【瀬戸市立品野台小】人権週間に行われた全校朝会「できなかった宿題」
- 公開日
- 2014/11/26
- 更新日
- 2014/11/26
ちょっといい話
人権週間に行われた全校朝会での、校長先生の話を紹介します。
先生が、小学生だったときのお話です。
席替えで、ぼくのとなりには、渡辺さんという女の子が座りました。渡辺さんはとてもおとなしい、まじめな女の子でした。
ある日、算数の時間に担任の先生が、「宿題でやってきたノートを開きなさい。」とおっしゃいました。何人かの子は、「やってありません。」「ノートを忘れました。」と手をあげました。その子たちは、先生にしかられました。そのとき、ぼくがふっととなりのつくえの上をみると、渡辺さんも宿題をやっていませんでした。けれど、渡辺さんは忘れた人と一緒に手を挙げていませんでした。ぼくは、「あれ、渡辺さん忘れたんじゃないの?」と思いました。
次の日、先生が「宿題を開きなさい」とおっしゃったとき、渡辺さんはまた、やってきていませんでした。でも、先生に「忘れました。」と言いません。ぼくは、心の中で「渡辺さん、ずるいな。宿題やってないのにだまってて。」と思いました。
何日かたったある日、また同じようなことがありました。宿題を忘れた人がしかられているのに、渡辺さんは宿題をやってきていないし、先生にも言わないのです。ぼくは渡辺さんに言いました。「渡辺さん、忘れた人は手をあげるんだよ。」それでも、渡辺さんは下を向いたままでした。ぼくは、学級委員だったこともあり、先生に思い切って言いました。
「先生、渡辺さんが宿題をやってきていません。」
すると、先生は渡辺さんのところにやってきて、「渡辺さん、宿題やっておこうね。」と小さな声で言っただけで、行ってしまいました。ぼくは、その後渡辺さんに、「渡辺さんは、忘れたのにしかられなくていいよな。」といやみを言ってしまいました。
次の週、渡辺さんは学校を休みました。ぼくは、「ぼくが宿題のこと、先生に言いつけたのがよくなかったのかな。」と思っていると、先生からクラスのみんなは、渡辺さんのことを聞かされました。渡辺さんはお母さんと二人暮らしだったこと、そのお母さんが先週からだまっていなくなってしまって、渡辺さんは一人きりになってしまったこと、今週から施設に行くために転校したこと。そんな話でした。
ぼくは、「しまった。」と思いました。「渡辺さんはそんな大変なことがあったのに、最後の思い出で、がんばって学校に来ていたんだ。宿題どころじゃないよ。ぼくはなんてことを言ってしまったんだ。」と自分をせめました。でもあやまりたくても、渡辺さんはもういません。とてもくやまれました。
しばらくして、渡辺さんの住所をクラスの女子から聞きました。ぼくは生まれて初めて手紙を書きました。今ではもう内容をはっきり覚えていませんが、「ひどいこと言って、ごめんなさい。」ということだったと思います。「私たちも手紙を出したけど、返事はこないよ。」とクラスの女子が言っていました。でも、ぼくには渡辺さんから返事がきたのです。「気にしなくていいよ、おたがいがんばろうね。」ぼくは、むねが熱くなりました。