モラルBOX日記

【豊橋市立豊南小】アイガモのいのち

公開日
2013/02/12
更新日
2013/02/12

ちょっといい話

 しばらく前の話になりますが、いくつかの学校で「いのち」について考えさせようと校内で家畜を飼い、最後に飼っていた動物の命をいただいて食べるという取り組みがなされ、論議を呼んだことがありました。
 わたしたち人間がいつも食べているものは、確かに生き物の命に他ならず、このことをじっくり考えることは大切なことです。しかし、心をかけて育てた動物の命を自ら奪うことには釈然としないものを感じるのもまた当然で、賛否両論ありました。
 さて、農業の盛んな地域にある本校は、校内に水田をもち、毎年5年生が米作りをしています。5年生は先輩たちより少しでも多くの米を作ろうと工夫と努力をします。今年の5年生は、アイガモ農法で収穫量を増やそうと考えました。
 4月。アイガモ農法について調べ始めた子どもたちにさっそく難問がのしかかりました。水田の雑草を食べ、同時に稲に有機肥料を施してくれるアイガモは米作りには大いに役立ちます。しかし、アイガモ農法に取り組んでいる農家では、役目を終えたアイガモは食肉にしてしまいます。大きく育ったアイガモは、稲と稲の間を通れないし、稲自体を食べてしまうこともあり翌年また使うことはできないからです。子どもたちにとっても、アイガモ農法に取り組むということは、その後始末もするということです。
 アイガモ農法に取り組むかどうか。5年生の話し合いは、何日も続きました。担任のA先生は、子どもたちの話し合いが確かな見通しをもったものになるように学校の施設担当者や米作りの指導をしてくださるボランティアの方々、食肉加工の会社など、あちらこちらへ問い合わせや交渉をしつつ話し合いを見守りました。命について真剣に考えるあまり泣き出す子や、こういう経験をしてしまうことによって将来肉を食べられなくなることが命を大事にすることなのかと訴える子もいました。最終的に、アイガモ農法に取り組み、最後は命をいただくというこたえを出した子どもたちにA先生は言いました。
「命は尊いものです。アイガモの命をいただくかどうかを話し合いで決めることも、それが本当に正しいと言えるかどうかわかりません。ただ、5年生のみんなが命について真剣に考えた経験は、人間としての大きな学びになったはずです。これからも命を大切にするということはどういうことなのか考え、命を大切にする人間になっていきましょう。」

 平成25年2月。稲株が並ぶ田んぼに氷が張った。飼育小屋では、5年生が手を赤くしてそうじをしている。その傍らで、成長したアイガモがタマゴを温めている。