モラルBOX日記

【豊橋市立豊小】みんなで決めたの

公開日
2013/09/26
更新日
2013/09/26

ちょっといい話

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もう十年以上も前の話です。一年生のあるクラスにAさんという少し足の不自由な子がいました。普通に歩くには、ちょっと遅いくらいで、それほど不便な様子は感じられませんでしたが、長い距離を歩いたり、速く歩かなければならないときは、どうしても友達に遅れをとってしまいました。朝の通学班の登下校や体育の時間などでは、友達に待ってもらうことがたくさんありました。Aさんのおかあさんは、友達に迷惑がかかることをとても気にされていて、
「Aは、車で通学させた方がいいのではないでしょうか。」
というようなことを時々連絡帳に書いてきました。
学校でも、担任の先生はちょっと気になることがありました。それは、時々Aさんのことをよく知らない子どもたちが、
「Aさんどうして、普通に歩けないの。」とか、
「Aさんの足なんでへんなの。」
などと、Aさんに面と向かって尋ねる子がときどきいたからです。でもAさんは、そのような質問にも
「病気だからだよ。」
と明るく答えていました。やがて、いつのまにかAさんにそんな質問をする子はいなくなりました。
一年生も半分過ぎたころ、秋の遠足がありました。目的地は、学校から2キロメートルほど離れた公園です。Aさんには、少し長すぎる距離でした。そこで、お母さんと相談して、歩けるところまでは歩き、無理になったら、教頭先生に車で連れて行ってもらうことにしました。
遠足の日になりました。子どもたちはリュックサックにお弁当やお菓子をつめて楽しそうに登校してきました。Aさんも、リュックサックと水筒をもって元気よく登校してきました。
「出発します。」
という合図とともに、子どもたちは学校を出発しました。しばらくして、担任の先生はびっくりするものを見ました。なんとAさんのリュックサックと水筒をクラスの子どもが抱えて歩いているのです。担任の先生が様子を見ていると、Aさんのリュックサックと水筒は、しばらく歩くと別の子、しばらく歩くとまた別の子というように、子どもたちの間を次々とまわされていったのです。それはとても自然で、楽しそうにさえ感じられました。
担任の先生が、子どもたちに、
「だれが、こんなことを考えたの。」
と聞くと、子どもたちは、
「Aさんは足が悪いから、みんなで順番に もってあげようって前から決めていたの。」
と言うのです。その中には、ずっと前に
「Aさんどうして普通に歩けないの。」
とAさんに聞いて、担任の先生をドキッとさせた子もいました。いつもAさんと仲のよい子も、あまり遊んでいない子も、男子も女子もみんないました。
 それからも、ずっとAさんのリュックサックと水筒はクラスの友達のあいだをまわって、ついに目的地までついてしまったのです。
目的地に着いてからは、Aさんも子どもたちも、みんなお弁当と遊びに夢中で、だれもAさんのリュックサックのことを気にする子はいませんでした。まして、担任の先生が、涙を流すのをこらえてお弁当を食べていたなんて絶対に気がつくはずがありませんでした。
でも、担任の先生は、「この子たちに出会えて本当によかった。」と心の中で何度も何度も呟いていたのです。
もう十年以上も前の忘れられないちょっといい話です。