、自分で水分補給を行うこと」「他と比べるのではなく、自分のペースでやり切ること」「体調が悪くなった時は、途中でやめること」ということを伝え、スタートをしました。
主将を先頭に階段に足音と「○本目!」という元気な掛け声が響き渡ります。初めのうちは、同じようなペースで進んでいたものが、10本目あたりから、ばらけてきます。速いペースを刻む者,疲れから遅れてくる者、速くはないが着実に自分にペースを守る者、個性や、脚力、気持ちの揺れ、さまざまなことがこの単純な階段を上り下りに表れてきます。
その中でA君という生徒がいます。彼は、喘息をもっています。野球部に入部してからの体力づくりのランニングでは、いつも喘息の発作が出そうになり、なかなか走ることもままならない状態でした。当然、階段上りも、たいてい十数本あたりで苦しくなり、途中で限界がくることもしばしばでした。そんなA君ですので、今日も「自分のペースで無理をしないように」と声をかけました。実際にその日も、20本あたりで喘息の発作が起こってきます。汗が滴ります。息が上がります。今日のような雨天時は、喘息が出やすい気候です。「無理をせずに休むよう」に伝えましたが、A君は決意をしたように前を向き、その歩みを止めません。一段、また一段と階段を上っていきます。先頭集団とはかなり遅れをとっていますが、そんなことは関係ありません。今までの自分の限界値であった30本を超え、さらに、また一段また一段と積み上げていきます。いつしか、A君の顔には、生気が蘇り、喘息特有の荒い息遣いもなくなっています。半分を過ぎ、後半に突入します。A君の本数が70本に差し掛かった頃、他のメンバーは次々にゴールしていきます。80本を過ぎると、全員がゴールし、残るはA君一人となりました。他のメンバーは、100本をやり切った達成感に上気した顔をほころばせながら、仲間とお茶を飲み、汗をぬぐい、談笑をしています。そんなことに目もくれず、A君はたった一人で上っていきます。
その時でした。気が付くと、既に100本を終えたはずのB君が、A君と階段を上っていきます。A君を笑顔で励まし、寄り添うように登っていきます。
2時間が過ぎ、A君は100本を達成しました。他の生徒にとってこの階段上りは、トレーニングの一環だったのかもしれません。しかし、A君にとっては、己と戦い、過去の自分の限界を超え、新たな自分と出会うんだという挑戦であったように思います。やり終えたA君の顔に浮かんだ晴れ晴れとした笑顔が何よりそれを物語っています。また、A君のそんな想いを受けて、120本をやりきったB君のさり気ない優しさにも心を打たれました。